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星屑の少女はリングに立つ ―才能ゼロから始める女子プロレスラー・星屑さやか―  作者: バックドロップ
第5章 新しい星になる!デビューに向けて。
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第49話 ティアラ☆キャンディ、リングをステージに

第0試合~第2試合まで、新人三人のデビュー戦が終わり、

続いては――ティアラ☆キャンディ(姫乃らん) vs 黒羽ミコト。


今回は、

・元アイドルとしての「ステージ感覚」を持つらん

・リングそのものをステージに変えてしまう、プロレスアイドル・ミコト

・“アイドルとしての自負”と“レスラーとしての未熟さ”のギャップ

・「リングをステージにする」という、新しい目標を見つけるらん

を描いていきます。




 第2試合が終わり、

 ノエルとアサギの姿がモニターから消える。


「よく頑張ったわね、ノエルちゃん」


 控室の隅で、滝本しおりが

 ノエルの頭をそっとタオルで押さえながら言った。


「ひっく……でも、ちゃんと立てました……」


「うん、“泣きながら”でもね」


 さやかは、

 アイシングパックを外しながら

 小さく笑った。


「ノエル、すごかったよ。

 逃げないって、ああいうことなんだなって思った」


「ありがとう……」


 ノエルが照れくさそうに目をそらす。


 いぶきも、腕を組んで頷いた。


「怖いのに前に出るのは、

 多分、私にはできないことです」


「いぶきは最初から前に出られるタイプだから、

 それはそれでズルいよ」


 らんが、スウェット姿のまま笑う。


 ――その“らん”が、

 一番そわそわし始めていた。


「ティアラちゃん」


 山城あかねが、書類を持ったまま

 控室の入口から声をかける。


「次、第3試合。

 準備お願いできますか」


「は、はいっ!」


 らんは椅子から勢いよく立ち上がった。


 胸のあたりが、

 さやかとは違う意味でざわざわしている。


(わたしは、負けられない――

 というより、“見せなきゃいけない”)


 アイドル時代の癖が、

 身体の奥から顔を出す。


◇ ◇ ◇


 個室の鏡前に移動し、

 らんはコスチュームに着替えた。


 ティアラのモチーフが散りばめられた、

 白とパステルピンクのキラキラした衣装。


 ステージ衣装としても通用しそうなぐらい、

 可愛くて華やか。


 そこに――

 さっきまで握っていたマイクの代わりに、

 手にはリングシューズ。


(もう“歌って踊る”だけじゃない。

 これ履いて、戦うんだ)


 チョーカーを整え、

 ヘアアクセの位置を直す。


 頬にうっすらとチークを足し、

 グロスを塗る。


(アイドルとしての“顔”は、

 崩せないんだから)


「ティアラちゃん、行けそう?」


 よしのがドアをノックして顔を出した。


「はい!」


 振り向いて、にっと笑う。


「大丈夫。

 泣くのは控室に戻ってからにします」


「そうそう。

 ステージでは笑っときなさい」


 よしのは、

 自分の娘を送り出すような目で頷いた。


「プロレスも、アイドルも、

 お客さんに“楽しかった”って思ってもらうのが大事よ」


「……はい!」


 胸の中で、

 何かがカチッと噛み合う。


(そうだ。

 わたし、“楽しかった”って言ってもらえるレスラーになりたいんだ)


 そこへ、黒羽ミコトがひょこっと顔を出した。


「ティアラちゃん、準備できてる?」


「み、ミコト先輩!?」


 思わず背筋が伸びる。


 Stella☆Glareの一員であり、

 スターダストタッグ王者のひとり。


 黒羽ミコト。

 一人称は「ボク」。

 キラキラした笑顔と、

 リングを“ステージ”に変える動きで人気を集めるアイドルレスラー。


「そんな緊張しないでいいよ。

 ボク、今日は“教える側”ってより、

 “一緒にステージ立つ側”ってつもりだからさ」


「で、でも……相手は、チャンピオンですし……!」


「チャンピオンだから、だよ」


 ミコトは、

 らんのティアラを指でつつく。


「ティアラちゃん、

 アイドルとしてのステージ経験はボクなんかより上でしょ?」


「それは……」


 かつて、歌番組に出たこともある。

 全国区のアイドルグループの端っこに立っていた時間もある。


 それは、ミコトにはない経験だ。


「だったら今日は、“アイドル対アイドル”だよ。

 プロレスだけじゃなくて、

 ステージングでも勝負しようね」


 ミコトは、にっと笑った。


「そのうえで――

 プロレスは、ボクがちょっと先に行ってるから。

 そこはちゃんと見せてあげる」


「……はい!」


 らんの胸に、

 ふわっと火がついた気がした。


◇ ◇ ◇


 花道裏。


『――続きまして、第3試合!

