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星屑の少女はリングに立つ ―才能ゼロから始める女子プロレスラー・星屑さやか―  作者: バックドロップ
第5章 新しい星になる!デビューに向けて。
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第37話 コスチュームと名前、リングに立つ自分のかたち

前回、東都第二アリーナでの新人デビュー興行と、

「一か月後のデビュー候補」として指名されたさやかたち四人。


今回は、デビューに向けて避けて通れない

コスチューム・リングネーム・キャラクターの確認回です。

“リングに立つ自分の姿”と真正面から向き合うことになります。

――じゃあ、練習は一旦ここまで」


 その日の午後、スパーリング強化メニューがひと区切りついた頃。


 黒岩の号令で道場の空気が少しだけ緩んだ直後、

 天城社長が手を叩いて言った。


「新人四人と、ユニットリーダー、それから関係者は二階の会議室に来てくれ」


「会議室、ですか?」


 さやかが思わず聞き返すと、

 天城はにやりと笑う。


「コスチュームとリングネームの打ち合わせだよ。

 お前たちの“名刺”を決める時間だ」


(……ああ)


 その一言で、

 さやかの心臓はまた忙しく動き出した。


(“名刺”って、リングに立つ時の自分の姿と名前のことだ)


 リングで呼ばれる名前。

 お客さんの記憶に残る衣装。


 それを「自分で決める」瞬間が、

 たった今、扉の向こうに用意されている。


◇ ◇ ◇


 本部道場二階の会議室は、

 普段はスポンサー対応やマスコミ取材に使われている場所だ。


 白い長机に、椅子がぐるりと並べられている。


「よろしくお願いしまーす」


 入ってすぐ、眼鏡をかけた女性がぺこりと頭を下げた。

 落ち着いたグレーのカーディガンに、手には分厚いファイル。


「コスチュームデザインを担当している、衣装部の森といいます。

 今日はよろしくお願いしますね」


「音源担当の斎藤です。入場曲周りは僕が窓口になります」


 その横には、ラフなシャツ姿の男性。

 テーブルの上にはノートPCと、何枚かの資料が並んでいた。


 すでに席についているのは、

 天城社長、黒岩、白銀。


 それに加えて――


「お、来たね、星屑ちゃん!」


 マッスル・シンフォニーからは、轟みなせと翔迫ミナト、マディソン・グレイ。


「らんはこっちね」


 Stella☆Glareからは、天上院ユリア、白雪リラ、黒羽ミコト。


「ノエルは、こっちの席」


 Bloody Eclipseからは、紫苑イオラと鉄輪サツキ、氷見レナ、黒霧エナ。


「星緋は、こっち来なさい」


 AQUARIUSからは、白星るりあと紅条アカリ、赤城ひよりの三人。


 会議室の空気が、道場とは別の意味で濃密だった。


(うわぁ……なんか一気に“会社の会議”って感じ……)


