第二十二話 江戸の街並み
私たちは、この街の観光をすることになった。
江戸と呼ばれているこの街は、四つの区域に分かれている。
私が最初に入ったのは、江戸区と呼ばれる場所で、最も広い。
江戸区以外には、尾張区、水戸区、紀伊区と呼ばれる場所があり、それぞれに江戸奉行、尾張奉行、水戸奉行、紀伊奉行と呼ばれる人たちがいて、彼らによって安全が守られているらしい。
そして、それぞれの区によってあるものが違っていた。
江戸区には、立派な城の他、住居が立ち並んでいる場所で、その家は全て木造の平屋が普通だった。
尾張区には、商人の人々が多く、商売の中心といった感じだった。
紀伊区は、職人の人々が多く、さまざまなものが作られ、商人に交換されていた。
水戸区は、やはり住居が多く、こっちの方が一軒一軒の家が大きく作られていた。
聞いた話によると、江戸区よりも水戸区の方がお金持ちの人が暮らしているらしかった。
「なんだか、本当にタイムスリップしてきたみたい……」
と、江戸時代にしか見えないこの街の風景を楽しんでいたのだった。
「なにっ?それは本当か?」
ところかわって、ここは江戸城。
バイル・トクガワは、息子の報告に耳を疑った。
報告というほどのものではなかったのだ。
少し変わったことがあったと、父親に息子が話していただけだったのだ。
ところが、話したとたん、バイルの表情が変化したのだ。
「…………ココが、この街の文字を理解し、お前を異世界人かと問うただと?」
「その通りじゃ。しかしのぅ。いったいどういうことなのじゃ?」
リーシィにはわからない。
当たり前である。
リーシィにとって、この江戸は自分の全て。
この街以外のことは噂程度でしか聞かないし、外交のためとはいえ、確かに世界共通の言語も学んではいるが、やはり自らの文化である漢字とは切っても切り離せない。
そんななか、よそから来たはずの人間が知っているということにも、それほど強い違和感を持つなどできなかった。
しかし、バイルは違う。
(もしかすると、「そんなこと」もあるのか……。いや、だが……)
彼は知っているのだ。
この江戸は、閉鎖的だ。
よそ者をあまり入れないというのは、自分の文化や精神を守ることにもなる。
その結果、宗教や文化は独自性を保ち、この江戸以外の場所には流出しない。
しかし、あの娘、ココが我が文化を知るというのは、あまりにも大きな違和感であった。
「…………一度確かめる必要があるのかも知れぬな……」
と、バイルは呟いたのだった……。
夕方になり、辺りは大分暗くなってきてしまった。
水戸区の博物館の中身に展示されている、日本刀と瓜二つの刀や、仏にしか見えない銅像の展示を見ていて、遅くなってしまった。
「すみません。遅くなってしまって!」
「いえいえ。我々も、夕食を遅くとってしまうなどということはよくあることでござるゆえ。この光石を使えば、夜でもかなり明るい」
と、光石と呼ばれる、魔力を少し送るだけで、しばらくはかなり明るく光るこの世界の光源を用い、部屋を明るく灯す。
このように、彼らは、この世界の文明をも持っていた。
「夕食までいただけるなんて、本当にありがとうございます」
「息子を助けていただけたご恩をこの程度では返せませぬ」
と、バイルさんはひたすらお礼の言葉を口にしていた。
「そういえば、どうでしたか?この江戸は?」
と、バイルさんはなにげなしに私に尋ねてくる。
「伝統を守った、いい街ですね。なんだか、私も昔のことを思い出しましたよ」
昔、というのは、日本で暮らしていたときのことである。
この江戸の文化を見ていると、どうしても、日本が頭から離れられずにいたのだった。
「………昔のこと、ですか……」
バイルさんは何か考え込むように箸を持つのをやめる。
私は最初、その様子にも特に気にせず食事を続けていたが、
「………ココ殿。折り入って、話がございます」
と、改まった様子で、バイルさんが話し始めた。
私は箸を置き、彼の話を聞くことにした。
「今日。リーシィに、『異世界人か』と尋ねたそうですな」
「は、はぃ」
「………どうして、そう思われたのでござる?」
「…………私も、異世界人なんですよ。私たちの世界ではね、『トクガワ』っていう名字の有名人がいるから、あなたももしかしてそうなのかなって思って………」
というか、なぜ、そんなことを聞くのだろう。
「我が父上が、『異世界人』に会うことを望んでいます。会ってはもらえないでしょうか」




