第十四話 剣神
「お前らルメイド一族のことの始まりは、数百年昔にこの大陸の全域を支配していた大国、リーユ帝国に由来する…」
リーユ帝国。
半年くらい前、修行中の私が勉強したこの世界の歴史に出てきた史上最強と言われる帝国の名前だ。
「その帝国にいた兵士のなかで、光魔法を操ったとされる者だ。昔は今ほど光魔法は貴重でもなかった。だが、光魔法だけでなく、あまりにも剣技に優れたその兵士、サンドルス・ルメイド。彼が勇者の一族の祖先だ。それくらいの歴史なら、お前も聞かされてるだろ?」
私は縦に首を振った。
私は確かにこの話を聞かされていた。
サンドルス・ルメイドの剣術があまりにもスゴすぎたため、彼は勇者だけではなく、『剣神』という別の称号まで持っているのだ。
「サンドルス・ルメイドは勇者として魔王を滅ぼし、英雄になった。だが、やつらの息子が駄目だった。息子は親父の権力を使って言った。『光魔法を持つ者を根絶やしにしてやる』」
確かに、ルメイドには血塗られた歴史があるとは聞いていた。
だが、歴史の勉強のなかでは、黒歴史だからなのかあまり教えられていなかった。
今聞いたのもはじめて聞いたものだ。
「そのあと、子供たちは次々と光魔法を持つ一族の絶っていった。名家であろうが、なんであろうがお構い無しだった。そしていつの間にか、光魔法は勇者の魔法として定着していた。他の者の光魔法は邪法。そう言われていた……」
そんなことは知らなかった。
だが、
「それだけでは留まらない。勇者は次に、国家権力を奪い取ろうと計画した。当時のリーユ帝国の王子、ハレール王子に、娘を何人か嫁がせた。所謂政略結婚だ。やがて彼らの間には王子が生まれた。その瞬間、ハレール王子を暗殺した。表向きは魔族による殺害とされているが、誰がどう見てもルメイドの仕業に決まっていた……」
血塗られた歴史、というのはこういうことなのだろう。
さまざまな人を暗殺して、自らは上にのしあがっていく。
それがルメイドたちのやり方だったのだ。
「当然次期帝王はそのルメイドの血を持つ王子だ。だが、それに反発した者たちによって担ぎ上げられた別の王子と対立していった。やがて対立は深まり、戦争に発展した。この帝国始まって以来の内紛だった。ルメイドを中心とした勇者軍と、帝王側近により作られた帝王軍に別れた戦争は、大陸全土に広がった」
この戦争については、私も知っていた。
なぜなら……、
「しかし、戦争は収集がつかず、仕方がなくリーユ帝国は二つに分裂した。帝王軍は帝王を擁護して『ボルケイロ帝国』を。勇者軍は新たな王を立てて、『レオードン王国』を建国した……」
そうなんだ。
これは、レオードン王国建国の歴史でもあるのだ。
まさかルメイドが関わっているのは思わなかったが……。
「………俺たちの国はこうして生まれた。このあと、何度もレオードン王国とボルケイロ帝国はぶつかりあった。だが、勇者というやつらが厄介だった。勇者の血を持つというだけで、神にでも選ばれたかのように振る舞いやがる。俺はそれがイラついて仕方がない。勇者だってただの人間に過ぎない。俺がそれを分からせてやろうと思う」
「…………っっ」
男はどうやら、ルメイドという遺伝子にこだわっているらしい。
だけど、そんなこと私にしたって。
この男はあまりに大きな勘違いをしているのだ。
「…………あの、さ」
「バカなことだと思えば思え。だがな。俺は自らの進む道を変える気はない。お前から他の一族のいる場所を聞き、殺してやる。どうにかまだ喋れるみたいだから、それくらいなら聞けるだろう」
「…………他の、人、たちも、殺すの?」
「当然だ。ルメイド一族がこの世から消えてもらうことが望みだ。そのためなら、お前のようなか弱き勇者であろうと何だろうと殺すさ」
ダメだ。「私は異世界から召喚されたから、ルメイドではない」と言ってみようかとも考えたが、これではダメだ。
第一この男がそれくらいで済むような人間ならここまでするはずがないし、他の人、リムおじさんやルイにまで殺しに向かわれたら、たまったものじゃない。
「絶対に、口は、割らない。諦め、てよ」
「それならば殺せばいいさ。また勇者が生まれる。次はお前の弟くらいか?」
「…………うぅ」
意味がなかった。
今は新たな魔王が即位している時代だ。
新たに勇者を作らなくては魔族に人間が支配されてしまうのだ。
私がこの場で力尽きれば、どっちにしてもルメイド一族は滅びる。
正直な話、一族がどうなろうと知ったことではない。
でも………。
「………私の、大切な、家族に、手は、出させない……っ!」
例えこの身が滅びようとも、ルイとリムおじさんは守るんだ。




