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星屑の少女はリングに立つ ―才能ゼロから始める女子プロレスラー・星屑さやか―  作者: バックドロップ
第5章 新しい星になる!デビューに向けて。
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第46話 星屑さやか、リングへ

いよいよ第0試合。

星屑さやか vs 轟みなせ。


今回は、

・新人として初めて花道を歩くさやかの視点

・客席で見守る両親と、最前列の“TO”まな

・みなせの「本気で受け止める先輩」としての姿

を中心に描きます。



 控室のドアが、コンコン、とノックされた。


「第0試合出場選手の皆さん、そろそろ準備お願いします」


 スタッフの声に、

 さやかの心臓が、どくん、と跳ねる。


「行くか、星屑ちゃん」


 隣でストレッチをしていた轟みなせが、

 ぐいっと伸びをして立ち上がった。


「は、はいっ!」


 声が少し裏返った。


 道場用のジャージから、

 白と紺と金のコスチュームに着替え、

 ブーツの紐を結ぶ。


 膝のニーパッドをもう一度確認し、

 腰のベルトを締め直した。


「大丈夫?」


 ティアラ☆キャンディ――らんが、覗き込む。


「顔、真っ白になってない?」


「……なってるかもしれない」


「なら、ちょっとだけ血色足してあげる」


 らんはポーチから薄いチークを出して、

 さやかの頬にふわりと乗せる。


「はい、“頑張る新人”仕様。

 泣いたら全部落ちるから、できれば泣かない方向でね?」


「が、頑張る……!」


「星屑」


 いぶきが、タオルで首筋を拭きながら近づいてきた。


「スピア、狙うタイミングはいつも通りで大丈夫。

 焦って最初からぶっ放さないこと」


「うん」


「受けから入って、

 みなせさんの力とスピードをちゃんと感じてから、

 “ここ”って瞬間を探して」


「……分かった」


 ノエルも、小さく拳を握って見せる。


「ちゃんと、ロープを掴んで帰ってきてください。

 終わったら、四人で“お疲れさま”って言いたいです」


「うん、絶対帰ってくる」


 言葉にして、自分で自分を縛る。


 そこへ、黒岩が現れた。


「星屑」


「はい!」


「やることは、昨日までと同じだ」


 黒岩は短く言う。


「受ける。立つ。諦めない。

 それしかねえ。

 それで充分だ」


「……はい!」


 滝本しおりも、控室の入り口から手を振った。


「首と腰、さっきのストレッチで問題なかったですから。

 いつも通り倒れて、いつも通り起き上がってきてください」


「はい!」


 返事をした瞬間、

 マイクの音がわずかに聞こえてきた。


『本日はPWS東都第二アリーナ大会にご来場いただき、

 誠にありがとうございます――』


 リングアナ・煌上すばるの声だ。


 さやかの背筋が、ぞくりと震える。


「じゃ、花道まで行こっか」


 みなせが、さやかの肩をぽん、と叩く。


 二人で控室を出て、

 薄暗い通路を進む。


 花道裏――

 まだ客席からは見えない位置で立ち止まった。


 すでに会場は、ざわざわとした人いきれで満ちている。

 ライトの熱が、背中まで伝わってくるようだった。


◇ ◇ ◇


 そのころ、客席。


「ねえ本当に、あの子出るの?