 さやかは、指定された席におそるおそる腰を下ろす。


 四人は横並びで、その背後に自分のユニットの先輩が控える形だ。


「さて」


 天城が軽く咳払いをした。


「今日ここに集まってもらったのは、

 新人四人の――デビュー時の“表の顔”を決めるためだ」


 コスチュームデザイン、リングネーム表記、キャラクターの方向性。


 それらをこの場である程度固め、

 衣装部と音源担当に素材を渡す、という話らしい。


「さっき黒岩も言ったが、

 コスチュームと名前は、お前たちにとって“名刺”だ」


 天城は新人たち一人一人の顔を見ていく。


「初めて見に来たお客さんは、まず見た目で判断する。

 “この子はどんな子か”“どんな試合をするのか”を、

 リングに上がる前からイメージされる」


 さやかは、ごくりとつばを飲み込んだ。


「もちろん、最初から完璧である必要はない。

 あとから変えていくこともできる」


 天城は続ける。


「でも、“最初にどう名乗るか”はとても大事だ。

 ――だからちゃんと、自分の頭で考えて決めろ」


 その言葉に、四人は同時に小さく頷いた。


◇ ◇ ◇


「じゃあ、順番に聞いていこうか」


 衣装部の森が、ファイルを開く。


「まずは……星屑さやかさん」


「は、はいっ!」


 さやかは思わず立ち上がりそうになって、

 慌てて座り直した。


「リングネームについて、今のところの希望はありますか?」


「あ、あの……」


 さやかは一瞬迷ってから、口を開く。


「今まで通り、“星屑さやか”で……いきたいです」


 自分でも驚くほど、声は震えていなかった。


「その名字で呼ばれるの、嫌じゃないか?」


 天城が静かに聞く。


「昔はちょっと、からかわれたりしたこともあったけど……」


 さやかは、自分の胸に手を当てた。


「今は、その名前で呼ばれるのが、嬉しいので」


 フェンス越しに、あの人が呼んでくれた名前。


『星屑さやか、か』


 あの時の低くて優しい声は、

 未だに鮮明に思い出せる。


「“星屑”って名字が、

 あまねさんや皆さんがいるリングに、

 立てるって思うと……」


 少し照れながら、でもはっきりと言った。


「だから、そのままの名前で、

 リングに上がりたいです」


「……いいじゃん」


 みなせがにやりと笑った。


「星屑ちゃんには、その名前がお似合いだよ」


「うん。“ゼロから”感もあって、星屑らしくていいと思う」


 ミナトも頷く。


「ファミリーネームも含めて、ブランディングになるよ」


 マディソンが、さらりと言った。


「星屑さやか。

 “折れない星屑ガール”って感じで、悪くない」


 衣装部の森も、メモを取りながら微笑む。


「では、リングネームは“星屑さやか”で。

 コスチュームのイメージは、星モチーフで考えてよろしいですか?」


「は、はい!」


「動きやすさ重視で、膝と腰回りに余計な飾りは少なめ。

 スピアが映えるように、上半身のラインはスッキリさせましょう」


 森がさらさらとメモを走らせる。


「色は……本人のイメージと、ユニットとの兼ね合いもあるので、こちらで何案か出しますね」


「お願いします!」


 さやかは頭を下げた。


(“星屑さやか”で、リングに立つ)


