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星屑の少女はリングに立つ ―才能ゼロから始める女子プロレスラー・星屑さやか―  作者: バックドロップ
第5章 新しい星になる!デビューに向けて。
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第50話 天井のタッグマッチ


新人四人のデビュー戦が終わり、ほっとする間もなく大会は後半戦へ。

今回は、

・試合を終えた直後の四人と、スタッフ・社長からの言葉

・客席上段から見る、メインイベント

 「皇あまね&天上院ユリア vs 白星るりあ&如月ゆかり」

・“同じ団体のレスラー”なのに、あまりにも遠く感じる天井のタッグマッチ

・それでも「いつか、あのリングに立つ」と誓う四人

を描いていきます。




 デビュー戦四連発が終わり、

 控室には、汗と冷却スプレーとテーピングの匂いが混ざっていた。


「はい、アイシングは最低でも二十分ねー。

 調子に乗ってそのまま会場うろつかない」


 滝本しおりが、

 テキパキと新人四人に氷嚢を配って回る。


「首と腰、怪しいところはありませんか?」


「だ、大丈夫です!」


「わたしも、平気……多分」


「多分じゃなくて、ちゃんと体に聞いてくださいね、ノエルさん」


 しおりにじっと見られて、ノエル・シエルは

 「はい」と小さく返事をした。


 星屑さやかは、

 首のアイシングを押さえながらソファに座り込む。


 星緋いぶきは、

 太ももに冷却スプレーをかけながら静かに呼吸を整え、


 ティアラ☆キャンディ――らんは、

 まだマスカラが落ちていないか鏡でチェックしていた。


「……なんとか、終わったね」


 さやかがぽつりと言う。


「終わりました、じゃなくて、“始まった”ですよ」


 いぶきが、タオルで汗を拭きながら言葉を正した。


「ここから毎回この痛みと緊張を更新していくんです」


「ひぃ……いぶき、真面目すぎて怖い……」


「現実を言っているだけです」


 そんなやり取りをしているところへ、

 コンコン、と軽いノック音。


「失礼するよ」


 顔を出したのは、PWS社長・天城星弥だった。


「社長!?」


 さやかたちは、一斉に立ち上がりかけ――

 しおりに「アイシング外さない」と眉で怒られ、慌てて座り直す。


「立たなくていいよ。

 立てるならそれはそれで頼もしいけどね」


 星弥は苦笑して、室内を一望した。


「まずは、お疲れさま」


 その一言だけで、

 四人の胸にじわっと何かが広がる。


「今日の四試合、

 全部ちゃんと『PWSのリングに立つレスラー』として

 お客さんに届いてた」


「ほ、本当ですか?」


 らんが目を丸くする。


「嘘ついても、リングとお客さんにはバレるからね」


 星弥は肩をすくめた。


「星屑。

 何回倒されても立った。

 お客さんがそれをちゃんと見てた」


「……はい」


「星緋。

 考えながら動いてた。

 そのせいで一歩届かなかったところもあったけど、

 伸びるのはそこからだ」


「……ありがとうございます」


「ノエル。

 怖いままリングに上がったの、分かってたよ。

 でも、逃げなかった」


 ノエルは、

 反射的に視線を落とす。


「泣きながら立ってたね。

 あれは、強さだ」


「……はい」


「ティアラ。

 “可愛いだけ”で終わらせなかった。

 ちゃんと技でお客さんを沸かせた」


「えへへ……」


「――とはいえ」


 星弥は、

 ほんの少しだけ声のトーンを変える。


「今日見てもらう“天井”は、

 このあとだからね」


 四人は、同時に顔を上げた。


「メインのタッグマッチ。

 皇あまね、天上院ユリア、白星るりあ、如月ゆかり」


 星弥は、

 名前を一つずつ区切るように言う。


「お前たちが『いつか立ちたい』と思う場所を、

 これから目で見て、肌で感じてこい」


「……はい!」


 四人の声が重なる。


「よしのさん」


「はーい」


 大原よしのが、

 控室の入口で手を挙げた。


