第十一話 獲物
「ダメだっ!」
「えっ…?」
「本日は帝国軍の兵士様の予予約になってるから、平民風情に貸すことなどできんっ!」
「………………はい。分かりました…」
どうやら今回は先客がいたようだ。
タイミングが悪かったと思うしかない…。
『全く!あれが客に対する態度かっ!』
なぜかドルクがカンカンに怒っている。
私もあまりいい感じの接客ではないとは思ったが、私が口を挟むこともどうかと思い、適当に言葉を返した。
「仕方がないじゃない。異国民は特別な人でなければ、全部平民の扱いでしょ?で、この国は階級があるから、平民は一番下。だから、身分が下なわけでしょ?なら、少し偉そうな感じになっちゃうんでしょ」
『それが気に食わんのだ。全くっ!』
人間の階級制度自体が、あまりドルクにはピンと来ていなくて、いい印象は持てないようだ。
私も一緒だが、まぁ仕方がないとも思えてしまう。
こんなところで、異国民の私がそんな論理を説いたところで、異端者扱いされるだけな気がする…。
「そんなことより、今日寝るところを探す方が大切だよ……」
『野宿をするしかないな』
「あまり野宿は好きじゃないけど、この際しょうがないか……」
野宿だと、体を洗うことも、服を変えることもやりにくい。
まぁ、今日は怪我をしてしまっているから、余計にではあるが…。
「なんか、普通にベットか布団で寝たいなぁ〜…」
『我はどこでも構わんがな……』
その辺りは、ドルク(ユニコーン)と私(人間)の違いだろうな、と感じた。
だが、うれしいことに、そこに助け船が現れたのだ。
「あんたたち旅人かい?」
「え、は、はい。そうですけど……」
「今、兵士が駐屯してるから、宿は使えないだろ?」
「そうですね。さっき行ったら、平民風情に貸す部屋はない、なんて言われて追い出されましたよ」
「まぁ、あいつらならそんなもんさ。家に来なさい。食事と寝床くらいなら、用意してあげるよ」
「ほ、本当ですかっ!?ありがとうございますっ!奥さんっ!!」
「いやいや。当然のことだよ」
と、当たり前のように親切にしてくれた。
それがすごく嬉しかった…。
家は、数件の家が集合して一つの建物となっている、長屋のような家だった。
家に入るとすぐに居間があり、そこには旦那さんであろう男性と、子供であろう男の子がいた。
三人とも仲が良さそうな、いい夫婦だった。
奥さんが私たちの事情を説明してくれると。
「それはそれは、大変だったでしょう。この国の身分制はかなり厄介でしょう。でも、街の人々はみな、優しくてすばらしい人たちばかりなんですよ」
と、説明してくれた。
私は、「そうですね」と笑顔で答えたのだった。
その日の夕食は、スープだった。
「身分制のせいで、買える食べ物まで決まってしまっていてねぇ。パンは、平民は買うことを許されていないんだ……」
食事にまで制限がかけられているとは。
かなり面倒な国だな。
私はそんな認識をしてしまった。
「それよりお姉さんって、どうして旅をしてるの?」
と、男の子が尋ねてきた。
男の子は、私よりも小さな子なので、私のことをお姉さんと呼んでいた。
「………うん。私ね、実は、勇者なのよ」
「…!!?それは、本当かい!?」
突然、食卓の空気が凍りついた。
やっぱり、隠していた方がよかったのか…。
「それは危ないな。しばらくここを出ない方がいい…」
今度は旦那さんまでもがそう言った。
「どうして、です?」
「この国は、勇者の一族を忌み嫌うリオライ三世っていう将軍がいるのよ…。今、この国の宿にいる。捕まるかも知れないわ…」
「………!!」
大変なことをしてしまった。
だって、もしも忌み嫌うなら、私がこの国に入ったこと自体もダメだし、なおかつ、匿ったことまで、犯罪になってしまいかねない。
「………どうしよう。あなたたちを巻き込んじゃったよ……。ごめんなさいっ!」
「気にしないでいいのよ。だから泣かないで。大丈夫。バレてはいないわよ。ね?」
「でもぉ……っ」
泣きそうになる。
こんなに親切な人なのに、私のせいで罪人になんてなってしまったら……。
「君は何も気にしなくていいよ。家に入れたのは私たちだからね」
なんて優しい家族なんだろう。
私は胸が痛んだ……。
所変わって、宿屋。時間は少し遡る―――――
「なにごとだ。全く、カウンターから怒鳴り声が響いていたぞ?」
「将軍様っ!?大変申し訳ありませんっ。平民が宿に勝手に入り込んで来たものですから」
すぐにへりくだった様子になる宿屋の主。
「平民?となると、異国民か?」
「恐らくそうでしょう。服装もかなり変わっていましたし」
「ほぅ」
宿屋の主は服装まで説明を始める。
「ゴツい剣を持った女なんですよ。しかも髪の毛も目も真っ黒でしたね〜」
「ほぅ。黒髪黒目か。珍しいな……」
この国ならずとも、どの国にも、あまり黒髪はいない。
だが、将軍は、黒髪黒目についてとあることを覚えていた。
「……(確か、少し前にレオードン王国に新たに誕生した勇者が、黒髪黒目だったような…)」
いや、まさかな。
そんなこと、考えにくい、が。
「調べてみるのも手かもな……」
そう言って、どこかに立ち去ったのだった―――――
「というわけだ。剣を持った、黒髪の女を追え。分かったな?」
「御意」
黒い装束を身に付けた男は、将軍の言った言葉に承諾し、消える。
彼らは空魔法の使い手だ。
スパイなどの工作技術が高い。
さてさて、どんな獲物が釣れるか、楽しみに待つか。
と、自然と悪そうな笑みを浮かべる将軍だった……。




