第二話 村にて……
私はただひたすら歩いた。
地図を広げ、魔族が住むと言われる、魔界と呼ばれる大陸に進むため、南へと向かっていった。
魔界に行くまで、三つの国の国境を渡る必要があった。
一つ目は、レオードン王国とボルケイロ帝国の国境。
そのままボルケイロを歩くと、次はニーマイ共和国との国境だ。
ニーマイとレマー王国の境を通れば、残されるのは魔界となる。
つまり、これから長い時間がかかるというわけである。
それまでは、のんびりと旅をしていくしかないだろう……。
と、いっている間に、何やら村のような場所に着いた……。
「………す、すいません……」
「おうっ。どうした、お嬢ちゃん!この辺りじゃあ見かけねぇ顔だが」
「私、旅をしてまして……。宿ってここにありますか…?」
「ほぅ。お嬢ちゃん一人で旅とは大変だなぁ。宿ならちょっと向こうにあるよ…」
と、通りの少し先を指差したおじさん。
「ありがとうございます…」
「おぅ!ゆっくりしていきよ!」
と、おじさんは旅人大歓迎のような振る舞いだった。
おじさんに言われた宿は、ある程度清潔感のある、民宿だった。
「はい。お一人さまですね。3号室が空いていますので、そこがお部屋ですね。夜7時に食堂でお食事を出しますので」
と、民宿とは思えないほど、そこそこの旅館並みのサービスをしてくれた。
夜7時まで暇だ。
私は村の観光をすることにした。
この村は、十数軒のレンガ造りの家と、その数倍の広さの畑で成り立っていた。
特に観光できるものは何もなかったため、適当に畑を眺めていた。
野菜が作られている畑のようで、村人が何人もかかって農作業をこなしている。
そのテクニックは、やはり何年も積んだものなのだろうと、私はその姿がベテランの凄技に見えたのだった。
「お前、なまいきなんだよっ!」
「うっせぇなぁっ!関係ないだろっ!!」
大人たちが農作業をしている間、子供たちは家で遊んでいるようだった。
しかし、二人の男の子が喧嘩をしている様子が見えたのだ。
「お前、村長の息子だからって生意気なんだよ!」
「こいつがいやがってるんだから、そんなことしちゃダメだろ!」
そこには、体の大きく、何年か年上なのかも知れない男の子と、少し小さな体の男の子がいた。
小さな方の男の子は、泣いている女の子を庇うようにして、両手を広げ、大きな男の子を睨み付けている…。
「オレは、泣き虫を治してやってんだよ!お前に怒られる筋合いはない!」
「嘘つけっ!泣かしてるだけだろっ!」
お互いに、噛みつきそうなくらい喧嘩がヒートアップしている…。
これは、年上のお姉さんてきな存在として、止めるべきだろうか?
「お前なんか!こうしてやるっ!」
大きな男の子の方が拳を降り下ろしてしまった。
小さな方の男の子は、歯を食い縛って目を閉じた。
「はい……、そこまでにしておきなよ」
私は、でしゃばってしまった……。
男の子が拳を降り下ろしているのを、私が手で受け止める…。
これくらいのパワーなら、片手でも止められるほどの実力なら付けてきた…。
「…………何の用だよっ!」
「喧嘩はダメだよ……、ね?」
「うるさいなー!部外者は引っ込んでてよ、おばさんっ!!」
「おば―――――」
まさか、そんなこと言われるとは思わなかった。
まだ一応未成年なんだけど……。
こんな子供におばさんって言われてしまった。
ちょっと涙目になりかけたが、
「人に向かっておばさんって、失礼でしょっ!それより喧嘩はダメだよ」
「うっせーなー!おばさんはおばさんなんだよ!引っ込んでろよっ!」
それでもなお、反発する男の子。
涙がウルウルと出かけてるが、抑える。
「ひどい……。そんなこと、言わないでほしいな……。それより、喧嘩は、やめないと―――」
「おばさんっ!いいから黙っててよ!」
限界が突破した。
私は頑張ったと思うんだ。
だって普通に考えて、こんなにおばさんって言われたら、泣きたくなるのが本望だと思う。
もう大人なら仕方がないとも思えるかも知れない。
私も年をとったんだなぁと思えるかも知れない。
でも私は、まだ未成年であり、お姉さんと呼ばれるならまだしも、おばさんなんて呼ばれる筋合いはないと―――――
「あ〜あ。泣かした…」
「こんなことぐらいで泣くなんて、ガキかよ!」
「……………………………………………」
涙はもう出てしまっている。
男の子の拳を受け止めた方の手を必死で握って、涙を止めようとしている。
「……………うっさいっ!泣いてなんかないもんっ!」
「うぁっ、いた、いたっ、いだだだっ」
手に力が入る。
信じられないくらい強い力だ。
男の子が痛がってる。
「わ、わわっ、悪かったってっ!いたいから、痛いから、やめろってっ!」
男の子は頑張って振りほどき、逃げてしまった……。
残ったのは、喧嘩を止めたはずなのに泣いてる、十代後半の「女の子」と、喧嘩を止めてもらったはずなのに、ずっと慰めてる十代前半の男の子と女の子だけだけだった―――――
しょーもない話が出来てしまいました。ごめんなさいごめんなさい、本当にごめんなさい…