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魔法使いのお友達  作者: 雨夜 海
16/65

焦りと不安

小さな決意をした私に向かって、水の入ったグラスが差し出された。丁度目が覚めて喉が渇いていたのもあって、グラスの中身を一気に煽る。


「お前が起きたら、聞きたいと思ってたことがたくさんあるんだ。あと、報告しなきゃいけないこともあるしな。」

「報告?」

空のグラス片手に首を傾げていると、手からグラスが奪われてまた水の注がれたグラスが返ってくる。オズワルドさんはさっきまで優希ちゃんが座っていた椅子に腰掛けて、紅茶を飲んでいた。

そういえば、この水や紅茶はいったい誰が入れてるんだろ。ふとした疑問でオズワルドさんの後ろに居る人物を見つめる。


中世ヨーロッパではいかにもありがちなメイド服を着て、凛とした姿勢で茶菓子を用意している。

「あぁ、彼女は報告の1つでな。ついこないだからお前の専属侍女になった。本人たっての希望で、何でもお前に命を救われたらしいが・・・・・心当たりは?」

不安げな顔で私の顔色を窺うような少女。その髪の毛は明るいところで見ると、”黒髪”ではなく”深い緑色”。それでも”黒髪美少女”にも劣らない愛らしさ。


えぇ、そうですとも。心当たりしかないですとも。


グラスの水をまた一気に飲み干して、近くの机にグラスを置いた。やばい。手が震える。この子って・・・・あれだよね。私がドラゴンの火の玉から助けた女の子だよね。つまり死神の力を近くで見ちゃってるわけで、あの時は現実逃避で逃げ切ったけども今回はそうはいかないわけで。


あ。これ詰んだな。

私は乾いた笑いを浮かべたまま、私の専属侍女さんと目を合わせた。そういやこの子メイド服着てたなー。あはは、この子に力のこと告発されたら私この世界で殺されちゃうかもしれないんでしょ?あっはっは。生きることを諦めないってさっき誓ったのにすぐに生命の危機に瀕しちゃってるんだけども。

なんといってもここにオズワルドさんが居るっていうのが一番のアレだなー。

侍女さん1人ならまだなんとかなったかもしれないけど、さすがにオズワルドさんはまずいかもなー。魔法使いってこの世界でどういう扱いなのか知らないけど、さっきから全然王子にも雛さんにもへつらったりしない辺りを見ると、上の人間っぽいっちゃっぽいよねー。


私は半笑いのままオズワルドさんに視線を戻した。侍女さんの深い緑色の目は私が今考えてることまで見透かしてしまいそうで、なんだか少し焦ってしまった。

侍女さんとも目をあわせられず、オズワルドさんの目を見ることも出来ず。私はいよいよ見つめる所もなくなり、ただ膝の上に視線を落とした。

きゅ、と小さく掌を握ったまま声もなく私は黙り込んだ。私は嘘をつくのがあまり上手くない。むしろへたくそだ。だったら下手な墓穴を掘らないほうがいいだろう。


「お、覚えてらっしゃらないですか?」


か細く不安そうな声が私まで届いた。小さく震えながらも、しっかり芯の通ったその透き通るような声は、雛さんにも負けてないような美声だ。自分の肩がピクリと震えたのが分かった。


「・・・・・お、覚えてる。妹さんは怪我なかった?」

結局私には嘘なんて向いてないのだろう。あっさりと言葉を返しながら、小さな笑みを浮かべてみせた。

「は、はいっ!無事です。少し火傷してしまいましたが、それでも大怪我には至らなくて。本当に、ありがとうございました!」

嬉しそうに花が咲いたような顔で笑顔を浮かべた後、私に向かってぴったり90度の礼をする。

「あ、頭上げて!あれは咄嗟に私がやったことだから!あなたが何も気にすることは無いの。」

必死に言い張るようにそう言うと、侍女さんはゆっくりと頭を上げて笑った。


「ステラです。ステラ=イルシェラといいます。ステラとお呼びください。あなたは私の主ですから。」

ステラ。素直に綺麗な音だと思った。

「すてら。ステラ。綺麗な名前ね。私好きよ。」

綺麗な音。透き通るような、そんな名前だと思った。素直にそう言えば、ステラは嬉しそうに頬を赤らめて笑った。名前で呼ぶっていうのは慣れないものだけど、私はステラの主に当たる人間だ。この世界でそうなるのであれば、私はそれに従わなきゃいけないのだと思う。

