第三十四話 魔族〈5〉
江戸編終了です。
「…………!なに?リュアが倒された?」
「はい。ニーマイ共和国の隣の町、江戸にて生命反応が途絶えました」
「…………勇者か?リュアは四天王であって、簡単な人間に負けるような戦闘力じゃないぞ?」
「恐らく、勇者じゃないかと…………」
「…………リム……。まさか……、あいつ、裏切ったのでは、あるまいな………っ!!!」
バリィン……っ
「す、水晶を割らないでくださいよ……。あまり代わりはないんですから…っ」
「…………すまんな。今すぐ命令だ。江戸に使い魔を送れ」
「はっ!」
暗く、怪しい部屋のなかで、二人の人物がかわした会話だった―――――
あの魔族との戦いから、一ヶ月が経った。
全治数ヵ月と言われていた私とバイルさんだったが、私は一ヶ月というとてつもなく早いスピードで回復した。
バイルさんはまだ安静にしていないといけないが、それでももう意識もしっかりとしていて、将軍の役目を果たしていた……。
「……手当てまでしてもらって。何から何まで頼りっきりで、申し訳ありません……」
「気にせずともよいですよ。我々があなたに敬意を表してやったまでにござる。それに、ここはもう、あなたの故郷だ。いつでも甘えてよいのですよ」
バイルさんは、優しく私に言ってくれた。
「実は、私、もうすでにこっちの世界にも家族と呼べる人はいたんです。こっちの世界に来たばかりで何もわからない私を、守ってくれて。そのとき、私の胸はとても暖かかった。この町も、そのときみたいに暖かく感じるんです……。私の家族と一緒に、またこの町に来ていいですか?」
「当たり前でござる。異世界人を守ることが、我々に与えられし使命なのだから」
「……本当に、ありがとうございます。旅はまだまだ続けなくちゃならないので、もう行きますね」
「……お元気で……」
バイルさんは最後まで私に優しくしてくれた。
なにからなにまで、感謝しきれない。
「じゃあの!また会えたら一緒に遊んでほしいのじゃ!」
と、リーシィも私に別れの挨拶をしてくれた。
また遊ぶ約束をして、私はこの地をあとにした―――――
「………で、あなたは誰ですか…?」
少し歩いた先、なぜか私の前に一人の男性がやって来た。
黒いマントに帽子をかぶって、なぜか箒を持っている。
何に見えるかと言われれば、魔法使いとかそんな感じの服装だ。
『ココ、気を付けろ。こいつ、魔族だぞ!』
「え、魔族?」
「……そう。ボクは魔族だ。人間にとっては大敵かも知れないけど、少しがまんしてもらいたいな」
魔族関連でなにかあったかと言われれば……。
「……魔王の側近かなにか?」
「そんな大層なものじゃないよ。ボクは魔王様の……使い魔だよ」
「……使い魔?」
「そう。魔王様に忠誠を誓った、召し使いみたいな?そんなところさ。君は、どうやら普通の人間より遥かに強い魔力を持ってるみたいだね。君、何者?」
なんというか、この使い魔という魔族は、掴み所のない感じだ。
私のことを、まるで確かめるかのように、値踏みでもするかのようにみる。
とても不愉快になってくる。
「………あなたなんかに、答えたくないですっ」
「…そっか。そうだよね。人間って、魔族を嫌ってるって聞いたから、どんなのだろうと確かめてみたけど、こんなにも嫌われていたんだね、残念だよ」
いや、私はただ単にあなたの目付きが不愉快になっただけで……。
「……でも。このままじゃ魔王様に怒られちゃう。お仕置きされちゃうかも知れないなぁ。いやだなぁ、お仕置き」
「……知りません。いいから、帰ってくださいっ」
「冷た……。そんな嫌な顔しなくてもいいんじゃない?もしかして、魔族に嫌な思い出でもあるの?」
「…………そんなの、ないっ。いいからもう、帰ってよっ」
「……………。嫌なこった。君には、とてつもない力を感じる。隠すことなんてできない。君は勇者なんだろ?」
「…………だとしたら、どうするの?」
戦いはあまり好まないが、向こうが言うなら……。
と、剣に手をかけた。
しかし、
「いや、ボクは戦いにきたんじゃない。ボクは君と話がしたくてね。実に興味深いんだよ、君は……」
「興味深い…?どうして…?」
「魔界に来てみればわかるよ。魔王様がお呼びだから。早くおいで。楽しませてよ……」
そういうと、彼の周囲から黒いブラックホールのような空間が生まれ、そこに飲み込まれるように消えていった……。
「………魔王が、呼んでる……」
勇者としての使命が、重たく感じる―――――
「………リムではなかったか。で、なぜ貴様はそのようにニタニタとしておる?」
「……今回の勇者があまりにも興味深い人間だったもので……」
「……ほぅ。お前の興味を持つような人間だっただと?それはいったいどういう?」
「………………ごにょごにょごにょ………」
「本当か、それは?」
「ボクも驚きましたよ」
魔王は驚いたように目を見開くが、やがて使い魔のようにニタニタした笑いに変わる。
「……なら、ぜひとも会ってみたいものだ……。くくく、ははははは」
魔王の笑い声は大きく響く。
ここは魔界。
魔族が住む、絶望の世界だ―――――