 シングルマッチを行います!』


 煌上すばるの声が響く。


『青コーナー!

 PWS所属、“リングをステージに変えるアイドル”!

 黒羽! ミコトーー!!』


 ポップでキラキラしたイントロとともに、

 ミコトが花道へ飛び出す。


「みんなー!

 今日は一緒に盛り上がってねー!」


 ハンドマイク風のポーズで客席を煽り、

 ステップを踏みながら花道を進む。


 リングインも、

 ロープを利用した軽やかなジャンプ。


 コーナーに登って、

 指をハートの形にして客席に向ける。


 それだけで、

 会場のあちこちからペンライト代わりのタオルや手が振られた。


(……すご)


 まなは、思わず呟く。


「さっきまでの試合とは、

 また違う雰囲気だね」


 隣で、母もぱちぱちと手を叩いた。


「ね。

 『プロレスの試合』っていうより、

 『ライブの一曲目』みたいな空気になってる」


 父も、どこか感心したようにリングを見ていた。


『そして!

 赤コーナー! 本日デビュー戦!

 ティアラーー☆キャンディーー!!』


 会場が、ふわっと明るくなった。


 らんの入場曲が流れる。


 ステージ用にアレンジされた、

 キラキラしたポップチューン。


 花道の奥から、

 ティアラを頭に乗せた小柄なシルエットが現れる。


「――ティアラ☆キャンディですっ!

 今日は“デビューのご挨拶”、

 精一杯、頑張りますっ!」


 マイクは持っていないのに、

 声がよく通る。


 アイドル時代に鍛えられた通りの発声。


 その一言だけで、

 客席から「かわいい……!」という声があちこちから漏れた。


(あ、これは……“知ってる”空気)


 らんは、

 ほんの一瞬だけ笑顔が自然になったのを感じた。


 ステージに立ったときと同じ。

 ライトに照らされ、

 客席の輪郭だけが見える世界。


(違うのは――)


 足元に、

 ロープとマットがあること。


 リングサイドに、

 レフェリーとドクターとスタッフがいること。


(ここが、“プロレスのステージ”)


 らんは、くるりとターンして

 スカートの裾をひらりと揺らしながらリングインする。


 ロープをくぐる動作にも、

 自然と“魅せ”の要素が入っていた。


「おー」


 控室のモニター前で、さやかが思わず声を漏らす。


「らん、入場だけなら

 もう一人前のレスラー兼アイドルだね……」


「“だけ”って言っちゃうの酷くない?」


 らん不在の控室で、

 ノエルが小さく笑った。


 いぶきは真面目に頷く。


「でも、さやかの言う通り、

 “入場だけなら”今すぐメインイベントに立てるレベルです」


「フォローになってるのかそれ……」


◇ ◇ ◇


 リング中央。


 レフェリーの白銀リョウが二人を集める。


「ミコト、ティアラ。

 ルールはさっきまでと同じだ」


「はーい」


「はいっ」


「特にティアラ。

 客に見せたい気持ちは分かるが、

 安全より優先させるな」


「……はい」


「ミコト」


「ボクも気をつけるよ。

 ティアラちゃんから“お客様”奪ったら怒られちゃうしね」


 白銀は、

 ほんの少しだけ口元を緩めた。


「じゃあ、

 プロレスとアイドル、両方ちゃんとやってくれ」


 それぞれコーナーに戻る。


 カンッ。


◇ ◇ ◇


「――始め!」


 ゴングと同時に、

 ミコトはスキップするように中央へ出た。


「ティアラちゃん、楽しんでこー?」


「はいっ!」


 らんも、勢いよく中央へ。


 ロックアップ――

 に行くかと思いきや、

 ミコトがくるっと手を取って軽くターンさせる。


「お客さんに、もう一回だけ綺麗な顔見せよっか」


 らんの身体が、

 くるりと回って客席のほうを向く。


 自然と、ポーズが決まる。


 客席から「おおっ」と拍手と歓声。


「こういうの、大事だからね」


 ミコトは、

 そのままロックアップの体勢に移った。


 らんは、

 心臓がどきどきしているのを感じる。


(やっぱりこの人、“ステージ”が分かってる)


 組み合った瞬間――

 力の差も、はっきり分かった。


(重い……っ)