 パンフレットにも名前載ってるんだけど」


「載ってるだろ。ほら、ここ」


 前方ブロックの通路側の席で、

 さやかの母がパンフレットを覗き込み、父が指をさす。


 そこには小さく、

 「デビュー戦・星屑さやか」と印字されていた。


「こうして見ると、本当に“レスラー”だねえ」


「まだ始まってもいないけどな」


 口ではそう言いながら、

 父の声はどこか誇らしげだった。


 その隣の席で、

 まなは落ち着きなくそわそわしていた。


「星屑のご両親、ですよね?」


 小さく声を潜めて話しかける。


「今日はありがとうございます。

 幼馴染の、まなです」


「いつも世話になってます」


 母が微笑む。


「こちらこそ。

 星屑が『まながいなかったら勉強終わってない』って

 いつも言ってるから」


「それ、あの子がサボってるだけですよ……」


 苦笑しながらも、

 まなは膝の上に置いたものをぎゅっと握りしめた。


 それは、手作りの応援ボード。


 黒いボードに、

 大きく蛍光カラーで『星屑さやか』の文字。

 周りに星のシールがびっしり貼られている。


「すごいね、それ」


 父が感心したように目を細めた。


「徹夜で作りました」


 まなは胸を張る。


「星屑、デビュー決まったときに言ったんです。

 “TOになる”って」


「TO?」


「トップオタク、です。

 一番のファンって意味で」


「……そういう言葉があるんだな」


 父は、どこか複雑そうに笑った。


「でも、ありがたいことだ」


「もちろん、ご両親には勝てないかもですけど。

 リングサイドだと、一番声出すのは私ですから」


 その言葉に、母も声を立てて笑った。


 場内暗転。

 照明が落ち、ざわめきが少しだけ静まる。


◇ ◇ ◇


『――第0試合、シングルマッチを開始いたします!』


 すばるの明るい声が、

 会場内に響く。


『青コーナー!

 PWS所属!

 轟! みなせーー!!』


 重めのロックが流れ、

 花道に、ずん、と小柄なシルエットが現れた。


「いっくよおおおお!!」


 みなせが全力で叫びながら、

 腕をぶん回して花道を駆け出す。


 客席から笑いと拍手が起こる。


(轟だ! ちっちゃいのにすげー筋肉!)

(マッスル・シンフォニーの人だよね?)


 声援の中、

 みなせは全身で観客の反応を受け止めながらリングインする。


 コーナーに駆け上がり、

 二の腕をこれでもかと見せつけるように力こぶを作った。


「キンニクーーッ!!」


 叫びに合わせて、

 何人かのファンも腕を掲げる。


『そして!

 赤コーナー! 本日デビュー戦!

 星屑ーーー! さやかーーー!!』


 名前を呼ばれた瞬間、

 さやかの足が、一瞬だけすくんだ。


(いけ)


 自分に言い聞かせ、

 花道に一歩、踏み出す。


 ライトが一気に眩しくなる。

 客席のざわめきが、耳に押し寄せる。


(うわ……)


 思わず立ち止まりそうになったそのとき――


「星屑ーーー!!」


 正面の最前列あたりから、

 とんでもなく大きな声が飛んできた。


 反射的に、そちらを見る。


 そこには、

 蛍光カラーで自分の名前が書かれたボードを

 全力で掲げている、まなの姿があった。


 両隣には、

 見慣れた両親の顔。


 母は手を合わせるようにして祈るように見つめ、

 父は腕を組みながらも目を逸らさずにリングを見ていた。


(……来てたんだ)


 胸の奥が、じわっと熱くなる。


 まなが口を大きく開けて叫ぶ。


「星屑ー!!

 今日からアンタ、プロレスラーだからねーー!!」


 その言葉で、

 足の震えがほんの少しだけ収まった。


 さやかは、

 できる限りの笑顔を作って

 ボードのほうに軽く手を振る。


 それから、

 リングへ向かって真っ直ぐ歩き出した。


◇ ◇ ◇


 ロープをくぐり、

 マットの感触を足の裏で確かめる。


(大丈夫。

 さっきのリングチェックと同じ)


