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星屑の少女はリングに立つ ―才能ゼロから始める女子プロレスラー・星屑さやか―  作者: バックドロップ
第4章 PWSビッグマッチ《東京国技館編》 ――星屑たちはリングの外で何を見るか
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第33話 光の女王と世界からの挑戦状

国技館大会・第7試合は、グランドプリマ選手権試合。

“美と輝きの象徴”・天上院ユリアに挑むのは、

世界団体QUEEN OF WORLDからの刺客・ステファニー。


さっきの乱入でBloody Eclipseと黒輪クロウに宣戦布告したばかりのユリア。

怒りを抱えたまま、それでも“女王としてのステージ”を完璧にこなせるのか。


世界水準の強さと華やかさを兼ね備えたステファニーとの一戦は、

「美しく強い」とは何かをリングで示す試合になります。


―――――




 スターダストタッグ王座戦の混乱と、

 ユリアの乱入&宣戦布告マイクが終わったあと。


 場内は一度暗転し、セミファイナルへ向けた照明の準備が始まっていた。


 新人たちは、リングサイドの決められた位置で持ち場を確認する。


「……ユリアさん、すごかったね」


 さやかが、胸の奥に残る熱を抱えたまま呟いた。


「“ステージ壊すな”って、あんな大観客の前で言い切るなんて……」


「当たり前、って顔してたな」


 いぶきが、ロープを指先で軽く押しながら答える。


「さっきまでガチギレしてたのに、

 今から自分のタイトルマッチって、メンタルお化けだろ」


「自分のステージも守らなきゃいけないから、ですね……」


 ノエルがぽつりと呟く。


(Bloody Eclipseにいながら、

 あんなふうにリングを“ステージ”って言える人がいる……)


 胸の奥が、少しだけきゅっとする。


 ティアラ☆キャンディ――らんは、

 リラとミコトを裏方スタッフに任せて戻ってきたところだった。


「ふたりとも、まだフラフラしてたけど……

 “ユリア様のセミはちゃんと見たい”って、モニター前陣取ってたよ」


「見れるなら、きっと大丈夫だね」


 さやかが安心したように笑う。


◇ ◇ ◇


『それでは、セミファイナルをお知らせします!』


 煌上すばるの声が、再び華やかなトーンに変わる。


『第7試合!

 グランドプリマ選手権試合、60分一本勝負を行います!』


 客席から歓声が上がる。


 グランドプリマ――

 PWSにおける“美と輝きの象徴”。

 ただ強いだけじゃなく、“見せる力”“華”まで含めた王者の称号。


『まずは、挑戦者の入場です!

 From QUEEN OF WORLD――ステファニー!』


 英語混じりのコールとともに、

 重厚なストリングスとエレクトロを組み合わせたテーマ曲が鳴り響いた。


 スクリーンには、金と白を基調にしたグラフィック。

 世界各地の夜景が高速で切り替わり、その中心に“STEPHANIE”の文字。


 花道の奥から、

 長いブロンドヘアをなびかせた長身の女が姿を現した。


 ステファニー。


 白とゴールドのコスチューム。

 腰には、QUEEN OF WORLDのシングル王座ベルト。


 背筋はまっすぐで、歩き方はまるでランウェイモデルのように滑らか。

 一歩踏み出すたびに、金の装飾がライトを反射してきらめいた。


「うわ……」


 さやかがぽかんと口を開ける。


「ほんとに“世界から来たお姫さま”って感じ……」


「背、高っ……」


 いぶきの視線も思わず上下に動く。


「でも、ただのモデルじゃないですよ」


 ノエルが真剣な目でリングを見つめた。


「ステファニー選手、もともと体操とダンス出身で、

 QUEEN OF WORLDでもトップクラスのアスリートって……資料に……」


「ノエル、そういうとこ好き」


 らんが小声で笑う。


「オタク力高いの、武器だからね!」


◇ ◇ ◇


 ステファニーは花道の途中で立ち止まり、

 腰のベルトに軽く手を添えた。


 そして、日本語で、はっきりとマイクを取る。


「コンバンハ、トーキョー」


 客席から「おおーっ」とどよめきと歓声。


「QUEEN OF WORLDのクイーン、ステファニーです」


 発音は少し独特だが、言葉はきれいに通る。


「今日ワタシは、“ビ・ト・カガヤキ”の王者とたたかうために来ました。

 でも――勘違い、シナイデね?」


 ステファニーは指を立てて、ひらひらと揺らす。


「ワタシも、美しくて、強い。

 世界には、ヒトリだけの女王じゃナイって、

 ちゃんと見せてアゲる」


 その自信満々な物言いに、

 ブーイングと歓声が半々で返ってきた。


「いいヒールだな」


 いぶきが小さく笑う。


「でも、言ってることは間違ってない。

 ――だからこそ、面白い」


 ステファニーはマイクを返し、

 優雅な身のこなしでリングインした。


◇ ◇ ◇


『続きまして、王者の入場です!