 ミコトの体重の乗せ方は、

 見た目の華奢さからは想像できないぐらいしっかりしている。


 押されながらも、

 らんは必死に踏ん張る。


(アイドル時代みたいに、

 可愛く笑ってるだけじゃ――ここでは立ってられない)


 ミコトは、

 その踏ん張りを確認してから

 ヘッドロックに移行した。


 ぎゅっと、頭を抱え込む。


「う、ぐ……」


「苦しい?」


「く、苦しいです……!」


「じゃあ、ちゃんとロープ探して」


 ミコトは、

 ヘッドロックをかけたままゆっくり歩く。


 らんは、足の裏でマットの感触を確かめながら

 ロープの方向を探した。


(お客さんに助けてもらうんじゃない。

 ロープに、助けてもらう)


 ロープに手が触れた瞬間――


「ロープ!」


 白銀の声とともに、

 ミコトはすっと技を解いた。


「ナイスポジショニング」


「え……?」


「今の、“自分で”ロープの場所探せたでしょ。

 そこ、大事だから」


 ミコトは、一歩下がって笑う。


「お客さんに手を振るのと同じぐらい、

 ロープの位置把握するのは大事なんだよー」


◇ ◇ ◇


 中盤。


 らんは、

 自分の持ち味を出そうとした。


 ロープに走り、

 軽やかなステップからのクロスボディ。

 コーナーに駆け上がってからのダイブ。


 動き自体は悪くない。

 アイドルとして磨かれた体幹とバランス感覚があるからこそ、

 空中での姿勢も綺麗だ。


 でも――


(“プロレスの技”としては、軽い)


 ミコトは、

 受けながら冷静に分析していた。


(受けやすいけど、

 このままだと“可愛い”で終わっちゃう)


 なら、

 今日の仕事は一つだ。


(この子に、“リングの使い方”を教える)


 ミコトは、

 らんの動きをあえて一度受け切ったあと、

 ロープワークのタイミングを変えてみせた。


 らんが走る。

 ミコトも走る。


 すれ違いざまに、

 ミコトがわざと“そこそこ美味しい位置”で転がる。


「――今!」


 その瞬間だけ、

 らんの脳が反射的に動いた。


 ステージで、

 スポットライトが当たる位置。

 ファンの視線が集まる位置。


(ここで、決めポーズ――)


 一瞬、身体が止まりかけた。


 が。


「止まんない!」


 ミコトの声が、

 ほんの一瞬だけ飛んでくる。


 身体が勝手に、

 決めポーズではなくエルボードロップのモーションに移行した。


 ドスッ。


 初めて、自分のエルボーが

 相手の胸板にしっかりと落ちた感触があった。


 客席から、「おおっ」とどよめき。


「い、いった……」


 ミコトは胸を押さえながらも、笑っていた。


「今の、めっちゃ良かったよ」


「えっ」


「ポーズ取らないでちゃんと落ちてきた。

 それ、“リングをステージにする”ための一歩目だから」


 らんは、

 はっとした。


(今まで、

 “踊って”から“ポーズ”で締めることしか考えてなかった)


(でも、今は――

 “技”で締めた)


 胸の中に、

 じわっと熱いものが広がる。


◇ ◇ ◇


 とはいえ、

 試合はやっぱりミコトが一枚上手だった。


 要所要所で、

 らんの動きの甘さを

 ポジション取りや受け身でフォローしつつ――

 盛り上がるポイントだけはきっちり押さえていく。


 観客も、

 いつの間にか「新人の様子見」から

 「純粋に楽しい試合を観る」モードに変わっていた。


「ティアラー! がんばれー!」


 客席のどこかから、

 らんの元アイドル時代のコールに近い声が飛ぶ。


 らんは、思わず顔を上げた。


(……知ってる。

 この感じ、知ってる)


 ステージで、

 自分の名前が呼ばれたときの感覚。


 足が軽くなる。


(でも、

 “歌って返す”んじゃない)


 今の自分は、

 マイクではなくロープと技で返す立場だ。


「――いきますっ!」


 らんは、

 コーナーに駆け上がった。


 トップロープに立ち、

 一瞬、客席を見渡す。


(ここは、

 “ポーズ”を取る位置じゃなくて――)


 身体を、

 前に投げ出す。


 フライングボディアタック。

 まだ荒削りなフォームだけれど、

 その一歩は間違いなく“プロレスラーの動き”だった。


 ミコトは、

 しっかり胸で受け止めて後ろに倒れる。


 会場が、どっと沸いた。


「カバー!」


 白銀の声に、

 らんは慌ててフォールに入る。


「ワン!」


「ツー!」


 ミコトの肩が上がった。


「くっ……!」


 らんは息を切らしながらも、

 すぐに立ち上がろうとする。


 足が、

 もつれかけた。


(あ、ヤバ――)