「上のほうに、関係者用の空いてる席確保してあるから、

 そこまで案内してあげて」


「了解。

 冷やすとこ冷やしたら、アタシと一緒に行きましょ」


 星弥は、もう一度だけ四人を見渡した。


「今日のデビュー、おめでとう。

 でも――」


 少しだけ、意地悪そうに笑う。


「“おめでとう”って言えるのは、

 今日だけだからね。

 明日からは、結果で話してもらうよ」


 その言葉に、

 四人の背筋が自然と伸びた。


◇ ◇ ◇


 数十分後。


 四人は、

 東都第二アリーナのスタンド上段にいた。


 メインイベント前の休憩時間が終わり、

 客席はほぼ埋まっている。


「わあ……上から見ると、

 リングってこんなふうに見えるんだ」


 さやかは、思わず手すりに身を乗り出した。


「危ないから、あんまり前行かない」


 よしのに服の背中を掴まれ、

 「はい」と素直に下がる。


 目を凝らせば、

 リングサイドのほうに

 見慣れたボードの存在も見えた。


(……まな、まだいる)


 最前列付近。

 「星屑さやか」と書かれたボードは、

 今は膝の上で大事そうに抱えられていた。


 その左右に、さやかの両親らしき二人。


(全部の試合、観てくれてるんだ)


 胸が、じんわり熱くなる。


「お、もうすぐ始まりそうですよ」


 いぶきが、

 時間を見るクセのまま腕時計に視線を落とした。


 場内の照明が落ちる。


 ざわつきが、期待のざわめきに変わる。


◇ ◇ ◇


『――本日のメインイベントを行います!』


 煌上すばるの声が、

 これまでとは違う重さを帯びて響く。


『タッグマッチ、六十分一本勝負!』


 まず、チャレンジャー側がアナウンスされる。


『青コーナー!

 PWS所属、“冷静なる技巧の守護者”!

 白星! るりあーー!!』


 クールな音楽とともに、

 白星るりあが現れる。


 あくまで落ち着いた足取り。

 無駄なジェスチャーはない。


『そして――

 “レジェンド・フェニックス”

 如月! ゆかりーー!!』


 歓声のボリュームが、一段階上がる。


 さやかの心臓が、

 どきん、と跳ねた。


(如月さんだ……!)


 道場で何度も見た背中。

 でも今日は、

 “現役レジェンド”としてリングに向かう背中だ。


 軽く肩を回しながら花道を進む姿は、

 さっきまでリングに立っていた新人たちとは

 まるで空気が違う。


「背中の説得力が違いますね……」


 いぶきが、思わず呟いた。


『対するは――

 PWS所属、“黒き不死鳥”!

 インターナショナル・ワールド・スターダスト王者!

 皇! あまねーー!!』


 爆発するような歓声。


 さやかは、

 息をするのを忘れかけた。


 あの日、

 自分の人生を変えた背中。


 東楽園ホールの客席から見た、

 黒い不死鳥の姿。


 今は、

 東都第二アリーナのメインイベントとして

 花道を歩いている。


(本物だ……)


 制服姿でフェンス際まで駆け寄って、

 「あなたみたいになれますか」と問うたあの日と同じ。


 いや、

 それ以上の熱量で。


『そして!

 “グランドプリマ”――

 天上院! ユリアーー!!』


 ユリアのテーマがかかると、

 歓声の質がまた少し変わった。


 黄色い声。

 ペンライト代わりのタオルが、

 一斉に揺れる。


「すごい……」


 らんは、

 アイドルとしての職業癖で客席の反応を見ていた。


「スターが二人並んで歩いてる……

 って感じがする」


「スターは四人です」


 いぶきが、淡々と言う。


「るりあさんも如月さんも、

 あの二人に全く負けていません」


 たしかに――

 花道の上で四人が並んだ瞬間、

 空気が変わった。


 ライトの色も、

 音も、

 観客の息遣いも。


 さっきまでの試合と同じリングとは思えない。


(同じ団体のリングなのに、

 ここだけ別世界みたい)


 ノエルは、

 胸元をぎゅっと握った。


(いつか、

 この世界の中で名前を呼ばれるレスラーになれるのかな)


