第八話 虚空
次の日。
疲れてしまっていたのか、起きる時間はもう正午に近いような時間だった。
「…………ここは、家?」
どうやら、私たちの家のなからしい。
いったいあのあと、私はどうなったのだろう。
おじさんはどうなったのだろう。
なんだか頭がポワポワとしている。
夢を見たあとのような感覚。
今までの出来事は全部夢でしたー☆
なんて言われても、普通に信じてしまいそうだ。
それくらい、頭が重い。
「おはよ……」
「おっ、ココ。おはよう」
さっそくおじさんに出会ったのだが、私は驚きを通り越していた。
私が記憶に残るおじさんの最後の姿は、満身創痍で、両手が緑に変色した姿だ。
それなのに、いま、目の前にいるおじさんは、怪我なんて一切見られない、綺麗な肌だった。
夢でも見ているのだろうか。
それとも、今までのことが全て夢だったんだろうか?
「あの……おじさ―――――」
「ココ、悪いけど、俺はいま忙しくてよ、後にしてくれねぇか?」
「…………………」
避けられた?
おじさんが、なんだか私を避けているように見える。
だって、今までこんな反応を示したことなんてなかったのだ。
「…………ごめん。おじさん、ごめんなさい」
なんだか胸が苦しくなった私は、走り出していた―――。
「…………ぐすん」
この涙は、いったい何の涙なのだろう。
ただおじさんが、忙しいからあっちに行っていてほしいと言っただけだろう。
仕方がないことだ。
おじさんだって仕事があるんだから―――。
どんなに自分に言い聞かせても、私の心の中に、それを全否定させる何かが根付いている。
辛い。
苦しい。
胸がイタい。
おじさんが私を避けている。
その気持ちがありありと伝わってきた。
「……私の、何がいけなかったのかな……」
私が今までしたことのなかで、何か間違いなんてあったのかな。
『あれ』が夢じゃなかったのなら、盗賊に襲われたことかな。
おじさんには、酷い迷惑をかけてしまった。
それとも………、私が寝ていたあとの、あの戦いで、私が「家族」って言ったりしたことかな。
それとも、それとも。
いろんな負のイメージが浮かんできてしまう。
おじさんが避けているのだ、私のせいで。
何が悪かったのだろう。
何がいけなかったのだろう。
思い出せることを、フルに活用して思い出そうとしていた。
思い出したら、謝りたい。
謝って、おじさんに許してもらいたい。
おじさんは、優しいから、きっと、きっと、許してくれる。
そう願った―――。
「ココ、悪いけど、俺はいま忙しくてよ、後にしてくれねぇか?」
俺は、親父の機嫌が悪いのをずっと気にして、距離をとっていた。
実は親父の機嫌が悪いときは、本当に怖い。
そのため、俺は親父の様子を遠くから監視することにしたのだ。
親父の機嫌が悪くなったのは、昨日の夜からだ。
今日は遅いから、もう寝ようと言い出したあたりから、親父はずっと虚空に睨み付けていた。
「…………おや――――」
「いいから、寝ろ」
と、問答無用で明かりを消され、寝ることしか出来なかった。
そして今日も、午前中はずっと、虚空を睨みながらの作業だった。
ただ時々、何か考えるように顔をしかめると、すぐにまた虚空を睨みだす。
いったいどうしたのだろう、と思っていた矢先だった。
ココがやって来た。
ココは何か深刻な表情で、親父に何か言おうとしていた。
すると、
「ココ、悪いけど、俺はいま忙しくてよ、後にしてくれねぇか?」
と、答えられた。
ココはその瞬間、いっきに表情が暗くなった。
信じられない、といった表情。
するとそのあと、
「…………ごめん。おじさん、ごめんなさい」
と泣きながら、どこか遠くへ行ってしまった。
俺は追いかけようか、とも思った。
しかし、親父がココを泣かせた、そのことに腹が立った。
ココは親父を信頼し、尊敬しているはずだろうに。
なのになぜ、あんな言われ方をしなくちゃならないんだ。
俺は初めて、親父に腹が立った。
「…………親父!」
「―――――!来るなっ!!」
親父は俺がすぐそばまで来ているのを見ると、慌てて叫んだ。
さぁ、いったいどういうことなのか?