 その瞬間、

 ミコトの腕がすっと絡む。


 体勢を入れ替えられ、

 ぐるりと回転するような形で

 ミコトのフィニッシュへの流れに組み込まれていく。


「今日はここまでね、ティアラちゃん」


「っ――!」


 技名を叫ぶ余裕もない。

 ただ、

 身体ごと“これが決め技だ”と

 観客に伝えるような綺麗なフォーム。


 マットが近づく。

 衝撃。


 ホールド。


「ワン!」


「ツー!」


「スリー!」


 ゴングが鳴る。


◇ ◇ ◇


 視界が、

 リングライトの白で満たされる。


(負けた――)


 らんは、

 自分の胸の奥に湧き上がる感情を

 一瞬、見失いかけた。


 悔しさ。

 情けなさ。

 でも――


 楽しかった。


 その言葉が、

 ふっと浮かんでくる。


「ティアラちゃん」


 耳元で、ミコトの声。


「立てる?」


「……はい」


 差し出された手を掴み、

 よろよろと立ち上がる。


 客席から、拍手。


 それは、

 さやかのときとも、いぶきのときとも、

 ノエルのときとも少し違う拍手だった。


(“楽しかった”って、

 言ってもらえた拍手だ)


 そう、感じた。


 ミコトは、

 らんの手首を掴んで掲げる――かと思いきや、

 そのまま自分のほうに引き寄せた。


 ぎゅっと、

 軽く抱きしめる。


「よく頑張ったね、ティアラちゃん」


「えっ、あの、えっ」


「ちゃんと、

 “リングをステージにする”一歩目、踏めてたよ」


 耳元で、小さな声。


「まだまだ荒削りだけど、

 お客さん、“可愛いだけじゃない”って分かってくれたと思う」


「……ほんと、ですか?」


「ボクが保証する」


 ミコトは、らんを離し、

 今度こそ手首を掲げた。


「ティアラ☆キャンディ!

 本日デビュー!」


 客席から、

 温かい拍手と歓声が返ってくる。


 らんは、

 涙をこらえながら笑った。


(今度は――

 “アイドルとしてのファン”だけじゃなくて)


(“レスラー・ティアラ☆キャンディ”のファンも、

 増やしていかなきゃ)


◇ ◇ ◇


 控室。


 モニターを見ていたさやかは、

 両手を握りしめながら叫んだ。


「らん、すごかった……!」


「あの空中技、

 今までのエクササイズには入ってなかったはずです」


 いぶきが、眉を少し上げる。


「本番であそこまで踏み込めるの、

 ある意味一番肝が据わってますね」


「着地のときちょっとヒヤッとしましたけどね……」


 ノエルは胸を押さえながらも、

 ほっと息を吐いた。


「でも、ミコト先輩がちゃんと受けてくれました」


「アイドル先輩、頼りになるね」


 さやかが笑う。


(わたしたち四人、

 全員ちゃんと“レスラーとして”

 リングから戻ってきた)


 胸の奥に、

 じんわりと温かさが広がる。


 その温かさは――

 すぐあとに控えている、

 “天井のタッグマッチ”を見たとき、

 また別の形になるのだろう。



ここまで読んでくださってありがとうございます。


今回は、

・第3試合 ティアラ☆キャンディ vs 黒羽ミコト デビュー戦

・「アイドルとしてのステージ経験」を持つらんと、

 「リングをステージに変える」プロレスアイドル・ミコトの対比

・“可愛いだけ”の動きから、“技としての一歩目”に踏み込む瞬間

・試合後、ミコトに「リングをステージにする一歩目」と認められるらん

を描きました。


らんはこの試合で、

・入場とマイク(※マイク無しでも通る声)では一級品

・プロレス部分はまだ荒削りだけど、

 “お客さんを楽しませる”という芯はブレていない

という形でデビューしています。


ミコトは、

・相手のスター性を引き立てつつ、

 安全と盛り上がりのラインを守る

・「ここでポーズ取る/技を出す」の違いを、

 試合の中で自然に教える

という“先生役”として動いています。


これで、新人四人のデビューシングルはひと通り終了。

次回は、

・四人がそれぞれの試合を終えたあとの控室

・そして、メインイベント

 「皇あまね&天上院ユリア vs 白星るりあ&如月ゆかり」

を四人の目線から見ていく回にしていく予定です。


引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。

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