第五十二話 決断
―――起きろっ!
「んぅ?」
―――ココっ!さっさと目を覚ませ!
「は?」
私が目覚めたのは、真っ暗な空間だった。
上下左右奥共に真っ暗な空間に、私は閉じ込められているらしい。
「ここは、どこ…?」
―――お前、余の攻撃を受けただろう
魔王の技、暗黒世界を直に受けた私は、そのまま意識を手放していた。
ついさっきまで。
「ここはもしかして、さっきの魔法の中?」
―――そうだ。暗黒世界は、闇魔法で異世界を作り込み、その中に飲み込む技だ。この空間を自在に行き来できるのは、闇魔法を使えるものと、その魂のみ。まさしく勇者を倒すために作られた技だ。
勇者は光魔法を使う一族。
闇とは対極関係にある光魔法を使う勇者では、この異世界から抜け出すことができないのだ。
「……私の負けじゃないっ!!」
―――ずいぶんと潔い勇者だな。もっと抵抗しないのか?
この魔王の声が、私の心に入り込もうとしている。
こんなこと、魔王がどうして聞いてくるのだ。
「そんなこといっても。現状、今の状況を抜け出す策なんて、私にはない。それに、あなたに勝てる程の実力も、きっと、ない……」
―――それは、そうだな。貴様では余は倒せない。あまりにも力の差がありすぎたな。歴代勇者の誰よりも弱いだろう。
「………っ」
くやしくて、ぎゅっと、拳を握りしめる。
「だったら、もういいよ。こんな空間でずっと生き続けるくらいなら、この剣で死んでやる」
私は剣を引き抜いて、自分の心臓部に当てる。
突き刺せば、死ねる。
―――待て、早まるな。お前は逃げ出そうとしているんだぞ?わかっているのか?
「逃げ出そうと、している?」
自殺という行為が、逃げることだと言いたいのか。
だったらむしろ正解だ。
こんなところにいるくらいなら、例えその行き先があの世でもいいから逃げたい。
―――この景色を見てもか?
「ぐ………は……っ」
『〈ほう?まだ息をするか。くくっ。魔族よりも肉体的に弱いはずの人間だが、なかなか骨のあるもののようだな〉》
そこには、見事無惨な光景が写った。
肉体が引きちぎられた、魔王らしき体。
全身に深い傷を負い、満身創痍のルイ。
それを見て不敵に笑う、黒龍。
いったいどういう事態なのか。
「……っ、ルイっ!?どうして!?魔王の人質だったはずなのに、戦ってるの!!?」
ルイは確か、魔王に連れてこられたはずだ。
それなのに、なぜ、今、倒れているのだろう。
血を全身から流しながら、それでも、一矢報いようと立ち上がっているのだろう。
―――余とルイが協力して、本来は倒すはずだったのだが……。人間にもらった魔力があまりにも強くなりすぎているようでな。余は死に絶え、ルイも危ない。
「嘘…………?」
ルイと魔王が協力関係にあった?
だったら……。
「どうして……、私じゃないの?私、ルイやリムおじさんと一緒に幸せに暮らすのが夢なのに、ルイが、もし、死んじゃったりしたら……」
―――お前に迷惑をかけたくなかったんだとさ。お前は自分達と幸せに暮らすために、過酷な旅をしている。いろんな魔獣や、さまざまなトラブルにも見舞われているかもしれない。だからこそ、ココ、お前には魔王を倒してほしい。だけど、魔王よりも強い、強力な敵は、自分たちが倒したい。そう言っていた。
「ルイが、そんなこと、考えてたなんて……」
私の幸せの障害を、ルイは取り除こうとしてくれているのだ。
私のことをそんなにも考えていてくれたのだ。
悔しくて握りしめていた拳が、緩むのを感じた。
―――で、ここからが本題だ……。このままでは、ルイが危ない。お前が余に協力してくれるなら、この魔法を解いてやる。
「…………。分かった。ルイが私のために頑張ってくれたんだもん。勇者の私が頑張らなくて誰が頑張るのよ」
勇者と魔王が協力する。
こんなこと、普通ならありえない。
だって勇者と魔王は敵同士。
勇者は魔王を倒しに行き、魔王はそれを叩き潰しに行く。
立場は全然違うのに、どちらも共通してることがある。
「……勇者だって、魔王だって、世界を変えようとしてるだけだもの。協力だってきっとできる」
―――あぁ。じゃあ始めるぞ。余は魂だけだからな。お前の魂と「一体化」するだけだ。
「え…?」
魔方陣が発動し、しばらくすると、闇から光に、景色が移っていた……。




