第三話 牧場の様子
次の日の朝。
私は朝に弱いらしい。
一方、リムおじさんもルイも朝起きるのは早い。
夜明けの少し前にはもう起き上がり、何やら着替えをしていた。
「ココにはまだ難しいだろうから。ルイ、一人で行ってきな!」
と言って、ルイとリムおじさんはどこかに行ってしまった。
「ぅぅ……、どこ行くのぉ?」
眠たそうな顔で私が言う。
「あぁ。ちょっとな。そうだ。ココ、お前料理できるか?できるなら、帰ってきたときに食事を用意してくれてるとうれしいんだ。頼めるか?」
「ふぃぃ〜。分かりましたぁ」
しかし、また睡魔は襲ってきて、私は眠ってしまった。
「ふわぁぁぁ。そういや、朝ご飯を作っておいてって言われてたんだった!」
私は服を用意してくれていた、ルイのお下がりを着て(私の元々着ていた服はあったようだが、洗濯している)台所に向かっていった。
そこには、フランスパンに似たような硬そうなパンがいくつかと、卵、野菜、ベーコンがあった。
普通の食事ではあるが、愛情たっぷりに作ろう。
二人が、喜んでくれるように……………。
「ただいま」
「おかえりぃ!」
リムおじさんとルイが帰ってきた。
まるで新婚生活のひとこまのようだ。
「もうご飯出来てるよ!」
と、野菜炒めと目玉焼き、そしてパンが朝食だった。
大したものではないが、それでも立派に作ったのだ。
「おぉっ!」
「すげぇ!ちゃんとした朝飯なんて。何年ぶりだろうっ!」
と、リムおじさんもルイも言った。
「えっ!?だって今まで二人で暮らしてたんだから、料理くらいどっちか出来たんじゃ…」
「それがどちらもできなかったんだよ。だからいつも野菜なんか生でサラダだし、目玉焼きとかスクランブルエッグが精一杯なんだよ!まぁそれもなかなか作れないから、いつもパンばかりさ!ありがとう。こんなにおいしそうなご飯を作ってくれて!」
だそうだ。
ついでに少し前に聞いた話だが、どうやら彼らには母親がいたのだが、とある事情で亡くなってしまったらしい。
それは辛かっただろう。
私がその代わりにでもなれればいいのだが。
「おいしいなぁ〜」
と、二人が食べてくれる。
彼らは、いつも朝早くから仕事のため、でかけるのだそうだ。
それなら、私はこの一家での食事や家事ができるようになれればいいと思っている。
そして、この一家の母親の代わり、娘の代わりになっていきたいのだ。
「あぁ。ごちそうさん。旨かったぁぁ〜」
「そうだなぁ。久々にうまいもん食っただ」
と、二人とも満足そうだ。
それは、私にとってもとても嬉しかった。
「お粗末様でした」
きっと、お母さんというのはこんな感じなんだろうな、と思った。
だって、やっぱりすごく嬉しいから!
私が作った料理を食べて、おいしいって言ってくれた!
それがとても嬉しかった。
食器を洗い、洗濯物をした。
しかし、まだまだ時間が余ってしまった。
そのため私は、家の外に出たのだ。
「モ〜!モ〜!」
という牛の鳴き声が響く。
外は野原だった。
夕方のときも見た。
向こうが見えないほど、地平線が広がる。
広大な野原だった。
そこに私たちのゲル型の家が立ち、さらに柵がついていて、これよりも先は牛が行けないようになっているようだ。
そして、その牛の乳を絞っている、ルイとリムおじさんが見えた。
「おぉ、ココ!来たのか!」
と、声をかけてくれた。
「これ、牛の乳だよね?もしかして、飲めるの?」
「うん。飲めるよ。でも、これは俺たちが飲むんじゃなくて、街に行って売りにいくんだ」
「へぇ〜」
「そしたらそれがお金になるだろ?それでまたものが買えるってわけ」
つまり、我が家は牛乳を生産することで家計を成り立たせているわけだ。
「でも。色が違う牛もいるよね?」
そう。
ルイが乳を絞っていたのは、白い牛だが、中には黒い牛もいるのだ。
「それは、食用の牛。殺して、そこから肉を取り出して売るんだよ。残酷だから、あまり見せられるもんじゃないけど。こっちもお金になるんだよ」
どうやら、牛乳だけじゃなく、牛肉も扱っているらしい。
そして、ルイもそれを経験したことがあるのだ。
「お仕事、大変なんだね」
「まぁね。でも、今は頑張らないとな」
「……? どうして?」
「お前を、守らないとな」
心なしか、ルイの顔は赤くなっていた気がする。
たぶん私の顔も赤いに違いない。
「………うん。………よろしく」
なんというか。
…………うれしかった。
旅立ちの日をいつにするべきか……