 心臓はまだうるさいけれど、

 膝は、意外としっかりしていた。


 対角線のコーナーにいるみなせが、

 にかっと笑う。


「おっ、ちゃんと歩けたじゃん」


「……はい!」


「客席、見えた?」


「見えました」


「よし。

 じゃあ、改めて一個だけ確認しとくね」


 レフェリーの白銀がリング中央に入ってきて、

 両者を集める。


「怪我すんなよ。

 それだけ」


 それが白銀の“いつもの”注意だ。


 みなせは頷き、

 さやかのほうを見る。


「星屑ちゃん。

 今日、アタシは手加減しないからね」


「……はい」


「でも、“潰す”つもりもない。

 本気でぶつかるから、本気で来い」


 みなせは、右手をさっと差し出した。


「デビュー、おめでとう」


 その一言が、

 ずしん、と胸に響く。


 さやかは、迷わずその手を握り返した。


「……ありがとうございます。

 よろしくお願いします!」


 握手が解かれ、

 それぞれコーナーへ戻る。


 白銀が、

 タイムキーパーに合図を送った。


 カンッ、と小さなゴングが鳴る。


◇ ◇ ◇


「――始め!」


 白銀の合図と同時に、

 みなせがリング中央へと歩み出る。


 さやかも、一歩ずつ、

 足の裏でマットの感触を確かめながら前へ。


 ロックアップ。

 腕と腕がぶつかり合った瞬間――


(うわ、重っ……!)


 みなせの筋肉から伝わる力に、

 さやかの足がじりじりと後退する。


「おー、前よりちゃんと踏ん張れるじゃん」


 みなせは笑いながら、

 ぐぐっと力を込める。


 さやかは、腰を落として耐えた。


(負けたくない。

 ここで押し込まれたまま終わりたくない)


 いぶきに教わった通り、

 腰を切り、角度を変える――

 が、それも読まれていた。


「そーれっ」


 体勢を入れ替えられ、

 さやかはコーナーに押し込まれる。


「ブレイク!」


 白銀の声で、みなせはすっと力を抜いた。


 その一瞬後――

 みなせの掌底が、

 軽くさやかの胸元を叩く。


「悪くないよ。

 震えてても、ちゃんと前には出てきてる」


 さやかは、思わず苦笑した。


「まだ始まったばっかりですよ!」


「そうそう。

 ここから“何回でも”立ってくるんでしょ?」


 挑発でも、励ましでもある言葉。


 再び中央に戻り、

 今度はさやかが先に動いた。


 低い姿勢から足を狙うタックル。

 みなせはそれを受け止め、

 ヘッドロックに捕らえる。


 首にかかる圧力。

 視界がじわじわ狭くなっていく。


(苦しい――でも)


 ロープの位置を確認し、

 じりじりと横へにじる。


 ロープブレイク。

 白銀の声と同時に、

 みなせはきちんと技をほどいた。


 その一瞬の解放感を――

 みなせのショルダータックルがぶち壊す。


 どん、と真正面からぶつかられ、

 さやかの身体がマットに叩きつけられた。


 客席から、どよめきと拍手。


「立て立て立て……!」


 最前列で、まながボードを握りしめながら叫ぶ。


「星屑! 起きろー!」


 母は手を口元に当て、

 父は眉をひそめながらも目を逸らさない。


 マットに背中を打ちつけられた痛みに、

 さやかの呼吸が乱れる。


(痛い……!

 でも、これで止まってたらデビューできない)


 腹筋に力を入れ、

 ゆっくりと身体を起こす。


 膝をつきながらも、

 みなせのほうを見上げた。


「……まだ、やれます」


「そうこなくっちゃ!」


 みなせが、また笑う。


◇ ◇ ◇


 そこから、受けに受けた。


 ショルダータックル。

 ボディスラム。

 コーナーへの串刺しラリアット。


 一発一発が重くて、

 呼吸がどんどん荒くなる。


(立つ。

 絶対、立つ)


 ロープにつかまりながら立ち上がるたび、

 客席から小さな拍手が起こる。


「星屑、頑張れー!」


 まなの声が、ひときわ大きい。


 両親の視線も、

 さやかの背中に突き刺さるように感じた。


(みんな、見てる)


(逃げたくない)


 みなせがロープに走る。


(ここだ)


 いぶきの声が頭の中で響いた気がした。


『焦って最初からぶっ放さないこと。

 “ここ”って瞬間を探して』


 みなせの背中がロープから跳ね返る。


 さやかは、

 全身の力を足に込めて踏み込んだ。


「――っ!」


 低い姿勢から、胸のあたりへ突き刺さるように飛び込む。


 スピア。


 みなせの身体が、

 大きくマットに弾き飛ばされた。


 会場が、どっと沸く。


(決まった――!?)