◇ ◇ ◇


 ゴングが鳴る。


 先発は、皇あまねと白星るりあ。


 グラウンドの攻防。

 組み合って、崩して、

 また立ち上がって組み合う。


「速っ……」


 さやかは、

 目で追いきれない自分に愕然とした。


 体が大きく動いているわけではない。

 むしろ、動き自体は小さい。


 それなのに、

 どんどんポジションが入れ替わっていく。


「ここまでくると、

 “技”っていうより“会話”に近いですね」


 いぶきの分析に、誰も反論できない。


 あまねが腕を取れば、

 るりあは肩の角度を変えて重心をズラす。


 るりあが脚を絡めれば、

 あまねはその先のエスケープを読むようにロープの方向へ滑る。


 どちらかが一方的に攻めるのではなく、

 お互いの手の内を知ったうえで、

 さらに一段上のやり取りをしているようだった。


 タッチが繋がる。


 天上院ユリアと如月ゆかり。


 ここからは、

 空気の質がまた変わった。


 ユリアの華やかな蹴り。

 それを“見せる受け”で受け止めるゆかり。


 派手なハイキックのあとに、

 さりげなくボディに低いローが入る。


「お客さんにはハイキックが印象に残るけど、

 本当に効いてるのはローのほうなんですよね……」


 ノエルが、小さく呟いた。


「そこから先を知ってる人が、

 “プロの目線”を持ってるってことだね」


 よしのが、

 どこか誇らしげに言う。


「四人とも、

 “見せるところ”と“効かせるところ”を

 きっちり分けてる」


 流れるようなタッチワーク。

 コーナーとコーナーを使った連携。

 ロープを挟んだ攻防。


 一つひとつの動きに、

 意味と経験が詰まっているのが分かった。


(すごい。

 全部、“これやります”じゃなくて――)


(“この瞬間に、これしかない”って動き方してる)


 さやかは、

 ただ見つめることしかできなかった。


 先輩たちの技の名前は、

 もう何度も聞いている。


 鳳閃。

 フェニックス・ウィング。

 るりあの変形ラ・マヒストラル。

 ゆかりの掌底と関節技。


 でも、

 それを“実際に”メインの空気の中で見ると――

 同じ言葉とは思えない迫力があった。


◇ ◇ ◇


「はぁ……」


 ふと、隣からため息が聞こえた。


 らんだ。


「どうしたの?」


「いや、その……

 何ていうか」


 らんは、リングを見たまま口を尖らせる。


「アイドルとして“ステージに立つ”って意味なら、

 ユリアさん、反則級だなって」


「分かります……」


 ノエルが同意する。


「お辞儀一つ、手を振る一つでも、

 全部“見せる絵”になってます」


「ボクもアイドルで~す、って言ってる自分が

 恥ずかしくなるぐらいですよね……」


 らんは、苦笑しながらも

 目を離せずにいた。


(でも――

 だからって諦めたくはない)


(絶対、いつかあの人の横に立つ。

 Stella☆Glareの“後輩”としてじゃなくて、

 対等なレスラーとして)


◇ ◇ ◇


 終盤。


 四人がそれぞれの持ち味をぶつけ合い、

 大技が飛び交う時間帯。


 るりあのカウンターのジャーマンに

 あまねの受け身が重なり、

 客席がどよめく。


 ユリアの一撃で、

 ゆかりが場外まで弾き飛ばされる――フリをして、

 すぐさまリングに戻ってくる。


「やっぱ、すげえな……」


 スタンド上段の暗がりで、

 さやかの父がぼそっと漏らした。


 隣で、まなは

 ペットボトルを握りしめたまま頷く。


「さっきのさやかたちも凄かったけど……

 ここはもう、次元が違うって感じですね」


 母も、

 手を組んだまま小さく笑った。


「でも、同じリングなんだよね。

 それがまた、すごい」


 その言葉は、

 上段に座る四人の胸にも

 同時に突き刺さっていた。


(同じリング)


(同じ団体)


(でも、今立ってる場所は果てしなく遠い)


 さやかは、

 思わず自分のリングシューズを見下ろした。


 さっきまでマットの上にいた靴。

 今は、観客席の床に触れている。


(いつか、あのメインイベントの時間に

 自分の靴でマットを踏む日が来るんだろうか)


