第三十七話 焼けた村〈2〉
久しぶりに泣き虫なココをかけた気がします。
「……………ひっぐ」
「……よっぽど大切な人がいたのね。可哀想に……」
避難場所には、何十人という数の人がいた。
恐らく、魔獣や魔族から逃げてここまでこられた人だろう。
主に子供や女性、老人が多い。
みんな私のことを労って、慰めてくれた。
「…………うぅぅ」
「ほら。暖かいスープだよ?これでも飲んで落ち着きな…?」
と、食事まで持ってきてくれた。
みなさんに申し訳なくて、隅の方で膝を抱えてじっとしていたのに…。
食べるのは申し訳なくて、残してしまうと…。
「食べ物を口にいれることができないほど、悲しかったのね……」
と、慰めてくれた。
違う、違うの。
ここにいる人たちの大切なものを守れたはずなのに、守れなかったことが情けなくて、泣いているのだ……。
「……………っ」
「あら、寝ちゃったのね……」
気がついたら、毛布をかぶって寝ていた。
どうやら毛布も、彼らが用意していてくれたようだった。
優しい気遣いと共に、また胸が痛くなる。
この人たちのことを考えて、泣けてくる。
私はまた、泣いていた……。
ドゴォォン!!
ギャァァァァァオォォォォォ!!!!
と、揺れと共に咆哮が聞こえていた。
しかも、この咆哮は聞き覚えがあった。
「ウィングタイガー……!」
どうしてだろう、私たちが全部倒したはず……、いや、倒した?
私は、小さくなって、私のポケットに入っているドルクに尋ねた。
すると、
『いや、あの魔族を倒したとたん、ウィングタイガーは逃げていったからな。ざっと100体くらいは逃がしてしまったようなんだ、残念ながら……」
この前バイルさんが言っていたが、どうやらウィングタイガーは魔界出身らしい。
つまり、ここは本来ウィングタイガーの生息地ではないのだ。
生き物を、本来の生息地外で放出すればどうなるか、など、元の日本でも話題に出されたことがあるだろう。
ブラックバスだとか、なんたらオオカブトだとか、本来そこに住んでいた生き物に、何らかの影響を及ぼすなど、よく聞くことだ。
それが今回、もろに出ている。
ウィングタイガーがこんなところに現れたりなんかしたら……。
「最近、あいつが村で暴れまくるものだから、復興もろくに進まねえんだ。あいつをどうにかできないものか……」
あいつをどうにかできるのは、どう考えても、私とドルクしかいない。
でも、もし倒したとき、彼らは私のことを勇者だと気づくかも知れない。
あれだけ勇者を憎んでいた。
私はいったいどうなっちゃうのか……。
「グルォォォォォ!」
「これじゃあ、ろくにいい食べ物もなくなっちまう。ここにいる連中も、みな命の危機だ……」
「こんなときに、助けてくれるやつがいてくれれば…っ」
『……ココ。お前の出番だ。倒しに―――』
「ダメだよ。だって、村の危機すら救ってくれなかった勇者だよ?そんなの、今さら出たって、みんな『どうしてもっと早く来てくれなかったんだ』って言うに決まってるよ……」
『…………ココっ!!!』
急に怒鳴るドルク。
『お前、それでも勇者かっ!確かに、命は大切だっ!誰であろうとも!だが!すでにないものはないっ!あの大群に負けてしまったのは、事実で、お前がこの村に来れなかったのも事実だ!だがな!それだからこそ、今ある命、ここにある命を守るべきなんじゃないのか!?村なんて、何度でも作り直せる!村は、土地のことじゃない、家のことじゃない。人間がいれば、そこが村なんだ!!』
珍しく、熱く語るドルク。
なにか、私のなかで溶け出している気がした。
『もう一度言うぞ……ココ。お前の出番だ。倒しに行くぞ……』
確かに、この村を救うことはできなかった。
どこまで見ても、焼け野原だったこの場所は、どう見たって負けて、敗れて、失った跡だ。
失った命など、取り戻せない。
この世界でも、どの世界でも。
だからこそ、私は、ここにいる何十人を守らなくてはならない。
決して、罪悪感とか、罪滅ぼしとか、そんなもののせいじゃない。
勇者なんだから、人間なんだから、守ろうと思うものを、全力で守るのだ。
救えなかった命のぶんまで………っ!!!
「………みなさん、ここにいてください。私が、あいつを倒してきます」
「え、ちょ、おいっ!」
私は、あのウィングタイガーから、人々を守ることに決めた。