 さやか自身も、

 一瞬だけそう思った。


 その勢いのまま、

 みなせの胸に覆いかぶさりフォールに入る。


「ワン――!」


 白銀の手がマットを叩く。


「ツー――!」


 客席が息を呑む。


「……ッ!」


 みなせの肩が、

 ぎりぎりのところで上がった。


「ツー!!」


 カウントは二で止まる。


「くっ……!」


 さやかは、思わず天井を見上げた。


 悔しさと、

 それでも「今のは届いた」という感触が

 同時に胸に広がる。


(届いた。

 ちゃんと、今の一発は届いた)


 最前列で、

 まなが涙目になりながら叫ぶ。


「いいよ星屑ー!

 今の、めっちゃすごかったから!!」


 母はハンカチで目元を押さえ、

 父は小さく頷いた。


「……ああ。

 すげえよ、ほんとに」


◇ ◇ ◇


 だが、先輩はそこからもう一段階速かった。


 立ち上がろうとしたさやかの腰を掴み、

 みなせは一気に持ち上げる。


「そろそろ、締めるよ星屑ちゃん!」


 客席から歓声とどよめき。


 みなせの必殺の一撃が、

 さやかの身体をマットへと叩きつける。


 強烈な衝撃に、

 視界が一瞬白く飛んだ。


(あ――)


 身体が動かない。


 でも、どこかで

 白銀の声だけははっきり聞こえた。


「ワン!

 ツー!

 スリー!」


 ゴング。


◇ ◇ ◇


 気づけば、

 白銀がさやかの顔の近くで声をかけていた。


「聞こえるか?」


「……はい」


「どこか、おかしいところは?」


「ちょっと、息が……でも……

 変な痛みは……ないです」


 かろうじて言葉をつなぐと、

 白銀は頷き、

 レフェリーポジションから離れた。


 みなせが、

 さやかのそばに膝をつく。


「大丈夫?」


「……はい」


「じゃ、立てる?」


 差し出された手を、

 さやかはしっかりと掴んだ。


 みなせの力に引き上げられ、

 よろめきながらも立ち上がる。


 客席から、拍手。


 みなせは、自分の腕を一瞬だけ上げてから――

 さやかの手首をぐいっと掴み、

 そのまま高々と掲げた。


「星屑さやか!!」


 叫び声が、マイクを通さずに響く。


「今日からこの子は、レスラーだから!!

 ちゃんと覚えて帰ってね!!」


 その言葉に、

 会場の拍手が一段と大きくなった。


 まなは、

 ボードを抱きしめながら泣き笑いしていた。


「星屑ーー!!

 サイコーだったよーー!!」


 両親も立ち上がり、

 手を叩く。


 さやかは、

 みなせに腕を掲げられたまま――

 涙がこぼれないように、

 必死に天井を見上げた。



ここまで読んでくださってありがとうございます。


今回は、

・第0試合:星屑さやか vs 轟みなせ デビュー戦

・最前列で応援ボードを掲げる“TO”まな

・内緒で観戦に来ていたさやかの両親

・みなせの「本気でぶつかる先輩」としての姿

・決まったスピアと、それでも届かない“先輩の一段上”

・試合後の「この子は今日からレスラーだから」と観客に紹介するみなせ

を描きました。


さやかはデビュー戦、敗北スタートですが、

・スピアはしっかり会場を沸かせた

・折れない心と何度も立ち上がる姿を、お客さんと先輩に刻みつけた

という内容での“最高の黒星”というイメージです。


次回は、

第1試合 星緋いぶき vs 赤城火智ひよりのデビュー戦を

描いていく予定です。


引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。

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