雲の形
ある秋の日、僕らは学校の屋上でなんとなく空を見ていた。アカネちゃんと、アキラくんと、それから僕で。誰も何も言わない。雲がいくつかプカプカと浮いていた。そのうちに上空で風が強く吹き始めたのか、大きな雲がちぎれていき、様々な形の小さな雲がたくさん漂い始めた。
その小さな雲のうちの一つが、僕にはふと気になった。二つの三角形に丸い形。その組み合わせが、まるで猫みたいに思えたからだ。それで僕はこう言ってみた。
「ねぇ、あの雲、まるで猫みたいじゃない?」
そう言うと、アカネちゃんもアキラくんもそれに同意してくれた。
実はつい最近、僕らは猫を殺している。わざとじゃない。猫を捕まえて、飼おうと思って首輪で繋いでいたら、夜中に暴れたのか、翌朝、その首輪に吊られてその猫は死んでいたのだ。多分、だから猫の形の雲が気になったのだろうと思う。
それから、アカネちゃんが言う。
「ねぇ、あの雲は金魚に見えない?」
彼女はその雲を指で示していたけど、僕にはそれがどれか分からなかった。アキラくんにも分からなかったらしい。
今度は僕が言う。
「ねぇ、あれはカブトムシに見えない?」
ところが、指差してみたけど、アカネちゃんもアキラくんもそれがどれか分からないようだった。ちょうど空の真ん中辺りにその雲はあったのだけど。
次に、アキラくんが言った。
「ねぇ、あれは人間の子共に見えない?」
だけど、やはりその前と同じで、僕もアカネちゃんもそれを分からなかった。
その時、僕は思い出した。
つい先日、僕がカブトムシを殺していたことを。それに、確かアカネちゃんは、飼っていた金魚の世話を怠けて殺していたはずだ。
そしてそれから思い出した。
ちょっと前に、僕らの学校で、転落事故があった事を。原因は不明。僕らと同じくらいの男の子が死んでいる。
アキラくんが言った。
「どうして分からないのだろう? あんなにはっきり、男の子の形をしているのに」
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