第四十二話 魔族の村
私たちはなんとか、この妙な森を抜けた。
しかし、抜けた場所が黒龍の泉だというわけではなく、まだまだ遠くにあるようだ。
私たちは、森を抜けてからも道を歩き続けていた。
「………こんどは、断崖絶壁って感じだね」
『……ここは危ないな……』
右側は高く聳える壁。
左側は深い谷。
足元は幅が肩幅あるかないかくらいの足場しかない。
少し足をずらすだけでも落ちてしまいそうな、そんな場所だった。
「…………ボルケイロ領より面積は少ないはずなのに、なんでこんなに地形が違うの?」
『魔界はよく自然災害が起こることで有名な場所もある。自然災害の影響も大きいのだろうな』
と、ドルクは説明した。
つまりこの断崖も、自然の摂理によって自然に出来た代物だということだ。
大きな山や、深い谷、密林など、自然の脅威で溢れる大陸。
それが魔界。
そんなところで、生まれた頃から鍛えられている魔族たちは、人間よりも遥かに高い能力を持つのかも知れない。
ガダッ………………!
「うぉあっ!」
『―――!』
危ない危ない。
思わず落ちてしまうところだった。
たった今、たまたま踏んだ部分の足場が崩れ落ち、岩の欠片となったそれが、谷底へ落ちていった……。
しかし、谷底の奥は暗くてよく見えず、全く岩が見えなくなっても、底についたような音はしなかった。
それほど深いのだ。
もしもあそこに、岩じゃなくて私が落ちていたら……。
間違いなく訪れるのは死だった……。
『気を付けろよ、ココ。こんなところから落ちていったりしたら洒落にならんぞ?』
「……う、うんっ、そうだね……」
確かに洒落にはならないだろう。
私たちが歩く先に、ようやく谷から抜け出す道があった。
そこは小さな小川が流れる道で、ようやく普通の道に出られたと、私は安堵していた。
のだが……。
「―――――っ!に、人間っ!?」
「……魔族!?」
そこには、魔族がいたのだ。
私は剣を構える。
向こうの魔族も、剣を構えたが、短剣であり、ブルブルと足を震わせながら立っていた。
顔は引きつり、恐怖しているようにも見える。
腰も逃げ腰で、明らかに怖がっている様子がうかがえた。
こんな魔族を見るのは初めてだったから、私は最初あっけに取られていたが、向こうに敵意がないとわかると、剣を納める。
勇者の仕事は、魔族の退治というか、魔族を滅ぼすことみたいな教えを受けたが、こんな無抵抗な魔族を殺すほどバカじゃない。
私は納めたあと、挨拶をした。
「………はじめまして……、私、ココって言うんだけど―――」
「う、うわぁっ、人間っ!寄るなっ、寄るなぁぁっ!!」
まるでゴキブリみたいな扱いを受ける私。
少し傷ついたが、魔族を初めてみたとき、私もとても驚いたので仕方がないのだろうと納得し、もう一度話しかける。
「……えっと、あなたの名前は?」
「うわぁぁっ、刺すぞっ、刺すぞっ!だから寄るなぁぁっ!」
少し近づいただけで、短剣を振り回し、寄るなと喚く。
ここまで嫌われているのを見ると、さすがにもう無理だと私は思う。
彼に話しかけたことを全てなかったことにして、立ち去ろうとすると、
「なんだなんだ!?」
「どうした!!」
と、彼らの仲間だろう。
何人かの魔族たちが空から数人やって来た。
そして私の姿を見て察したのだろう。
しかし、そこから発せられた言葉に、私の方が驚いた。
「人間めっ、俺たちの大切な仲間を殺そうとしやがったなっ!?」
「虐殺者めっ!!今すぐぶっ殺してやるっ!」
は?いや、どういうことだろう。
確かに、魔族をみた瞬間に剣を抜いたのは確かだ。
見ようによっては殺そうとした、といえないことはない。
それは確かに反省する。
だが、虐殺者、というのは意味がわからない。
だって、今までに虐殺なんてしたことはないのに、そんなこと言われるなんて。
心外だ、そう言おうと口を開いた瞬間。
「おらぁっ!」
「なっ!?」
こっちの話も聞かず、剣をとって攻めてきたのだ。
二人がかりだったため、後ろにかわして距離をとる。
「……待てっ!人間を殺すのは、村中の見せしめにしよう。村人を脅して殺そうとした報いを受けさせてやる」
そういうと、
「うわっ!」
ネットを取り出して、私に被せる。
あまりの出来事に戸惑ってしまい、対処できなかった。
「お前を村に連行する」
さぁ、私はいったいどうなってしまうのか―――――