 たったそれだけのことなのに、

 胸の奥がじんわりと熱くなる。


◇ ◇ ◇


「次は――星緋いぶきさん」


「はい」


 いぶきは背筋を伸ばして答えた。


「リングネームは今のまま“星緋いぶき”で?」


「はい。そのつもりでいます」


 るりあが、横から補足するように口を開いた。


「“星緋”の“緋”の字には、“炎の色”だけじゃなくて、

 “決意”や“けじめ”の意味も重ねているんです」


「道場育ちで、剣術と古武術の下地がある。

 そこに、“静かな熱”みたいなものを重ねたいって話になってな」


 アカリが腕を組む。


「だから、リングネームはこのままがいいと思う」


「和テイストは……出したい?」


 衣装部の森がいぶきに尋ねる。


「出したい、です。ただ、“そのまんま時代劇”みたいなのは嫌で」


 いぶきは少し考えながら言葉を選んだ。


「ちゃんと“女子プロレスラー”でありながら、

 動きの中に和の線の美しさが見えるような……そんな感じが、理想です」


「うん、それいいね」


 ひよりが嬉しそうに頷く。


「いぶきちゃんの動き、見ててすごい綺麗だからさ。

 それに合う衣装、絶対カッコいいよ」


「ありがとうございます」


 いぶきの口元に、ほんの少し笑みが浮かんだ。


「じゃあ、星緋さんは“和テイスト×現代的”で、

 脚さばきが見えるタイプのコスチューム案、いくつか考えますね」


「お願いします」


 AQUARIUSの席は、どこか静かで、けれど熱がある。

 さやかはその空気が、いぶきらしくていいなと思った。


◇ ◇ ◇


「では、ノエル・シエルさん」


「は、はい」


 ノエルは少し緊張したように背筋を伸ばした。


「リングネーム表記についてですが……

 “ノエル・シエル”をカタカナでいくか、

 NOEL CIEL などアルファベット表記を併記するか、どちらがよろしいですか?」


「あの……」


 ノエルは視線を落とし、少しだけ考え込む。


「カタカナ表記をメインにして、

 アルファベットはサブで使ってもらえたら……嬉しいです」


「理由、聞いてもいい?」


 紫苑イオラが、興味深そうに首をかしげる。


「わたし、お母さんが日本人で、お父さんがフランス人なんですけど……」


 ノエルは、指先をそっと組んだ。


「昔は、どっちの名前で呼ばれるかで、

 ちょっと戸惑うこともあって」


 日本の学校ではカタカナ表記。

 向こうにいた頃は、アルファベット表記。


 どちらも自分の名前だけれど、

 どこか“二つの世界に分かれている”ような気がしていた。


「でも、今は――

 ここにいる“ノエル・シエル”として、

 リングに立ちたいので」


 顔を上げて、まっすぐに言う。


「日本のお客さんに、ちゃんと覚えてもらえるように。

 まずはカタカナの“ノエル・シエル”で、お願いしたいです」


「いいじゃん」


 氷見レナが笑う。


「ノエルはノエル、ネ。

 “泣き虫子猫・ノエルチャン”って感じでカワイイ」


「勝手にキャッチコピー付けないでください……!」


 ノエルの抗議に、テーブルのあちこちから笑いが漏れた。


「コスチュームは――」


 衣装部の森が、ノエルの方を見て言う。


「Bloody Eclipse所属ということを考えると、

 少しダークな要素も入れたいのですが、

 ご本人の雰囲気は“透明感のある可愛い子”なので……」


「可愛いは否定しないのね」


 鉄輪サツキのぼそりとしたツッコミに、ノエルが真っ赤になる。


「そのギャップがいいんじゃない?」


 イオラがにやりと笑う。


「可愛いのに、どこか不穏。

 泣きながらもリングに戻ってくる子」


「……あの、その……」


 ノエルは、おずおずと手を上げた。


「わたし、まだ……“ヒールになる”って、

 決めたわけじゃなくて」


 その言葉に、一瞬だけ空気が止まる。


「Bloody Eclipseのみなさんにお世話になっているし、

 一緒に練習してるのは本当で……すごく、ありがたいんですけど」


 自分の気持ちを探るように、

 ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「でも、“悪いことをしてお客さんを怒らせるレスラーになります”って、

 まだ、ちゃんと胸を張って言える自信がなくて」


 イオラが、ふっと目を細めた。


「……ふうん」


「それでも、ここに座ってるってことは?」


「“逃げずにここにいたい”って気持ちは、本当です」


 ノエルは、ぎゅっと手を握りしめた。


「前みたいに、怖くなって逃げたくないから。

 ヒールになるかどうかは、まだ迷ってるけど――

 少なくとも、Bloody Eclipseのみなさんと一緒に、

 リングに戻る自分を作りたいって思ってます」


 森が優しくうなずいた。


「では、完全な“悪役”ではなく、

 ノエルさん自身の雰囲気を残したデザインにしましょうか」


「可愛い要素もちゃんと残して」


 レナが続ける。


「“この子、本当に悪いの?”って、

 お客さんがちょっと戸惑うくらいが、今はイイと思う」


「そうね」


 サツキが顎に手を当てる。


「“ガチガチのヒール衣装”にして逃げられたら困るし。

 まずはリングに立つところからだ」


「イオラさんは……?」


「いいんじゃない?」


 イオラは、口元に悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「本人が“ヒールになる”って本気で言えるようになるまで、

 こっちでじわじわ環境整えてあげればいい」


「それ、ちょっと怖い言い方ですよね……?」


「褒めてるよ、ノエル」


 Bloodyのテーブルに、含み笑いが広がる。


「じゃあ、ノエルさんは“可愛い×ダーク”路線で、

 色味や装飾は、あまり極端な“悪役記号”には振らずに考えますね」


 森がメモをとりながらまとめた。


「ヒールになるかどうか、ではなくて――

 “ノエル・シエルとして、もう一度リングに立てる衣装”を目指しましょう」


「……はい。お願いします」


 ノエルは深く頭を下げた。


 その表情はまだ不安を含んでいたけれど、

 さっきより少しだけ、前を向いているように見えた。


◇ ◇ ◇


「最後は――ティアラ☆キャンディさん」


「ティアラですっ!」


 らんは元気よく手を挙げた。


「リングネームは、“ティアラ☆キャンディ”固定でいいわね」


 ユリアが隣でふっと笑う。


「“姫乃らん”は会社内とプライベート用。

 リング上と世間向けは、あくまでティアラ☆キャンディ」


「はい! アイドルとしてのあたしは、ティアラ☆キャンディです!」


「うん、そこはブレないで」


 リラが頷いた。


「名前のインパクトもあるし、

 Stella☆Glare的にも“看板後輩アイドルレスラー”として推し出しやすいからね」


「こ、看板後輩アイドルレスラー……!」


 らんの目が一瞬で星になる。


「コスチュームは、本人の希望ある?」


 衣装部の森が尋ねると、

 らんは間髪入れずに答えた。


「ティアラモチーフは絶対で!

