第10話「新しい日常、これからの未来」
ついに最終話です。
苦難を乗り越えたミユとリョウ。
二人が掴んだ、穏やかで温かい「本当の幸せ」をご覧ください。
裁判から三ヶ月。
季節は巡り、秋風が心地よい季節になっていた。
私は今、リョウさんの会社で正社員として働いている。
経理と総務を兼任し、あの時必死に覚えた簿記やパソコンスキルをフル活用する毎日だ。
「相沢さん、この決算書の処理、完璧ですね。助かります」
「ありがとう。次はこちらの資料をお願いできるかな?」
社内の人たちは皆、私を一人の「仕事仲間」として尊重してくれる。
「お前には無理だ」「邪魔だ」と否定され続けた日々が、まるで遠い昔のことのようだ。
私は今、確かに自分の足で立ち、社会の中で呼吸をしている。
十七時。
定時を過ぎ、社員たちが三々五々と帰宅していく中、私は社長室のドアをノックした。
「社長、少しよろしいですか?」
「……ああ、入れ」
中に入ると、リョウさんがデスクに突っ伏していた。
ここ数日、新しいプロジェクトの立ち上げで激務が続いていたのだ。
完璧超人に見える彼だが、仕事に没頭すると衣食住がおろそかになるという、意外な弱点があった。
「リョウさん、ちゃんとお昼食べました?」
「……忘れてた。ゼリー飲料は飲んだ」
「それ、食事じゃありませんよ」
私は呆れながら近づくと、彼のデスクの端に置かれたコンビニ弁当の空き容器(昨日のものだ)を片付けた。
かつての家での「強制労働」とは違う。
これは私がやりたくてやっていることだ。だって、放っておくとこの人は本当に死んでしまいそうだから。
「今日はもう上がりましょう。夕飯、私が作りますから」
「……いいのか? 疲れているのに」
「リョウさんの顔色が悪い方が心配です。それに、私のマンションのキッチン、広くて使いやすいので料理したくてうずうずしてるんです」
そう言うと、リョウさんはようやく顔を上げ、少し照れくさそうに笑った。
「……いつもすまない。甘えてばかりだな」
「お互い様です。リョウさんのおかげで、私はここにいるんですから」
二人は並んでオフィスを出る。
夕焼けに染まる街を歩きながら、スーパーで食材を選ぶ。
「今日はハンバーグがいい」「人参は小さくしてくれ」なんて、リョウさんが子供のような注文をつける。
そんな些細なやり取りが、たまらなく愛おしい。
私のマンションで夕食を終え、コーヒーを飲んで一息ついた時だった。
リョウさんがふと、真剣な眼差しで私を見た。
「ミユ」
「はい?」
「……このマンションの契約更新、来月だよな」
「あ、そうですね。早いものです」
「更新、しなくていいぞ」
え、とカップを持つ手が止まる。
まさか、追い出される?
一瞬不安になった私を見て、リョウさんは慌てて首を振った。
「違う、そうじゃない。……その」
彼は視線を泳がせ、耳まで真っ赤にして言った。
「俺の家も広いし、部屋も余ってる。……それに、俺の家事能力が絶望的なのは知っての通りだ」
「ふふ、そうですね」
「だから、その……一緒に住んだ方が、効率的というか、合理的というか……」
しどろもどろな言い訳。
でも、その瞳は熱を帯びていて、私の答えを待っている。
私はコーヒーカップを置き、彼に向き直った。
かつて「牢獄」だと思っていた結婚生活。
でも、この人となら。
対等で、お互いを思いやれるこの人となら、きっと違う景色が見られるはずだ。
「リョウさん」
「……なんだ」
「それ、家政婦として雇うつもりですか?」
私が悪戯っぽく尋ねると、彼は強く首を横に振った。
「まさか。……パートナーとしてだ。一生、俺のそばにいてほしい」
その言葉を聞いた瞬間、胸いっぱいに温かいものが広がった。
私は満面の笑みで答える。
「……はい。家事能力ゼロの社長さんのお世話、私が引き受けます」
リョウさんが安堵の息を吐き、私をそっと抱き寄せた。
彼の腕の中は、どんな場所よりも温かくて、安心できる場所だった。
窓の外には、都会の夜景が広がっている。
私の未来はもう、曖昧じゃない。
自分の足で歩き、愛する人と共に築いていく。
そんな、明るく輝く日々が待っているのだ。
私はリョウさんの背中に腕を回し、小さく呟いた。
「私、今、すごく幸せです」
そう。
あの日の涙も、苦しみも、すべてはこの幸せな結末へのプロローグだったのかもしれない。
長い長い夜が明けて、私たちの新しい朝が、今ここから始まる――。
(完)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
虐げられていたミユが、リョウの手を借りて幸せになれて本当によかったです。
不器用なリョウの溺愛も、これから加速していくことでしょう。
もし、この物語を「面白かった」「スカッとした」「二人が幸せになれてよかった!」と思っていただけましたら、
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