例えば東南アジアの戦争に最前線で銃撃戦に挑む手練れた女軍人の話
それの見た目は、華奢な女であった。
日射しが肌を焼き付け、顎から滴り落ちる汗がその乾いた地面に染み込んだ。
まとわりつく衣服に苛立ちを感じながら、手に抱える硬い銃器を指先でなぞる。
ふと頭に流れた、低いドラムの効いた古い洋楽だったが、流石に好ましくないと流行る心を抑制し、誤って口ずさむまいと努力する。ところが体はリズムを欲していたようで、無意識に拍子を刻む足は軽快であった。拒否など、どうやら困難であるようだ。
「まさに名ばかりの防衛部が総動員で、まあ例えタスクフォースが介入したとしても、彼等はとうに崩壊寸前だ。当然体力、戦闘射撃技術の劣化は明白の事実。さらに軍資産の目まぐるしい低下に加え、上層部にはびこる歪んだヒエラルキー、圧倒的な戦力差を前にした時に起こりうる抗争混乱。戦の全ては経験が語るのさ。敗北は既に、自明のこと」
加えた煙草を吐き捨てる。脇に下がる無線が合図を開始した。彼女は口角を上げる。
「楽し過ぎるよ、全く」
銃器が叫んだ。
それは真夏の日昼下がりの出来事であった。