第三十九話 魔界
「………海だね」
『海だな……』
私たちは、海に来ていた。
この海は、大陸の一番端の海。
ニーマイ共和国の領海である。
この海を越えた先が、魔界と呼ばれる『大陸』らしい。
大陸の名前が魔界と呼ばれるのには、理由がある。
一つ目の理由は、魔界にだけ、恐ろしく強力な生き物が住んでいるから。
二つ目の理由は、魔族の血で血を洗う悲惨な歴史を、大陸ごと味わっているから。
そして三つ目の理由は、この魔界自体が、何やら怪しげで、禍々しい雰囲気を醸し出しているところから、魔界がしっくりきた、という理由らしい。
どれもこれも、魔界が物騒なことに変わりない噂だった。
とにかく魔界は危険だ。
そういう認識でいないとダメらしい。
「……でも。魔界ってどうやって行くの?」
『……どうやってって。海を渡って……、どうやって渡るんだ?』
手詰まりになってしまった。
海を渡るなんてこと、簡単にできるわけない。
船なんてないのだから……。
「………筏でも作ろうか……」
『作り方を知ってるのか?』
「………知らない………」
さて、どうしたものか……。
「こっちに来る前に詰んじゃってるよ、勇者ちゃん。ダメだなぁ〜」
上空を飛びながら、下を見る男性。
あの使い魔だ。
「お〜い!勇者ちゃ〜ん!」
「えっ…」
『……あいつ……っ』
私たちは二人とも、面倒なやつが来たっていう表情に変わる。
しかも、
「……勇者ちゃんって何?」
「だって女の子だろ?なら勇者ちゃんでいいじゃん。……もしかして、ココちゃんって呼ばれたいの?」
「……誰がっ」
『貴様、なにをしに来たっ!』
ドルクが怒って、角で威嚇している。
「まぁまぁ、そんな怒んないでよ。君たち、海を越えられなくて困ってるんでしょ?だったら、これ使って?」
ボンッ!
使い魔が指をならすと、海面に煙が立ち、そこから一人用の舟が現れたのだ……。
「ボクからのプレゼント。受け取ってよ」
「……沈まない?」
この使い魔は、一応私の敵だ。
この人がどのように思ってるかわからない。
つまり、私のことを殺そうとしているのかも知れないのだ……。
「……そ〜んな敵意剥き出しにならなくてもいいじゃん。大丈夫だって〜。この船、ちょっと向こうの国にあった船を一隻掻っ払っただけだから。安全性は問題ないと思うよ。じゃあね〜」
それだけ言うと、使い魔は姿を煙のように消したのだった。
「……あの人、いったい何者?」
『……底が見えないな』
なんだかあの使い魔の人がとてつもなく恐ろしい気配がある気がした―――――
もう仕方がないので、騙されたと思って乗ることにした。
なんとか何事もなく向こう側、つまり、魔界にたどり着いたのだった。
「……なんていうか、すごく魔界って感じだね」
『…あぁ。魔界としか言いようがないな』
何やら混沌とした空気。
禍々しい雰囲気。
それらは全て、魔界と呼ばれるに相応しいものだった。
逆に、魔界以外の呼び方が思い付かない。
「と、とにかく……。魔王がいる場所を探さなくちゃ……」
『……魔王がいるとなると、城とかか?』
「……さぁ?魔王がどんな人かなんて知らないし」
そもそも私は、敵の一番の棟梁であるはずの魔王のことを、私はどれだけ知ってるのだろう。
……………………。
……………………。
魔族の長というくくりしか知らない。
性別だとか、性格だとか、身長とか、体格とか、名前すらも知らない。
向こうは私に、使い魔を送っているくらいだし、さっき私の名前も言っていた。
それなのに、私は、魔王のことを何か知っているか…?
「………魔王って、結局なにしてるんだろう?」
『………そういえばそうだな。魔王が何してるなど、考えたことなどない……』
「でも、悪いことしてるんだよね?だから、勇者が選ばれて旅をさせてるんだから」
『少なくとも、人間にとっていいことではないのだろうな。だから、勇者が出ている』
魔王っていったい、何なのだろう?
という謎が、私の中に生まれた瞬間だった……。




