表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『義実家で家政婦扱いされる私に、冷徹な義兄だけが「逃げるための給料」を渡してくれた~夫を捨てて幸せになります~』  作者: 品川太朗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/10

第9話「裁判という戦場」

証拠は揃いました。

いよいよ、身勝手な夫と義母への断罪の時間です。

 電話に出た夫・ユウジの第一声は、予想通り間抜けなものだった。


『おいミユ、どこにいるんだよ? 母さんが「夕飯まだか」って怒ってるぞ。早く帰ってきて謝れよ』


 私は冷静に、事務的に告げた。


「帰りません。離婚してください」


『は? ……何言ってんの? 冗談だろ』


「本気よ。弁護士を通じて書類を送ります。もう二度と、あなたたちの顔を見るつもりはありません」


 一方的に通話を切ると、私はスマホの電源を落とした。

 震えていた指先は、もう止まっていた。


 それからの展開は泥沼だった。


 ユウジと義両親は離婚を断固拒否。「嫁の分際で家出など許さない」「育ててやった恩を仇で返すのか」と、私の実家にまで電話をかける騒ぎとなった。


 だが、今の私には最強の味方がついている。

 リョウさんが紹介してくれた敏腕弁護士だ。


 話し合いは決裂し、舞台は家庭裁判所での調停、そして訴訟へと移った。


 裁判の日。


 法廷で対峙したユウジと義母フミエは、私を見るなり鬼のような形相で睨みつけてきた。


「ミユ! いい加減にしなさい! 家族の恥を晒して、何様のつもり!?」


「ユウジくんは仕事で疲れてるのに、こんな所まで呼び出して……! あんた、それでも妻なの!?」


 相変わらずの罵詈雑言。

 けれど、私は眉一つ動かさずに彼らを見据えた。


「私はもう、あなたたちの奴隷じゃありません」


 裁判が始まると、相手側の弁護士は「妻としての務めを放棄した」「性格の不一致に過ぎない」と主張し、離婚の無効と帰宅を求めた。


 こちらの弁護士が、静かに一冊のファイルを提出する。


「原告は被告らにより、著しい精神的苦痛と経済的搾取を受けていました。これがその証拠です」


 提出されたのは、リョウさんが作成してくれた『給与明細と振込記録』、そして私が毎日つけていた『家事・業務日誌』だった。


「原告は朝四時から深夜一時まで労働を強いられ、被告・相沢フミエ氏は、原告の正当な労働対価である給与を半年間にわたり横領していました」


「なっ……!?」


 義母が顔を真っ赤にして叫ぶ。


「人聞きの悪い! あれは嫁の管理をしてやってただけよ! 家族なんだから財布が一緒なのは当たり前でしょう!」


 そこへ、証人として証言台に立った人物を見て、義母とユウジは絶句した。


「……リ、リョウ……?」


 スーツ姿のリョウさんは、氷のように冷たい視線を家族に向けた。


「会社の代表として証言します。私は相沢ミユ氏に対し、正当な給与を支払っていました。しかし、母・フミエは『ミユには金を持たせるな』と要求し、全額を搾取しました。これは明確な経済的虐待です」


「兄貴!? お前、俺たちじゃなくてミユの味方するのかよ!?」


 ユウジが情けない声を上げる。

 リョウさんは弟を一瞥し、冷たく言い放った。


「俺は正しい方の味方をしただけだ。……ユウジ、お前は夫として彼女を守らなかった。母さんの言いなりになって、彼女を壊そうとした。その罪は重いぞ」


 さらに、法廷には私が密かに録音していたボイスレコーダーの音声が流された。


 半年ほど前、リョウさんが「自分の身を守るために持っておけ」と、こっそり渡してくれたペン型のレコーダーだ。そこには、日々の罵声が鮮明に残されていた。


 『食い扶持分は働け』『無料の家政婦』『邪魔だ』


 罵倒の数々に、裁判官の表情が険しくなっていく。


 勝負は、一瞬でついた。

 判決は、私の全面勝訴。

 離婚の成立と、義実家およびユウジに対する多額の慰謝料支払いが命じられた。


「嘘よ……こんなの、嘘よぉぉ!」


「金なんてないぞ! 兄貴、なんとかしてくれよ!」


 泣き崩れる義母と、リョウさんに縋り付こうとするユウジ。

 しかし、リョウさんは彼らを冷ややかに突き放した。


「俺に頼るな。……ああ、それから。俺も今日限りでこの家との縁を切らせてもらう」


「え……?」


「会社からの仕送りも、実家のローンの補填も、全て打ち切る。これからは自分たちの稼ぎだけで生きていけ。……まあ、無料の家政婦も俺の金もない生活が、どれだけ厳しいか知るといい」


 その言葉こそが、彼らへの最大の罰だった。


 裕福な生活はリョウさんの援助があってこそ。そして快適な生活は私の犠牲の上に成り立っていた。

 その両方を失った彼らに待っているのは、破滅への緩やかな坂道だけだ。


 呆然と立ち尽くす元家族を背に、私は法廷を後にした。

 裁判所の外に出ると、突き抜けるような青空が広がっていた。


「終わった……」


 深呼吸をする。

 空気が美味しい。

 私は、自由になったのだ。


 隣に並んだリョウさんが、少しだけ心配そうに私を覗き込んだ。


「……大丈夫か?」


「はい。とっても、スッキリしました!」


 私が満面の笑みを見せると、彼は眩しそうに目を細めた。


「そうか。……なら、行こうか」


「はい!」


 私たちは並んで歩き出す。

 後ろは振り返らない。

 私の前には今、明るい未来だけが広がっているのだから。

お読みいただきありがとうございます。

完全勝利です!

金づる(ミユとリョウ)を同時に失った彼らの末路は、想像に難くありません。


次はいよいよ最終話「新しい日常、これからの未来」です。

最後は最高に幸せな二人をご覧ください。

すぐにお読みいただけます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