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魔法使いのお友達  作者: 雨夜 海
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異世界召喚

 

「―――――トキ?」


夕日の暖かい光が満ちる教室で、私はペラペラと紙を捲っていた人物を呼んだ。

やがて途中でその人物は紙を捲ることをやめると、ゆっくりと顔を上げて私を見た。

茶色っぽいその髪の毛が光を通して綺麗に光って見えた。


「何?」


「今度は何の魔法を考えてるの?」


――――彼は、魔法使いだ。


「秘密。」


短く言葉を切った彼の名前は、トキ。

と言ってもトキっていうのは、私が初対面の時に名前を読み間違えたことから出来たあだ名だ。


彼が魔法使いだ、っていうのは本当。

でも、周囲でそれを知ってるのは私を含めて極僅からしい。

勿論、この世界では科学が進歩してて、魔法なんてものは文字と絵だけのファンタジーな世界に追いやられたフィクション。

けれども、実際は大きな科学の裏で、魔法も細々と生き残っているらしい。

まぁ、彼が魔法使いだということを周囲の人間が知らないのには別の理由もある。

なんと言っても、彼は他人とコミュニケーションをとることに無関心だ。

要は友達が少ない。

いつも1人で本を読んでるし、誰が話しかけても会話は続かない。

―――だからこそ、彼と私が友達になったのは奇跡だとも言える。

ちなみに一般人の彼への評価はそれなりに良いものだ。

まぁ、見てくれが良いのだから、それもしょうがないと言えるけど。

けれども反対に、魔法使い側の人間からした評価は酷いものだった。

何でも彼はそこら辺の魔法使いからしてみれば恐怖の対象になるらしく、本気を出せば彼はこの世界なんて軽く潰せるらしい。恐ろしいことに。


そんなことを考えながら時計を見て、息を呑んだ。


「トキ、ごめん。今日は一緒に帰れないや。」


「は?」


それだけ言うと、私は急いで教室を飛び出す。


「ヒヨ!?」


ヒヨ、っていうのは私の名前、坂田 陽依(サカタ ヒヨリ)からとったあだ名。

勝手にトキにあだ名をつけた私への、軽い復讐らしい。


後ろからガタン、と椅子の倒れたような音がしたけど、気にせずに走る。

今日は孤児園の子どもの1人が誕生日で、祝ってあげる約束をしてたから。


私には、両親が居なかった。

生きているのか、死んでいるのかさえ分からない。

ある日孤児園の門の前に捨てられてて、そこを園長さんに拾われた。

コインロッカーに子どもを捨てに行く母親が居るのだから、孤児園の前に捨てられただけ幾分かマシだと考えてるけど。


まぁ、今では私には義理だけれどもちゃんとした両親が居て、こうして”坂田”という苗字もある。

それでも、孤児園で過ごした時間は長かったから、こうしてたまに孤児園に遊びに行く。

鞄を肩に掛けて、校門を抜けてから腕時計をチラリと見た。どうにか間に合いそうだ。

スピードを少し緩めて、ふと前を向けたとき。

同じ制服を着た3人の女子生徒が見えた。


(あれは確か・・・・高倉さん達?)


クラスメイトの女の子で、見た目も可愛いし性格も良いことから、皆に女神って言われてる女の子といつも一緒に居る子達だ。

話しかけるか話しかけまいか悩んだけど、ここで無視するのもどうかと思って声を掛けようと口を開いた。


「たか、―――――――」


その瞬間、ぞわりとした感覚が背筋を走って、視界が光で満たされた。


「ヒヨッ!!!!」


真後ろからトキの声が聞こえたような気がして、光で眩みそうな目を細めて後ろを見る。


「早くそこから離れろっ!!」


無口な彼が珍しく声を張り上げるその様子に目を見開きながら、トキが伸ばしてくれた手に私も手を伸ばした。


―――けれどもそれは、届くことはなかった。


何かに引きずり込まれるみたいに、光が消えて辺りが暗闇になる。

訳も分からず手探りしていたのは一瞬で、次の瞬間にはまた別の場所へと引きずり出されていた。


「・・・・ここは、どこ?」


可愛らしい鈴を転がしたような声でそう呟いたのは、高倉さん。

両脇に立っていた2人の女の子は、声すら出さずに固まっている。

私はというと、目の前に広がる風景にため息がつきたくなって、焦ったトキの顔を思い出した。


”異世界召喚”


なんて言葉が、頭の中に浮かんだ。

そういえば、トキがそんな本読んでたような気がするなぁ。


『自分の都合だけで相手を引っ張りまわす魔法は、俺は嫌いだ。』


そう眉間に皺を寄せて呟いたトキを思い出した。


「ごめんね、トキ。」


そういえば、明日は2人で駅前に新しく出来たお店を散策に行く約束をしてたのに。

約束を破られることが大嫌いな彼が、少しでも怒ってないといいなぁ、なんて

この状況で考えるべきでないことを考えて、少し笑ってみた。



「突然お呼びだてして申し訳ありませんっ聖女様!!」


魔法使いがアリなら、聖女もアリなのか。

突っ込みを心の中で入れてみる。大丈夫、私は落ち着いてる。


コツン、と音がして整った容姿をした男の人が一歩前に踏み出して、私たちに近づいた。

光を通す綺麗な銀髪が、キラキラと光っていて、トキの髪の毛を思い出した。


「この度は、この王国にはびこった魔の空気を正常化して頂くため、わざわざこのような場所まで召喚させていただきました。私はこの王国の第一王子アシル=クロード=バルサ=オーディアールです。・・・・して、聖女様はどなた様なのでしょうか?」


淡々と話していたこの国の第一王子は、ふと困ったような顔をした。


そう、だってここには女が4人も現れたのだから。




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