少なくとも、トキと訪れた他の世界ではそうだったから。


「私もヒヨリ様のお名前好きです。なんだか温かい太陽みたいな音をしてます。あのドラゴンの熱は凄く怖かったけれど、ヒヨリ様が未知の力であれを防がれた時、私はもうヒヨリ様の背中に太陽のような大きな力を感じたのです!」


空気が、凍りついた。


”未知の力”、”大きな力”

オズワルドさんの目が、少し動いた。


私の居場所は、この世界には作れないのかもしれないな。


悲しいけれど。受け入れられないのなら、きっとしょうがないのだろう。

あぁ、でも。

「友達に、なりたいと思ってたの。」

それだけは本当だったから。


ぶわりと風が巻き起こるようにして私の体に掛かっていた布団が吹っ飛んだ。

布団の下にあった影が私を包むようにして布団を跳ね上げた。丸いシャボン玉のようなそれは見た目ほど弱くはないと直感的に分かる。不安定なベッドの上に立ち上がりながら、シャボン玉が全身を覆ったのを確認する。


きっと、ここには居られない。


手を目の前にかざせば、オズワルドさんの喉元に鋭い黒い刃がシャボン玉から突き出る。今にも突き刺さりそうなそれに少し動揺しながら、気を抜かないようにしてオズワルドさんを見つめた。


「裏切ったって言えばいい。災厄だって、言えばいい。でも、私は最初からこうするつもりはなかったの。ここで穏やかに暮らせれば、それも良いって思ってた。」


暮らしながら、元の世界に帰る方法を模索することだって出来るって思ってた。


「でも。私は。元の世界に帰りたい。これを達成するために、私はこの世界に縛り付けられるわけにはいかない。捕まるわけにはいかない。この力がいくら災厄のものだとしても、この力をくれたのは私の大切な友達だから。私は自分の力を、存在を、悪いものだなんて思いたくない。」


オズワルドさんに少し動揺を与えた後、この部屋からすぐに逃げ出すつもりだった。窓は見えるところにあったし、オズワルドさんに危害を加えようなんて毛の先ほども思ってなかった。


「思ってない。」


ぎゅ、と黒い刃をオズワルドさんの手が握った。その手から真っ赤な血が滴り落ちて、ベッドの上にシミを作る。


それでも、彼は笑っていた。


「ヒヨリの存在を悪いものだなんて思ったことは無い。何者なのかと疑ったことは確かにあった。けど、ヒヨリの話を聞きもしないのに、あーだこーだ言うのは俺は間違いだと思うから、俺はヒヨリが起きるのを待っていたんだよ。」