◇ ◇ ◇


 クライマックス。


 るりあが、

 あまねの腕を取って切り返し、

 丸め込みの態勢に持ち込む。


 カウンターのラ・マヒストラル。

 会場が、息を呑む。


「ワン!」「ツー!」


 ギリギリで、

 あまねの肩が上がる。


 すぐにユリアがカットに入り、

 場内は悲鳴と歓声でごちゃ混ぜになった。


「今の、入ったと思いました」


 いぶきが、小さく呟く。


「るりあさん、本当に凄い……」


「“王者に、仕事をさせる挑戦者”ってこういうことなんだね」


 ノエルの言葉に、

 さやかも静かに頷いた。


 そこからの数分は、

 もう目が追いつかないほどの攻防だった。


 最後に決まったのは――

 皇あまねの必殺技、鳳閃。


 るりあの顎を正面から撃ち抜くように決まり、

 フォール。


 カウントスリー。


 ゴング。


 リングに立つ四人は、

 ゼェゼェと息をしながらも

 客席にそれぞれの形で挨拶をしていた。


 勝者と敗者。

 王者と挑戦者。


 それでも――

 四人とも、

 間違いなく“この団体の顔”として

 リングに立っているのが分かった。


◇ ◇ ◇


 客席からの拍手がしばらく続き、

 場内アナウンスのあと、

 少しずつ人が動き始める。


「……すごかったね」


 さやかが、

 やっとのことで言葉を絞り出した。


「はい」


 いぶきも、

 珍しく簡単な返事しかしない。


 ノエルは胸に手を当てたまま、

 まだ少し震えている。


 らんは、

 ぽつりと呟いた。


「わたし……いつかあそこに立てるかな」


 誰に言うでもない言葉。


 よしのが、

 四人を見回してニッと笑った。


「立ちたきゃ、

 立てるところまで自分で行くしかないわよ」


 その言い方は、

 どこかあまねやゆかりに似ていた。


「今日のデビューで、

 “入り口”には立てたんだから」


 よしのは、

 さやかの頭をぽんぽんと叩く。


「星屑ちゃん。

 あんた、前にあまねちゃんに聞いたんでしょう?

 “あなたみたいになれますか”って」


「……はい」


「あのとき何て言われたの?」


 さやかは、

 あの日の記憶を反芻する。


『諦めなければ、きっとなれる』


「諦めなければ、

 必ずなれるって」


 そう口に出してみたとき、

 胸の奥で何かがカチッと音を立てた気がした。


「じゃあ――」


 さやかは、

 両手をぎゅっと握りしめる。


「わたし、絶対諦めません。

 いつか、あのリングで

 メインイベント張れるレスラーになります」


 その言葉に、

 いぶきが静かに頷いた。


「そのとき、

 隣に立てるように私も準備しておきます」


「ボクもー。

 そのときには、

 今よりもっと可愛くて強いティアラちゃんになりますっ」


 らんが、

 いつもの調子を取り戻した声で続ける。


「わたしも……」


 ノエルは、

 胸元を握りしめたまま小さく笑った。


「泣き虫子猫じゃなくて、

 “ちゃんとリングに立てるノエル・シエル”として

 あそこに立てるように、頑張ります」


 四人の言葉が、

 スタンドの暗がりに静かに響く。


 東都第二アリーナの天井は、

 さっきまでライトで眩しく照らされていた。


 今はもう少し暗くなっているのに――

 四人には、

 そこにいつか届く未来が

 かすかに見えた気がした。




ここまで読んでくださってありがとうございます。


今回は、

・新人四人のデビュー戦直後の控室と、社長からの一言

・よしの&しおり含むスタッフの“見守る大人”としての姿

・客席上段から観るメインイベント

 「皇あまね&天上院ユリア vs 白星るりあ&如月ゆかり」

・“同じ団体のレスラー”なのに、あまりにも遠い天井のタッグ

・それでも「いつかあそこに立つ」と誓う

 さやか・いぶき・ノエル・らん

を描きました。


引き続きよろしくお願いします。

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