第五話 魔力暴走
「起きろっ!」
「…………ぶはっ!ゲホッ、ゲホッ!」
目が覚めたとき、口や鼻から水が入って目が覚めた。
どうやら水をぶっかけられたみたいで、全身ずぶ濡れになっていた。
「さっさと起きろ。ノロマっ!」
「す、みませ、ん」
苦しいのをがまんして、謝ると、目の前に、私と同じような年齢の男性がいるのだ。
「っ!」
「なんだ、その反抗的な目は?舐めてるのか?あぁ!?」
手には木の棒を持っている。
それで叩きつけて言うことを聞かせるのだろう。
もしかしたら、私が殴られたのもその棒なのかも知れない。
「レモンが払えない分はちゃんと働けよな」
「……………っ」
今怒っても仕方がない。
ただ睨み付けることしかできない。
「仕事は、ここでずっと服を作れ」
「……」
「返事は…」
「はい……」
服を作る作業。
そこには、私以外にも数名の子供がいた。
私と話した、青い髪の毛の女の子もいたのだ。
「…………やぁ。昨日はありが……」
「そこっ、喋るなっ!」
鞭を背中に入れられる。
「いっ…」
「…………」
女の子は、私の方を見なかった。
仕事をしてるときは、絶対に喋ってはいけないようだ。
いや、こんなの仕事なんて言えるようなものじゃない。
ただの奴隷だ。
こんな生活してたら、確かに絶望しか生まれないだろう。
「……………助けなきゃ。この子達を……」
私は決めた。
この子達の力になる。
こんな暮らしは、絶対に間違ってる。
どれくらいの時間が流れただろうか。
「ぎゃあああぁっ!」
という叫び声が聞こえた。
「さっさと働け!おらぁっ!!」
男の子に何発も鞭をいれていた。
男の子は涙を流して謝っているが、全くをもっていうことを聞かない。
「ごめんなさい。ごめんなさぃ」
「ちょ、やりすぎじゃ…」
「だめだよ。関わらない方がいい。アイツ、すぐにいじめてくるから……」
女の子は、ようやく私に声をかけてきた。
アイツ、というのは、さっき私に水をぶちまけてきた彼だった。
働けと脅して、ひたすら鞭をいれる。
男の子は、鞭を入れられ、恐怖と痛みに耐えながら、謝り続けていた。
土下座の格好をし、ひたすら許しを乞う。
頭を守っているため、腕や背中には、ずっと鞭が当たり続けている。
「やめてあげなきゃ、あの子……」
「無理よ。もうあの子は、助からない……」
男の子の背中から、血がにじみ出てきた。
何度も背中を打たれたのだから、当然ではある。
服には血の色が滲み、広がっている。
見ているこっちも、痛々しい……。
「やめてあげなきゃ、死んじゃう……」
「もう殺されちゃうよ。あれじゃあ……」
何度も彼女は、この辛い状況を経験してきたのだろう。
言葉はとても冷たいが、それはきっと、今までも同じようにされていた子供を見たに違いないのだ。
「役立たずは生かしておく価値などない。油を持ってこいっ」
「! いやっ!それだけは!それだけはお許しを!」
油という言葉に、男の子が敏感に反応してしまう。
しかし、男の子は足で蹴り飛ばされ、壁に激突する。
「油って………何をするの?」
「……………燃やすんだよ」
「燃やす…?あ、あの、男の子を?」
「そういうことだね……」
いきなり突きつけられた、残酷な答え。
彼女が言ったように、男の子には、油を全身にかけれる。
そして……、
「クズは燃やすに限る。灰になって反省しろ!このゴミがっ!!」
男は、炎魔法の使い手らしかった。
手から突然炎を作ると、男の子に向かって、投げつけたのだ。
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!あづっ!あづっ!あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーっ!!!」
油のせいで、男の子はいっきに火だるまになってしまう。
私は目の前の光景に、耳から聞こえる絶叫に、この状況に、怒りが芽生えるのを感じた……。
「こんな……こんなに、人の命を、大切にしないやつが……いるなんてっ」
かつて、リムおじさんが毒まみれになったとき。
あのときと同じような、パニックと怒りが混ざった感情が、私の体を駆け巡った。
「っ!――――――」
さっきの怒りが、魔力の暴走を引き起こす。
全身をうねるような激しい魔力が私の全てを包んでいた。
無我夢中で、私は両手を前に突き出す。
魔力を手のひらに凝縮して、エネルギーを集める。
わずかな時間で拳大ほどの光魔法の塊が生まれ、そのエネルギーは膨大に膨れ上がる。
「光魔法よっ!全ての魔法を打ち返し、世界を光へと染めろっ!!いけぇぇぇぇぇっ!!!」
光魔法は、男の子の方へ、誘導されているかのように飛んでいった。