体からストンと力が抜け落ちるような感覚がして、ベッドの上にそのまま座り込んでしまった。緊張が一気に体から抜けていった感じだった。


思ってない。って、言ってくれた。

エリオスの力を見ても、オズワルドさんは笑ってそう言ってくれた。それは今の私にとってはとてつもなく大きな救いで。

ぱちんと小さな音が弾けて影は元の場所へと引っ込んでいった。足からは完全に力が抜け切っていて、今何かやられたら死神の力であろうと私は殺されてしまう自信があった。

しゃぼん玉のなくなった私にオズワルドさんが手を伸ばした。


「ヒヨリ。おかえり。」


今の私が帰ってくる場所は、結局ここで。それは逃げようの無い事実なんだろう。


「・・・・・・・ただいま、帰りました。」

ぽつりと呟いた私の頭を、オズワルドさんがわしゃわしゃと撫でた。感情が大きく揺らいで、さっき泣いたっていうのにまた涙が零れ落ちそうになった。

待っててくれた。

私が帰るのを舞ってくれてた人がここにも居た。


それがどれだけ私を救うのか。


「ヒヨリ様、私、」

青い顔をしたステラが駆け寄ってポロポロと涙を零した。言葉を口にしようとしてはただ口をパクパクと金魚みたいに動かしただけで終わる。

「いいの。・・・・いいんだ、ステラ。」

きっと、今を逃したら私はずっと皆から隠し続けることになるだろう。嘘をつくのが下手な私にそんなことはきっと出来ないから。それなら先にばらして腹をくくろうじゃないか。


だから。

「オズワルドさん、あなたに聞いて欲しい話があります。」

涙を拭って、しっかりと目の前に居るオズワルドさんの瞳を見つめた。その瞳は色素が薄いけれど、頭は真っ白なオズワルドさんのわりに、深い青色をしていた。


「あぁ、聞くよ。」


私をどうか、受け入れてくれますように。

心の中で呟いた声。私の中で不安でゆらゆら揺れる心。その願い。どうか、叶いますように。



「私ね、死神と友達になったの。」


私の話、聞いてください。



それから私は話した。ヒーローになりたいと願ったこと。小さなドラゴンの命を救えなかったこと。一度死にかけたこと。そこで死神のエリオスと出会って命を救われたこと。エリオスと友達になったこと。その力を共有できることになったこと。


元の世界へ戻りたいこと。


話し終わる頃にはまたステラが水の入ったグラスを差し出してくれた。それで喉を潤しながら話を聞き終わったオズワルドさんの顔を見た。

オズワルドさんは何かを考え込むような難しい顔をして視線を少し下に落としていた。

この場所で、私は生きていけるのか、いけないのか。それが今の私にはとても重要なことなんだ。


「ヒヨリが契約したのはおそらく死神で間違いない。その力の特徴からしてもそうだし、それは人が簡単に持てるような力ではないことは確かだしな。」

「・・・災厄の力。」

エリオスがそんなことを言ってた気がする。災厄の力。それでもこれは私の命を繋いでくれた力。

「・・・・・・・オズワルドさんはこの力を”災厄の力”って呼ぶの?」

不安にかられて思わず問いかけたその言葉に、オズワルドさんは少し困ったような顔で笑った。


「確かに、今までの歴史の中で死神の力は神の中で闇に近い力だと言われていたからな、一般的に考えるとその力はそう呼ばれかねないが・・・・・でも、それはヒヨリの大切な”友達の力”なんだろ?だったら、それ以上でもそれ以下でもない。」

「友達、の力。」

そう、私の友達の力。エリオスの力。否定したくないしされたくない大切な力なんだ。

否定しないでいてくれるオズワルドさんは優しい。他の人が皆オズワルドさんみたいだったらいいのに、なんてあり得ないことを考えて少し悲しくなった。

だって、あり得ないでしょ?闇に近い力だと呼ばれるくらいなんだもんね。

確かにエリオスの力は闇に耐性があるけれど、それが闇に近いと言われてしまうような理由なんだろうか。そんな容易な理由なのかな。エリオスは魔王なんかじゃない。ただの死を司る神様だ。


「やっぱり、隠すしかないのかな。」

「・・・・・そうなるだろうな。なんだかんだと理由付けられて否定されるのがオチだろう。今は光である聖女様を国では祭り上げてる真っ最中だからな。その最中に間反対とも言われる死神が出てくるのは少々マズイものがある。ま、最悪処刑される可能性すらあるしな。」