 あとフリフリとリボンと、キラキラしたスカートと――」


「ストップ」


 ユリアが手のひらを上げて制した。


「全部盛ったら動けないでしょ。

 “リングの上でちゃんと動けるアイドル衣装”にしなさい」


「うぅ……でもフリルは欲しい……」


「フリルは多少はいいよ」


 ミコトが苦笑する。


「ただ、足さばきが見えるように、スカート丈とボリュームは調整ですね」


「腰回りも、ホールドされた時に邪魔にならないように」


 リラが真剣な顔で言った。


「ティアラとスカートの揺れが、ちゃんと“技の一部”になるようにしたい」


「はいっ!」


 らんは勢いよく頷く。


(らんちゃんのコスチューム、

 絶対可愛くなるんだろうな……)


 さやかは、どこかうらやましく、

 でも同じくらい楽しみだった。


◇ ◇ ◇


 ひととおり四人の希望と方向性を聞き終えると、

 衣装部の森がノートPCを閉じた。


「では、今日の内容をもとに、

 それぞれ二〜三案ずつラフデザインを作成します」


「入場曲についても、今日のイメージを踏まえて仮デモを作りますね」


 音源担当の斎藤が、別のファイルを示す。


「曲調とテンポは、技構成とも合わせたいので、

 日をあらためて“技の流れ”も見せてもらえると助かります」


「もちろん」


 天城が頷く。


「コスチュームのラフと入場曲の仮デモが揃った段階で、

 もう一度このメンバーで集まって最終決定だ」


「その頃には、

 デビュー戦のカードもある程度固まっているはずだ」


 白銀が淡々と言った。


「誰と、どんな試合をするかで、

 “見せ方”も変わるからな」


 その言葉に、

 四人の胸はまたざわりと揺れた。


(誰と、どんな試合をするんだろう)


(勝てるのかな)


(そもそも、ちゃんとリングに立てるのかな)


 不安と期待が、ぐるぐると混ざり合う。


◇ ◇ ◇


 会議が終わり、

 それぞれのユニットごとに会議室を出ていく。


 廊下を歩きながら、

 さやかは隣の三人に声をかけた。


「……ねえ」


「ん?」


「どうしたの、星屑」


「さっき、自分の名前、言ったときさ」


 さやかは、さっきの自分を思い出して

 少し照れくさそうに笑う。


「なんか……

 本当に“デビューするんだ”って、

 やっと実感が湧いてきた」


「分かる」


 いぶきが頷く。


「リングネームって、“リングの中の自分”の名前だしな。

 そこで腹を括れるかどうかって、やっぱり大きい」


「ノエルちゃんは?」


「わたしも、です」


 ノエルは胸の前でそっと手を組んだ。


「“ノエル・シエル”って名前で、

 もう一度リングに立っていいって、

 ちゃんと自分で言えた気がして」


「らんちゃんは?」


「あたしはもう、ウキウキしかない!」


 らんは両手をぶんぶん振る。


「ティアラ☆キャンディとして、

 可愛くカッコよくデビューして――

 お客さんにいっぱい名前呼んでもらうんだから!」


「うん」


 さやかは、少しだけ歩幅を広げた。


(“星屑さやか”として、

 リングに立つ)


 学校では、

 相変わらず“普通の高校生・星屑さやか”として授業を受ける。


 放課後には道場に来て、

 受け身とスピアを繰り返す。


 寮に入ったら、

 同じ夢を見ている仲間たちと、毎日天井を見上げることになるのだろう。


(どっちの“星屑さやか”も、

 ちゃんと自分で守りたい)


 胸の奥で、

 小さな星屑が、ぱらぱらと光った気がした。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


今回は、

・PWS本部の会議室での「コスチューム&リングネーム会議」

・四人それぞれの“名前”への想い

・星屑さやかが「星屑さやか」のままリングに立つと決める場面

・スタイルに合わせたコスチューム方針(星・和テイスト・可愛い×ダーク・アイドル)

を中心に描きました。


ここから、衣装部と音源担当がラフ案&仮デモを作り、

デビュー戦に向けて“見た目”と“音”も固まっていきます。


次回は、

・技構成と入場曲を合わせるためのスパーリング

・テストマッチに向けた、本格的な「試合作り」の始まり

あたりを描いていく予定です。


引き続き、応援や感想をいただけると、とても励みになります。

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