表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『義実家で家政婦扱いされる私に、冷徹な義兄だけが「逃げるための給料」を渡してくれた~夫を捨てて幸せになります~』  作者: 品川太朗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/10

第8話「告白と選択」

なぜ彼はあんなに冷たかったのか。

そして、なぜここまでしてくれたのか。

その理由が、ついに語られます。

 翌朝八時。


 私は必要最低限の荷物を詰め込んだボストンバッグ一つで、リョウ義兄さんの車に乗り込んだ。


 エンジンがかかり、車が動き出す。

 バックミラーの中で、あの灰色の家がどんどん小さくなっていく。


 義母も、ユウジも、私が二度と帰らないとは夢にも思っていないだろう。

 そう思うと、胸のつかえが取れたように呼吸が楽になった。


「……着いたぞ」


 連れてこられたのは、会社から徒歩圏内にあるデザイナーズマンションだった。

 オートロックを抜け、通された部屋は広くて清潔で、私には眩しすぎるほどだった。


「す、すごい……本当にここに住んでいいんですか?」


「ああ。家賃も光熱費も会社持ちだ。気にするな」


 リョウさんは私のバッグをソファに置くと、窓の外を眺めた。


 二人きりの空間。静寂が満ちる。

 私は改めて、彼の背中に声をかけた。


「リョウ義兄さん。……本当に、ありがとうございました。私、一生かけてこの恩をお返しします」


「恩なんていい」


「でも、不思議なんです。どうして、そこまでしてくれるんですか? ただの『優秀な人材』だからって、ここまで……」


 昨日の問いかけを、もう一度繰り返す。

 リョウさんはしばらく黙っていたが、やがて観念したように大きく息を吐き、私の方を向いた。


「……優秀だから、だけじゃない」


 彼は少しだけ視線を逸らし、独り言のように呟いた。


「俺は……お前がユウジと結婚すると聞いた時、正直、反対だった」


「えっ? 私が、嫌いだったからですか?」


「逆だ」


 強い否定の言葉に、私は息を呑む。

 リョウさんは意を決したように、私を真っ直ぐに見据えた。


「初めて会った時から、惹かれていた。……お前の、そのひたむきで、誰にでも優しいところに」


「……え?」


 思考が停止した。

 リョウさんが? 私を?


「だが、お前は弟の恋人で、すぐに妻になった。俺が入る隙なんてなかった。だから……距離を置いたんだ」


 彼は苦しげに顔を歪めた。


「近くにいれば、余計な感情が湧く。弟の家庭を壊したくないから、あえて冷たく接して、関わらないようにした。……お前が幸せなら、それでいいと思ってたんだ」


 冷徹だと思っていたあの態度の裏に、そんな葛藤があったなんて。

 「邪魔だ」と言ったあの言葉も、私を遠ざけるための、彼なりの自制だったのだ。


「でも、お前は幸せじゃなかった」


 リョウさんの声に怒りが滲む。


「笑顔が消え、痩せていき、ボロボロになっていくお前を見て……俺は、ユウジを殺してやりたいくらい憎かった。そして、何もできない自分も憎かった」


 彼は一歩、私に近づいた。


「もう我慢の限界だったんだ。世間体も、弟への義理もどうでもいい。……俺は、お前を助けたかった。ただ、それだけだ」


 不器用で、重たくて、熱い告白。


 私のために、彼はすべてを投げ打ってくれたのだ。

 その事実が、凍っていた私の心にじんわりと染み渡る。


 涙がまた滲んできたけれど、今度は悲しい涙じゃなかった。


「……リョウさん」


 私は、初めて「義兄さん」を付けずに彼を呼んだ。


「その気持ち、すごく嬉しいです。……でも、ごめんなさい。今はまだ、答えられません」


「分かってる。お前はまだ、戸籍上はあいつの妻だ」


「はい。だから……まずは戦います。ちゃんと離婚して、自立して、誰に恥じることもない『相沢ミユ』になります」


 私は涙を拭い、彼を見つめ返した。


「それが終わったら……その時は、また一緒にご飯を食べてくれませんか? 上司と部下じゃなくて、一人の男性と女性として」


 それは、私なりの精一杯の「答え」だった。


 リョウさんは驚いたように目を丸くし、それから――今度こそ、はっきりと優しく笑った。


「ああ。……楽しみに待っている」


 その笑顔は、今まで見たどんなものよりも魅力的で、私の胸を高鳴らせた。

 

 こうして、私たちは「共犯者」から、未来を約束した「パートナー」になった。


 でもその前に、片付けなければならないゴミがある。

 

 さあ、反撃の時間だ。

 私は携帯を取り出し、着信履歴に残っていた「夫」の文字をタップした。

お読みいただきありがとうございます。

「嫌いだから冷たくした」のではなく「好きすぎて辛いから距離を置いた」。

不器用すぎる愛の告白でした。


二人の心は通じ合いました。あとは邪魔なものを排除するだけです。

次は第9話「裁判という戦場」です。

夫と義母へ、徹底的な断罪を行います。スカッと展開をお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