しょ、処刑でございますか。やっぱり隠すしかないよね。エリオスには元々そう言われてたからそんなにショックとかもないけど。


「ね、ねぇ。聖女様ってやっぱり雛ちゃんのことだよね。」

「あぁ。お前が牢に運ばれた後正式に聖女としての力が認められた。そういうものを調べる魔法具があってな。」


やっぱり。あの時雛ちゃんを中心に光が広がった気がしたんだよね。


「それと・・・・、それとな。」

「うん、なに?」

オズワルドさんに聞き返せば、何だか言いにくそうな顔をしてオズワルドさんは私から目を逸らした。そして、私も予想していたことをボソリと呟くように言った。



「過去に異世界から呼び出した聖女様が、元の世界に戻られた記述はない。」


それはきっと、私が元の世界に戻れる見込みは少ないと暗に伝えているんだろう。

そんなの、大体予想はついてたんだよ。今だってやっぱりなぁって思ってる。それでも。やっぱり。


直に言われるのは、結構くるなぁ。

服の胸元をきゅ、と握り締めてからいつものように笑ってみせる。


「うん、だから私の夢は元の世界に戻ることなんだよ。」


オズワルドさんは、驚いたようにその深い目を見開いた。大丈夫。大丈夫だから。

「夢はそんな簡単に叶わないもんなんだよ。それが夢ってもんだ。だから、私はそう言われても諦めることはしない。できない。」

笑みを絶やさずに言い切った私に、オズワルドさんは複雑そうな顔をする。無理をしているとでも思われているんだろうか。確かに、ちょっと無理をしているかもしれないけれど。でも。言ったんだ。


元気にしてるから、って言ったから。元の世界に自力で戻る努力をしたいって言ったから。

その言葉を嘘にはしたくないから。


「・・・トキにね。私の、元の世界の大切な友達にね。戻るって約束したから。」

夢だったのか、現実だったのか。やけに曖昧だったけれどあれは私の妄想だけで出来たトキじゃないはずだ。きっと、本物のはずだ。そう思わせてほしい。


「だから、諦めない。」

それだけは、今の私の心の支えだから。

折れないように。私の一番心の奥深くで支えてくれているのは、結局この世界でも元の世界でもトキだ。


「ヒヨリは、強いな。」


そんなことないのに。オズワルドさんはまた困ったように笑いながら私の頭を撫でた。無理なんてしてないよ。ただちょっと、胸が痛いだけなんだよ。


黙って撫でられながら、少し唇を噛み締めた。


「ヒヨリ、お前はこれからたくさんのことを決めなきゃいけない。これから何をしてここで暮らすのか。元の世界に戻る方法もどうやって探すのか。それを悩むにしろ行うにしろ多くの時間がかかる。・・・・・だから、そう焦るなよ。そんなに早くこの世界から去ろうとするな。」


「・・・・・そう、だね。折角来たんだから満喫しないとね。」

焦りが生じていたのは確かだ。オズワルドさんに言われるまであまり気づかなかったけれど。

この世界で私が生きていくことは簡単なことではなくて、下手すれば処刑されるようなそんな世界で。だから焦りが生じるのはしょうがないことなんだろうけど、それさえもこの世界では命取りになるかもしれない。

表面上は笑いながらもまたきつく手を握り締めた。


「ヒヨリっ」

「ッッ!」


呼ばれた名前に肩が跳ねた。

『ヒヨ』

違う。


「違うッ!!」


叫んだ後にハッとして口を覆った。オズワルドさんが驚いたような目でこちらを見て、後ろに居たステラが手に持ったお皿を取り落としそうになった。


「ごめ、なさ」

「悪い。起きたばっかだってのに無理させすぎたな。」

「ちが、わたし、」

「いや、いい。無理はしない方がいいからな。」

伸ばした手は宙を彷徨ってオズワルドさんには届かなかった。

でも、オズワルドさんは苦笑いしながらそんな私の手をとってくれた。けれども次の瞬間には優しく押し返される。


「まだ寝とけ。元気になったらまた話に来るから。とりあえず次会うまでにこれから城で何をしたいか決めといてくれ。城の外で暮らさせるのは安全上の問題で許可できない。でも城の中での願いだったらある程度は叶えるから。」


