第四話 レモン
村から離れて、しばらく。
いかにも巨大な森が現れ、そこをずっと歩き続けた。
村の中で野宿をすることにもなったが、光の魔法を使い、辺りを照らして眠った。
それが何日も経ち、ようやく森を抜け出した。
そして、その森のすぐ近くにある街にたどり着いた。
リブルスと門に書かれているため、この街はリブルスというのだろう。
この街も人がそこそこいて、盛んに商売も行われているようだ。
しかし、街が大きくなれば大きくなるほど、街自体の問題点も浮き彫りになっていく…。
「レモンはいかがですか〜」
恐らく私よりも小さい年齢、まだ10歳くらいの幼い少年、少女たちが、商売をしていた。
かごに入ったレモンを、一個10ゴールドという値段、格安の金額で売っていたのだ。
レオードン王国の都にも、このような少女や少年はいた。
だが、やはり数は少な目で、そんなに目立った様子ではなかった。
しかしこの街では、そんな子供たちが数多くいるらしかった。
普通の大人よりも、子供の商人の数の方が多そうだった。
「…………どうしてこんなに子供が…」
「お姉さん。レモン買ってくれませんか……」
「………ごめんね、お金は持ってないのよ」
「その剣でいい。レモンと交換してくれない……?」
「これは無理なんだよね。ごめんね?」
「だったら服は?上の服だけでいいの!お願い、買ってよっ!」
気がつくと、私の周囲には、子供たちによって囲まれていた。
「な、なによ……、これっ」
「………買ってよ。私たちのために……。私たち、少しでも売らないと、今日の食事も取れないんだよ?旅人さん……」
「―――――っ」
追い剥ぎ+恐喝。
さすがに子供たちに手を上げるわけにはいかなかった。
「…………買えばいいの?」
「買ってくれるの?やったぁっ!ありがとう。じゃあ、レモンが一個150ゴールドで、ここにあるのは、全部で100個だから、15000ゴールドで〜す」
「………さっきと値段が違うっ」
これはやばい。
すでに私の周囲には子供たちがたくさん集まっていた。
完全にただのぼったくりだ……。
ただ、本当に怖い。
なかには私とあまり変わらなさそうな年齢の人までいるのだから。
「お姉さん、お金持ってないの?だったら……、『お姉さん自身』で払ってよ!」
「はぁ!!?
―――――っ!」
頭に衝撃が来る。
何かで殴られたみたいだ。
私の意識はどんどん遠退いていった―――。
「…………」
「お姉さん、お姉さん」
「ん?」
頭がくらくらとする。
ずっしりと重たい。
「大丈夫だった?お姉さん?」
「どこ…?ここ……」
私がいるのは光があまり入らない暗い部屋だった。
何もない、暗い部屋。
しかし、鉄格子の扉があり、鍵がかけられている。
まるで牢屋のようだと思った。
そして、自分の体にも異変があった。
首輪がつけられている。
犬みたいで、嫌な気分だ。
その他には、ホーリーゴールデンブレードがなくなっていた。
あれは非常に大切なものなのだが……。
「私、何でこんなところに…」
「ここはね、この街の地下。小さな子供たちが集められて、無理矢理働かされてるの。地上で商人として物を売る仕事をしている人にさらわれて、地下で働かされてるの。子供の商人にあったでしょ?あの子達がさらってくるの。さらわれたら、二度と地上を見ることはできないの。ここで、死ぬしかない……」
その子は私に全てを話してくれた。
私よりも何年も年下のはずなのに、もう自分の寿命を悟って、明るい夢すら見ることを許されないなんて……。
「………許せない…」
「……でも。歯向かったら、その場で殺されちゃうの。そうやって、何人も、殺されたし……」
彼女の顔が暗くなる。
辛い過去をふれてしまったみたいだ。
「ごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど……」
「ううん。気にしないで……」
そんなことを話ながら、周囲の状況を確認してみた。
目の前の少女。
青い髪の毛に、同じく青い目。
ボロボロのワンピースを着ている。
元の色は分からない。
泥の茶色や、血の赤のような色もついている…。
その少し後ろに、虚ろな目をして、どこかも分からないところを見ている少女や、寝転んだまま動かない男の子など、私を含めて20人くらいいた。
どの子供も、子供ならではの元気なんてない。
どの子も、この世界の全てに絶望した暗い表情だった。
いったいどんなに辛いことをさせられるのだろう。
私も怖くなったが、どうしたらいいかも分からず、暗い部屋で永遠のような時間を過ごした。