第1話
20XX年8月7日、アメリカ合衆国カリフォルニア州のとある川にて。
「「「ウラーーーーーーーー!!」」」
ビキニを着た若い女達が川に飛び込んでいく。
ここにある若者の集団がいた。大学生の男5人、女7人の計12名だ。
キャンプついでに泳ぐため、ここへわざわざ足を運んだ。
川岸ではテントを張ったり、焚き火の準備をしていたがそれとは別になにやら2人だけでひそひそと会話する男達がいた。
「マイケル、今回のキャンプはお前の童貞卒業の為に俺が企画してやったんだ。うまいことやれよ? 気に入ったやつがいたら俺に言え。うまいこと人払いしてやる」
痩せぎすの男に肩を組み、白い歯を見せながら笑うのはヘンリー、大学でラグビーチームのリーダーを勤めている筋肉モリモリマッチョマンだ。
「あ、ああ分かったよ」
自信なさげなのはマイケル。ヘンリーとは正反対とも言える男だ。青白い肌とくすんだ金髪、メガネをかけ、いつもラップトップを持ち歩き、なにやら冴えない顔をしている痩せぎすの男。
「ぼ、僕の為にありがとう。なんとかやってみるよ」
「ガキの頃から一緒にやってきたじゃねぇか。気にすんなよ。まぁまずは楽しめ。ほら」
そう言ってヘンリーはビール缶を投げて寄越した。
「がんばれよ?」
盛大にビールを吹き出させるマイケルの肩を叩くと、ヘンリーは女達の待つ川へと走っていった。
「ヘンリー! 早くこっちにきてよー!」
「新しく水着買ったの。どう? 綺麗でしょ?」
「ああ確かに水着『は』綺麗だな」
「うん?」
川に飛び込み水着の女と戯れるヘンリーを尻目に、マイケルはビールを一気に飲む。
「ヘンリー……なんとかしてみるよ」
マイケルは懐から出したバイアグラを握りしめ決意を胸にとりあえずビッチで有名な女子に声をかけることにした。
その日の深夜。
「ぴぎっ!」
月明かりだけが地面を照らす中、マイケルの短い悲鳴と共に乾いた音が鳴り響いた。
「私は誰でもいいわけじゃないわ!」
マイケルは学校でビッチと有名な女、エマに迫ったのだ。しかし結果は空振りに終わった。
マイケルは頬にビンタを食らい、肝心のエマは服を脱いで川に行こうとしている。
「……戻るか。僕には無理だったんだ」
下着姿のエマを後ろから眺めつつ、ぽつりといいながらテントの方に向き直る、ランタンの光が中の様子を影として写し出していた。
ヘンリーと思われる影ともう1人の男は女達とよろしくやっている。
「……ああ、お幸せなこって」
ラップトップもテントに置いてきてしまった。仕方なくマイケルはその場に座り、エマが泳ぐ姿を眺め始めた。
「どうせこうなるならカメラくらい持ってくればよかったかな? そうすれば後から楽しめたのに」
濡れて張り付いたエマの下着姿を見ながら毒づく。
せめて月でも眺めて落ち着こう、そう思っていたときだった。
「キャ──」
短い悲鳴と共に、エマの姿がマイケルの視界から消えた。
「え?」
あわてて立ち上がったマイケルは川の方を見る。
水面が激しくバチャバチャと揺れている。
「大変だ! おおいみんな!! エマが! エマが溺れてる! 早くきてくれ!」
テントに向かってマイケルは叫んだ。
「なんだ!? どうしたんだ!?」
テントの入り口からパンツだけ履いたヘンリーが出てきた。
「エマが溺れてる!」
「言ってる場合か助けに行け!」
慌てた2人はいまだ水音を立て続ける川へと向かった。のだが……
「血!?」
「ワニでも居るのか!?」
月明かりに照らされて、水面が見える。そこにはエマの姿はなく、変わりにおびただしい量の血が流れていた。
「まてヘンリー! ダメだなにかいる!」
「うるせぇ!」
ヘンリーはマイケルが止めるのも構わず川に飛び込んだが……
「ぐっうぁぁぁぁっ!!」
「ヘンリー!」
ヘンリーは飛び込んだ次の瞬間には水面に顔を出して苦悶の表情で血を流していた。
「ヘンリー! 手を出せ!」
「エマを助けてからだ! エマ! お前の生理は激しすぎるぞ!」
血塗れになりながらもヘンリーはぐいとエマの腕らしきものを引き、なんとか川から上がることに成功した。
しかし、引き上げられたエマの姿は悲惨だった。
「ヘンリー! エ……マ?」
血塗れのヘンリーに抱き抱えられたエマは顔や身体を何かに食いちぎられたのか半分くらいのサイズまで小さくなっていたのだ。
そしてヘンリー自身もまた、腕と足を何かに噛みちぎられ大量に出血している。
「おい何があったんだ!? ヘンリーは!?」
「きゃああああッ!! エマ! エマァァァァァ!!」
遅れてやってきた同級生達はヘンリー達の変わり果てた姿を見て悲鳴を上げる。
「マイケル……そいつだ。そいつがエマを食い殺した」
「なに?」
脂汗をかきながら震えるヘンリーが指差す方向に、それはいた。
ビチビチと川岸で跳ねる魚のような何か。それは身体はピラニア、顔はサメの生物。成人男性の腕ほどもある大きな魚だ。
「ピラニアシャーク、とでも言っておこうか。そんなのがいるとは思わなかったけどな」