手短にこれからのことを言ったオズワルドさんは、ステラが開けたドアから外へ出て行く。

違う。違うんだ。心の中で叫んだ言葉は、彼には伝わらない。

焦っている自覚はちゃんとある。自分の精神が今どれだけ不安定かも分かってる。


彼がトキではないことも、分かってる。


分かってるけど。私の名前を昔から呼んでくれる人は、私のことをヒヨリと呼ばない。

『ヒヨ』って、呼ぶんだよ。

焦り。不安。ぐちゃぐちゃになって頭の中をかき混ぜられる。


力なくパタリとベッドの上に倒れる。どう言ったらよかったんだろうか。どうしたら伝えられたんだろうか。

「相変わらず、人付き合いは下手くそだ。」

トキに何度も言われたこと。分かってるってば。ちょっと優希ちゃんと友達になって調子に乗ってただけだよ。そんな人生、甘くないよね。


「ヒヨリ様?」

心配そうに倒れこんだ私の顔を覗き込むのはステラ。

「考えなきゃいけないことがたくさんあるの。」

「・・・・そうですね。他の、聖女様のご友人方もここでの生活の仕方を決めたとお伺いしましたわ。」

「優希ちゃんも?」


ここでの生活を、彼女達は受け入れることができるのだろうか。

意外そうな顔をしていたせいだろうか、ステラが少し眉を顰めて声を小さくしながら私に向かって呟いた。

「ここだけのお話です。魔術師様にもお話にならぬよう言われました。けれども私は知っておくべきだと思いますので、独断でお話させていただきますことをお許しください。」

ステラはゆっくりとお辞儀をしてから、私の目をしっかり見た。


「他のご友人方は知らないのです。元の世界に戻れないということを。」

「・・・・え?」

「本当はヒヨリ様にも知らせないはずでした。平常心を保っていられるわけがないと判断されたからです。ですが、魔術師様は。あの方はヒヨリ様には話されたのです。」


そんなに話してはいけないような内容だったのだろうか。もしかしてこれを理由に彼が罰せられたりなんてことはないよね?

「大丈夫ですよ。あの方はこの国で最高位の魔術師ですから、罰せられるなんてこと簡単には起こらないのです。そもそも私やヒヨリ様が何も言わなければばれる事は無いでしょう。」

不安げな顔をしていたのだろうか、ステラが穏やかな笑みを浮かべて私に言った。


「どうして、私にだけ・・・・・。」

答えを求めるようにステラを見つめたけれど、ステラは困ったような笑みを浮かべるだけで何も言ってくれない。

「それは、ヒヨリ様が考えなければならないことです。申し訳ありませんが、私にはその答えを言うことはできません。」


分からない。

オズワルドさんが私のことを心配してくれていることも、気を遣ってくれることも分かってるのに。

その上でどうして私が苦しむようなことを私に話したのか。私みたいな小娘ならきっと騙すのは容易いに違いないのに、どうしてそれをしなかったのか。


彼は、何を考えているんだろうか。


天井を見つめたまま考えてみたけど、ぴったりくる考えは一向に浮かばない。それどころか、考えるだけ考えるほど胸の辺りが苦しくなっていく。空気が黒く淀み、その重みを増して私に圧し掛かってきているようだ。


空気が重い。

『空気が重いでしょう?』


聞こえたのは、この部屋に居る誰でもない人の声。

耳がキィィンとした小さな音を拾った後、自分の右横に誰かの気配を感じた。すぐさまそちらを向いて息を飲む。


流れるような金髪に、深い青い目。驚きに目を見開く私を見つめて少女はクスリと笑う。

私よりも年下に見える少女はそれでもどこか妖艶。不思議な感覚に戸惑う私の前で、少女は綺麗にドレスの裾をつまんでお辞儀した。


『はじめまして、ヒヨリさん。』



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