第四十一話 黒龍の泉
この城に入ると、いきなり目の前には、2人の男が立っていた。
「……勇者よ。よく参られました……。あなたの実力を、非常に高く評価いたしましょう」
しかし、戦う気はないようだ。
どちらかというと、門番などに近い。
「ですが、魔王様はこちらにはいらっしゃいません。残念ながら、お引き取りください」
魔王がいない?
いや、そんなこと信じられるわけがない。
「……出鱈目でしょ。そんなの!」
「いえ。ここには魔王様はいらっしゃいません。ここにいるのは、四天王の二人、闇剣士バーグル様と、闇術士ルルリア様、あとその配下兵士だけです」
「………本当に?だったら、魔王はどこにいるの?」
「魔王様は、魔界の奥地、『黒龍の泉』に出向いておられます。帰ってくる日は未定ですが」
いつ帰ってくるかわからないのでは、全く意味ないではないか。
しかし、魔王が自分の城を放り出して向かったという、「黒龍の泉」と呼ばれる場所が、いったい何なのかということが気になっていた。
「黒龍の泉ってどこ?」
「………危険ですから、行くのはお止めになった方が………」
「………どこのこと?私は魔王を倒すのが使命なの!だから、魔王の場所に行かなくちゃ!」
「………………仕方がないですね………。黒龍の泉は、ここから南に行ったところです。きっとすぐに分かると思いますよ………」
と、少し残念そうな、悲しそうな、そんな顔をして、私を見た。
だが私は、黒龍の泉に行く道を選んだのだった―――――
魔界は、私たちの住む人間の大陸よりも小さな大陸だ。
ボルケイロ帝国の領土よりも小さいとされるこの大陸は、さまざまな過酷な環境で溢れていた。
今、私たちが通っているのは、不気味な木が立ち並ぶ密林だった。
「なんていうか……、気味悪いよね……」
『……あぁ。なんだかジメジメして、変な魔力も漂っている……。どこかに魔獣が潜んでいるかも知れん。気を付けろよ……』
相変わらず、魔力を感じる力など、野性的感が鋭い。
これに何度も助けられている。
そして、それは
『人間のお嬢ちゃん。俺と良いことして遊ばない?』
今回も、というわけだ……。
『………お、お前は……っ!?』
馬のような四本足、鋭い二本の蹄、真っ白な毛並み、まるでドルクのようだ。
しかし、ドルク、ユニコーンとは明らかに違っていた。
目は、透明に澄みきった色ではなく、どこか混濁したような色をしている。
そして、角が二本あったのだ……。
ユニコーンのように、鋭く長い角が二本、その頭に生えていた。
『……我らがユニコーンの宿敵、バイコーン!』
『ほぅ?このお嬢ちゃんは純粋な子ってわけだ。くくくっ、今すぐ汚してやりてぇなぁ。くくくっ!』
二本角の生えた二角獣とも呼べるこのバイコーンは、いかにも不純な目付きで私を眺める。
私は一瞬寒気を感じ、ぐっと身構える。
しかし、私よりも遥かに身を構え、苛立っているユニコーン、ドルクがいた。
『……ふざけやがって。こんな汚いバイコーンなどに、ココは指一本触れさせはしないっ!』
『……純粋を司るユニコーンと、不純を司るバイコーンじゃ、考えることなんか違うんだよ。くくくっ、俺は、人間の女の苦痛に歪んだ顔が大好きだけどなぁっ!!』
『汚らわしいっ!!』
そういうと、二人は角の突き合いを始めた。
ガンッ!ガンッ!
と強い音が鳴りながら、角同士がぶつかり合う。
両者の力は互角らしい。
共に押しも押されもしないいい戦いだった。
『……ぐ、ぬぅ』
『へっ、ちったぁやるよーじゃねーか。ユニコーンさんよぉ!』
ユニコーンとバイコーンの衝撃的な戦い。
そして、
バキィ!!
という音と共に、砕けた。
『………うぉっ、まさか、角が……!』
『……貴様のような、不純な輩に、ココを傷つけさせるわけにはいかんのだっ!』
『くそっ、覚えてやがれっ!』
ユニコーンとバイコーンの互いの主張をかけた戦いは、ユニコーンの勝利で幕を閉じた。
しかし、まだまだこの怪しすぎる森は抜け出せそうになかった―――――
「………勇者が『黒龍の泉』に向かった?」
「はい、そうです」
「直々に魔王様との戦いをしようというわけか。だが、今魔王様は」
「……いったいどうすればいいのでしょう」
「まぁいいさ。魔王様が小娘勇者などに負けるわけがないからな」
「……だといいんですが……」
さっきの城、魔王城にて留守を任された、闇剣士と闇術士は、水晶に浮かんだ勇者を見て驚き、そして笑う。
「「これはおもしろいことになりそうだ……」」
簡単に魔王に向かったりはしないのですっ。




