選ばれた聖女様
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嬉しかったです!ありがとうございます!
更新も不定期で文才もないので、読みにくいとは思いますが、最後まで書ききるつもりです。
どうぞ気長にお付き合いください。
よろしくお願いします。
「して、聖女様はどなた様なのでしょうか?」
王子は改めて、私達の顔を見回した。その時初めて私と目が合った。
真っ直ぐとこちらを見つめるその目を無言で見返したけれど、すぐにその目は他の人へと移って行った。
「せ、聖女様って、何なの・・・・っ?」
動揺して振るえた声が、神殿らしきこの場所に響き渡った。
今にも泣き出してしまいそうなその声の持ち主は、高倉さんの右隣に立っていた少女。
確か、名前は江藤 千里。高倉さんといつも一緒に居る子だった気がする。茶色っぽい髪の毛は肩ぐらいで切りそろえられて、ボブになっている。大人しそうな容姿に違わず性格も見た目に沿っている子。
「そうよ。急にそんなこと言われたって私達には分からない。」
江藤さんの言葉を引き継ぐように、堂々と言い放ったのは高倉さんの左隣の少女。見た目は一見不良っぽくて、性格も強気なところがある子。
彼女の名前は坂川 優希。短めの金髪はそこら辺に居るギャルと変わらないのに、誰からも好かれてる子で人によって差別なんてしたりしない。友達も多い人気者だ。
「・・・・2人とも、喧嘩腰はよくないよ?ちょっと落ち着こう?」
そして、2人を諭すように言葉を掛けるこの中で一際目立つ少女。
高倉 雛。腰辺りまで伸ばされた真っ黒な髪の毛は艶が掛かっていて、ピンと真っ直ぐでクセ毛なんて見当たらない。それどころか光を受けて輝いている。
学校の女神だなんて呼ばれるのも全くもって頷ける。
3人ともそれぞれジャンルは違えど、美少女と言える部類だ。
そう考えると、自分の容姿を思い出して少し悲しくなってくる。
私の顔は平凡な部類に入る顔で、髪の毛も現代の日本では珍しくもない焦げちゃ。純日本人の黒髪でもなければ、ヨーロッパ辺りに多い綺麗な金髪でもない。
強いて言う特徴といえば、目の色だろうか。トキがたまに金色に見える、なんて言うこともあったこの目は、普通の人よりも少し色素が薄い目だ。光の加減で金色に見えることだってある。
でもまぁ、それ以外はいたって普通の人間。それが私である。
そう考えていたとき、高倉さんがおずおずと口を開いた。
「聖女様、ってどういうことですか?きちんと説明していただかなければ私達にもどうしようもありません。」
恐らく眉を下げて可愛らしい上目遣いになっているであろう高倉さんの表情を見たのか、王子は少しその頬を染めている。やはり美少女はどんな世界でも通用するものだ。
「聖女様、というのはこの王国にはびこる魔を清浄化することのできるお方です。」
「”魔”?」
『魔』、それはこの世界だけにあるものじゃないってトキが言ってた。
『あれはどこにでもあるものだ。ま、ほっといても消えるものとかがほとんどだけどな。極稀に消えにくい世界もあるらしい。増えれば増えるほどあれは害になる。』
昔から見えていたソレをトキは”闇”と称していた。この世界では”魔”と呼ばれるようだけど。
トキの言うように、ソレは特に害をもたらすわけでもなくただそこら辺を漂ってるだけ。でも、見える人にしか見えないものらしくて、周囲には見えない何かを見つめてるようにしか見えないらしい。
この世界はもしかしたら、トキの言う”消えにくい世界”なのかもしれない。
そう考えながら、王子が話している言葉を右から左に聞き流していた。
大体は理解できたし。聖女様の清浄化の力とやらでこの王国を救って欲しいとかなんとか。ま、私は聖女なんて大それたものではないから、ここでは無視を決め込むけど。
「うーん・・・聖女か・・・私達に心当たりはないけど、」
「しかし、清浄化の力を持つ者を召還するように組まれた魔術ですから。皆様の中の誰かひとりは必ず聖女様なのです。」
その王子の言葉に、江藤さんと坂川さんは真ん中に居る高倉さんを見た。
「強いていうなら、ヒナよね?」
「えぇっ!?私!?」
「学校でも女神って呼ばれてるもんね。」
2人の言葉を聞いて、困ったように高倉さんは王子を見つめた。
「あなた様の、お名前は・・・・?」
「高倉、雛です・・・。家名が高倉で、雛は親から貰った私の名前です。」
王子の外人さんっぽい名前を聞いて、一応説明する高倉さん。
その言葉を聞きながらも、やっぱり頬を染めて高倉さんを見つめる王子。
なんだこれ。見てるこっちが恥ずかしい。
そう思っていると、江藤さんや坂川さんがちゃちゃっと王子に対して自己紹介を終えてしまう。私、後ろに居るんですけどー。
言い出すタイミングを見事に失ってしまったまま、私は3人の背後に立ちすくんでいた。
いっそ盛大なため息でも吐いてやろうか、と思案していた時だった。
チカ、と視界の隅に何かが光った気がして少し目を細めた。
太陽の光かとも思ったけど、よくよく見れば光っているのは建物の隅のほうだ。
それが何なのか、目視した瞬間に私の体は動いていた。
鋭く光るソレは、よく日本史とかの戦の絵で見かけたことがある。
その的にはしっかりと高倉さんが入っている。
「雛、」
短く高倉さんの名前を呼んだのは坂川さん。
彼女もソレに気づいたらしいけど、その言葉が高倉さんに伝わる前に私は高倉さんの背中を思いっきり押した。
危ない、と叫ぶ暇もなくて。
今にも飛ばされそうな弓矢を睨みつけたまま、ただ高倉さんの華奢な体を押した。
「きゃ、」
短い悲鳴が少し聞こえたけど、無事に下に居た王子が受け止めてくれたらしい。ナイス。
弓矢を向けていた奴は、気づかれていると分かるとすぐにコソコソと退散して行った。
逃げられたことに舌打ちしたいような気分だったけど、前を向いてそんな気持ちも吹っ飛んだ。
「・・・・・え?」
私に向けて、何本もの剣が向けてある。
今にも切りかかってきそうな雰囲気で、騎士らしき人物達は私のことをにらみつけている。
高倉さんを見ると、王子がまるで私から隠すみたいに背中に守ってた。
あれ?あれあれ?
「聖女様に無体を働くとは何事だッ!今すぐにこの無礼者をひっとらえよ!」
体が強い力で押さえ込まれた。
あれ?おかしくない?
口から出るはずの言葉は、思いのほか混乱してるせいで上手く出てきてくれなかった。
体の自由を奪われたまま、私は騎士達に連行されていく。
視界が奪われる直前、同じくキョトンとした坂川さんと目が合った気がした。