鯉泳ぐ空
1年にほんの少しだけ、僕は青い空を泳ぐことができます。
本物の鯉は、池や川っていうところで毎日泳いでいるけれど、僕はとっても広い空を1年に少しだけでも泳ぐほうが好きでした。毎年泳ぐ度に空の青さが違うし、白い雲は水しぶきみたいに見えませんか?
そして何より、僕が泳いでいる姿を見て笑顔になってくれる人間、家族がいるということが、僕にはとっても幸せでした。子供の成長を願って僕らは空に放たれるらしいのですが、僕は空を泳ぐ度に、その家族全員が幸せになりますようにと願いました。
けれど、ずっとずっと泳いでいることはできないらしいのです。僕を空へ放ってくれる家族は年をとり、子供は成長して大人になり、僕らを空に放つ必要がなくなってしまったのです。そもそも僕自身もかなりボロボロになってまして、ほつれた体を毎年直してもらっていました。
そして去年、家族から来年は空に放たなくなると言われました。本当なら今頃家族が嬉しそうに僕を空へ放つ頃です。薄暗い倉庫の中で僕は空を思い出してはため息をついていました。
突然、ガラッと倉庫の扉が開きました。見知らぬ人間が僕を取り出して、また扉は閉まりました。
僕は今自分の状況がさっぱりわかっていません。何故僕はまた空を泳げているのでしょうか。しかも、周りには沢山の僕の仲間達が一緒に泳いでいるのです。いつも泳いでいる場所よりも遥か高く、空に近い場所というのも驚きです。
「おや、君は見慣れない顔だね。今年からここに来たのかい?」
隣を泳ぐ大きな鯉が声をかけてくれます。
「はい、あの、ここってどこなんでしょうか。僕はもう空を泳げないと思っていましたので、なぜ泳げているのかさっぱり分からないのです」
「ここに来た奴はみんな1度、空を泳げなくなったんだよ。しかし家族が、子供の成長を願ってくれたお礼もこめて、私達が再び泳げるように、小学校という所で放ってくれたのさ……」
もし、僕が人間だったら、目から熱い水が出ていたと思います。
そんなわけで、僕は今日も青く広い空を泳いでいます。ちょっと嬉しいのは、僕らを空から戻すのに時間がかかるらしく、前よりも長く泳げるようになったことでしょうか。それにしても、たくさんの子供達が小学校にいるのですね。多くの成長と幸せを願えるようにまだまだ泳ぎますよ!
昨日投稿したかったのですが、話を大幅カットしたため翌日になってしまいました。少し遅れた鯉のぼりのお話です。