第三十話 魔族
「うぉぉぉぉっ!」
「グガァァァ!!」
正直言って、大快進撃といってよいだろう。
というほどに、善戦を繰り広げていた。
炎を纏い、燃えている矢を放ったり、毒を塗った矢を放ったりすることによって、確実にダメージを多く与えていた。
日本の戦でも、恐らく使われることがあったのかも知れない。
この戦いはまるで、戦国時代の戦を見ているような気にもなった。
「ムーンライトドラグーン!!」
かくいう私も、最前線で戦っていた。
周りは男性ばかり、それも、侍たちでいっぱいだったが、私のこの世界では勇者なのだ。
一応、魔王を倒すという名目があるため、戦いに出ていた。
ウィングタイガーは、予想以上に強かった。
虎としての爪の攻撃や牙による攻撃。
それだけでなく、翼による風魔法のようなものまで扱ってくるのだから、相当強い。
風魔法は、光魔法を使えば耐えられる。
しかし、元が肉食獣として、陸の食物連鎖の頂点にいるくせに、翼まで生えているぶん質が悪い。
はっきりいって、虎に翼だった。
「…………てやっ!」
「グバァァッ!」
私が倒したのは、これで3体目。
しかし、敵は1万もいる。
まだまだ数は多い。
これはやっかいだ、と感じていたとき……。
「………あら、あなたが勇者……?」
と、なにやら女性が、私に声をかけてきたのだ。
こんな戦場のど真ん中にいるなんて、相当の実力者。
女は侍にはならないため、このひとは間違いなく敵だ……。
よく見ると、青っぽい肌にとがった耳、翼や尻尾など、人間にはありえないものがいくつも付いていた……。
「―――魔族!?」
「正解。よく知っててくれましたぁ〜。まぁ、勇者なら当然かも知れないけど」
彼女は魔族だった。
2メートルはありそうな大柄、いや、魔族ならもしかしたら普通なのかも知れない、鋭い眼光、真っ赤な目。
見るだけでも少し背筋が凍りそうになるなか、
「………どういう理由でこの町に攻撃を加えてるか知らないけど、敵の大将がここにいるなら話は早いわ。今すぐここで、倒してやるっ!」
「そうそう。わざわざ敵軍のトップが迎えに来たんだから、ちょっとは楽しめないとね〜」
と、余裕そうに体をならす彼女。
今に見てろ。
「っはぁ!!」
「ふん」
剣を振り下ろし、攻撃を試みるが、彼女は指一本でそれも払う。
指には魔力が纏っているようで、異常な強度を見せていた。
「はぁぁっ!」
今度も剣での攻撃を試みる。
こちらも剣に魔力を流し込み、強度を高める。
「はっ!」
彼女は剣をひらりとかわし、私の背中に蹴りをいれた。
いっきに背後にまで回るその技術は、戦い慣れというか、そのような経験の差のような気がした……。
「ぐは……っ!」
「あらあら。弱いわねぇ〜。過去最弱なんじゃないの〜」
と、私を挑発してくる彼女は、空を飛んでこっちを見下していた。
「こ〜んな矢まで使って〜。ウィングタイガーは倒せても、あたしは倒せないわよ……」
どうやら、彼女を狙った矢が何発か放たれていたらしい。
しかし彼女はそれを直に取って、私に見せていた。
自分に向かって飛んでくるものを横から鷲掴みなんて、簡単にできる芸当じゃない。
そんなの素人でもわかる。
「ほら…」
ぶすっ
「ひぎぃぃぃ!」
そしてその矢を、私に投げつけたのだ。
私の腕に、その矢が刺さる。
どうやらただの矢のようで、毒が塗られているわけではなさそうだ。
「どう…?痛い?痛いよねぇ〜。もっと痛め付けてあげる……。もっといたぶってあげる。人間の恐怖した顔が、あたしの大好物なのよっ!」
「ああああああああああああ!!」
私の体に何発か、彼女によって矢を打ち込まれた。
腕、太もも、足、肩……。
そのどれもが強烈な痛みを発し、血が止めどなく吹き出してくる。
「ひぃっ、ぐ、あがぁ」
「くくくっ。その、まだ諦めてない顔嫌いじゃないわ。でも……それを絶望に変えるほうがもっと好きかな……?」
彼女は魔法を発動させる。
ブラックホールのように、真っ黒で丸い何かが、彼女の周囲を回っている。
それらが全部で10個。
「これは、最高位魔法のひとつ、闇魔法だよ。あなたは光魔法だよね?なら、闇の恐ろしさ、教えてあげる」
そういうと、黒い球を一つ飛ばす。
それは、一人の侍のところへ………、そして……。
「消えろっ!」
と彼女が発するだけで、真っ黒な球はどんどん肥大化していく。
膨張し尽くしたその球が、
「あ、あがあああ!うぎゃあああああ!だずげでぇぇぇぇ!!」
侍を飲み込んでいったのだ……。
「あ…………消え……あ、あぁ…………」
何が起こったのか、理解できなかった。
侍が消えた。
一人の侍が消えてしまったのだ。
あの球に飲み込まれて……。
「………あの人に…っ、何を、したのっ!」
「『消えて』もらったのよ。文字通り。この球は一個一個が冥界、あの世に繋がるといってもいい。一瞬でものは闇、無に帰り、消える。この球から逃れるすべは、ない」
「――――――――――っっっ!!!」
恐怖のあまり、私の体は、金縛りのように動かなくなっていた…。




