第5話
焼け野原となった街を出て、巨大なピラニアシャークはロサンゼルスがある方向へと向かっていった。
まるではじめからそうするのが定めと言わんばかりに真っ直ぐに。
「アイツ、いったい何をするつもりなんだ?」
「知らないわよ! 早く逃げましょう!」
取り残されたマイケルとミリーは炎に巻き込まれないよう街から離れていく。幸いにしてゾンビ達はウェルダンに焼けていて襲ってくる素振りもない。
周囲は一面焼け野原、せめて生き残った車でもあればよいがと考えたが、どこを見渡してもそんなものはない。
「何かないか?」
「何にもないわ。どうすればいいの?」
火の粉が舞う夜空を眺めて立ち尽くしていた。そんなときだ。
『そこの民間人! 今救助してやるからな!』
突如としてモーター音と共に、拡声器の大きな声が響く。声の主はいずこなりやと視線を動かせば、夜空をヘリが一機で飛んでいた。
「軍だ! 助けに来てくれた!」
「やったわ!」
縄梯子が下ろされ、早く上がってこいと怒声が聞こえてくる。マイケルとミリーは急いで上がっていった。
「急げ急げ! やつらが来るぞ!」
ヘリに乗る軍人がそう叫んできた。
「やつら?」
「いいから早く登りなさいよ!」
ミリーに急かされマイケルは急いで上がった。
「民間人2名を収容! 急げ! 早く離脱しろ!」
「急げ急げ!」
ヘリ内で軍人達はすさまじく動揺していた。何か後ろを見ながらまるで悪魔でもいるかのように。
「あの、なんでそんなに急いでるんですか? あいつならもうどこかにいっちゃいましたけど……」
「一体いつからアイツが一匹だと錯覚していた?」
「なん……だと?」
軍人が指差す方向に恐る恐るマイケルとミリーは視線を向ける。
そこに見えてくるのは無数のうごめく巨大な生物達。
「ぴ、ピラニアシャーク……それがあんなに沢山……」
「ひぃいいい!!」
先ほど見た巨大なピラニアシャーク、それがまるで壁のようにゆっくりとこちらに向かってきているのだ。その数は最早数える気にもならないほど。
横一列に並んで、ゆっくりと歩いてきている。
「他の部隊はアイツらに全部やられた。一匹二匹なんてもんじゃない。いまは兎に角逃げるしかない。急げ! ここを離脱する!」
ヘリは高度を上げ、フルスピードで街を去っていく。下を見れば絶望の光景が広がっていた。
ピラニアシャークの群れが大地を埋め尽くすように行進していたのだ。立ちふさがるものはない。建物を破壊し、森を踏み潰し進んでいく。
「祈りましょう……アメリカが勝てるように。アーメンハレルヤピーナッツバター」
「「「「アーメンハレルヤピーナッツバター」」」」
その頃、ホワイトハウスにて……
「敵は広範囲で街をを突破し前進しております。カリフォルニアはデストロイモルモットが占領しております。巨大なピラニアシャークは隊列を組んでデストロイモルモットの居る方角へ行動しており、アメリカ全土で発生したゾンビの群れも、カリフォルニアに向かっています」
人で一杯の執務室の中、地図を睨む大統領に指で示しながら報告を済ませる軍の上級将校達。大統領は眼鏡をかけ、眉間に皺を寄せながらつぶやいた。
「州兵の攻撃で平穏を取り戻すだろう」
大統領の言葉に、将校たちはお互いに目を見合わせる。誰が言い出すかと考えていたが、1人を皮切りに続いた。
「大統領閣下……州兵は……」
「州兵は兵力の消耗が激しく。戦闘能力はありません」
震える指で眼鏡を取る大統領は絞り出すような声でその場に居る全員に聞こえるように言った。
「……4人だけ残れ。カーシュ、ヨーク、クレイトン、ブラックモア」
呼ばれた者以外が出たのを確認した大統領は、激昂した。
「一体どうしてこんなことになる!? モルモットだのピラニアだのゾンビだのなんでそんな非科学的な生き物がポンポン出てくる!? 訳が分からない! 大ッ嫌いだ!」
「大統領、どうか落ち着いて」
「大ッ嫌いだ! クソッたれのヴァーカ!!」
「大統領、いくらあなたと言えども言い過ぎです!」
大統領は止まらなかった。唾を飛ばしながら将校を前に拳を振り上げ激昂する。
「私も生き物の保護だの環境の保護など考えず、フロンガスもオイルもどんどん使ってやるべきだった! 使って生物の虐殺をやるべきだった! スターリンみたいにな!」
一通りキレた大統領は席に座り、眉間を押さえて指示を下した。
「……核を使おう」
ぽつりと漏らしたその発言に将校達が顔を見合わせる中、大統領は次の指示を出した。
「だが核は最終手段だ。現在もちうる全ての兵器をもって、あの化物を攻撃しろ。大戦中のがらくたでも、記念館のミズーリでも何でも使って粉砕しろ」