 PWSグランドプリマ王者――天上院ユリア!』


 華やかなストリングスとポップスが混ざり合ったテーマが流れる。


 スクリーンには、ライトに照らされたステージと、

 マイクを握るシルエット。

 “GRAND PRIMA”の文字が、星のエフェクトとともに輝いた。


 花道の奥から、

 純白とロイヤルブルーのローブを纏ったユリアが姿を現す。


 さっきの乱入で汗をかいたはずなのに、

 髪もメイクも、一切乱れていない。


 腰には、グランドプリマのベルト。

 胸を張り、緩やかに手を振るたびに、観客席から「ユリアー!」の声が飛ぶ。


(すごい……さっき、あんな顔して怒ってたのに)


 さやかは、ユリアの横顔を見て思う。


(今はもう、“女王の顔”になってる……)


 ユリアは花道の途中で立ち止まり、

 マイクを受け取った。


「――さっきの、StellaとBloodyの騒ぎ。

 びっくりさせちゃって、ごめんね国技館」


 客席から、笑い混じりの声。


「でも、おかげでちょうどいい“前説”にはなったわ」


 ユリアは、ステファニーを正面から見据える。


「ここからは、“美と輝きの象徴”の本番ステージ。

 世界の女王様――」


 ユリアは、少しだけ口元を歪めて笑った。


「このPWSのリングで、一番光ってるのは誰か。

 はっきりさせましょうか?」


◇ ◇ ◇


 両者リングイン。

 白銀レフェリーがグランドプリマのベルトを掲げる。


 さっきまでクロウの歪んだ裁きを見せつけられていた観客席に、

 少しだけ安堵の空気が戻る。


「よかった……ここは白銀さんなんだ」


 さやかが、胸を撫で下ろした。


「そりゃそうだろ」


 いぶきが頷く。


「PWSの“美と輝きの象徴”の試合を、

 クロウなんかに預けたら、社長が泣く」


 ゴングが鳴る。


◇ ◇ ◇


 序盤。


 まずは、ロックアップ――ではなく、お互いにゆっくりと回り込む。


 ステファニーは、長い手足を活かして、

 軽いステップを踏みながら距離を測る。


 ユリアは、真正面から視線を外さない。

 時々、観客席に視線を向け、

 「ちゃんと見てなさいよ」とでも言いたげに手を広げる。


「見せ方からして違う……」


 さやかが呟く。


「序盤から“写真映え”意識してるな」


 いぶきが、感心したように頷いた。


「これが“グランドプリマ”……か」


 最初に仕掛けたのは、ステファニーだった。


 長いリーチを活かしたフロントキック。

 ユリアがガードを上げた瞬間、

 スッと間合いを詰めて首にフロントヘッドロック。


 綺麗なフォーム。

 首を締めながら、自分の体勢も美しく見える角度を崩さない。


「フォームも絵になるな……」


 白銀が、位置を変えながら二人を見ていた。


 ユリアは、無理に抜けようとはせず、

 ステファニーの体重のかけ方をじっくりと感じ取る。


「……へえ」


 ユリアが笑う。


「さすが世界の女王様。

 “自分の見え方”をよく分かってる」


「アナタも、ネ」


 ステファニーが返す。


「苦しい顔も、カワイイよ?」


「なら――もっと可愛くしてあげる」


 ユリアは一気に腰を落とし、

 ヘッドロックをかけられたままステファニーの足を払う。


 倒れながら、ステファニーの腕を取り、

 グラウンドに引きずり込んでのフェイスロック気味のヘッドロックに切り替えた。


(きれいなのに、えげつない……)


 さやかは変な震え方をした。


◇ ◇ ◇


 試合は、“美しく魅せる”ことと“えげつなく削る”ことの、

 二重奏みたいになっていった。


 ステファニーは、高い打点のキックや、

 ロープを使ったバネの効いたムーブで観客を沸かせる。


 ユリアは、そこにカウンターのネックブリーカーや、

 ドラゴンスクリューを合わせて、じわじわと足と首を削っていく。


「ステファニーのキック、エグいな……」


 いぶきが感心半分、恐怖半分で呟く。


「でも、ユリアさんも受けてる時の表情が“綺麗”なんだよね……」


 ノエルが思わず言葉にする。


「苦しそうなのに、絵になるというか……

 見ちゃう……」


 らんがこくこく頷く。


「それが“アイドルレスラー部門の頂点”なんだよ。

 ユリア様は、やられてる時すらプロなんだから」


 ステファニーがコーナーに上り、

 ハイアングルのミサイルキックを放つ。


 ユリアの胸板に突き刺さり、

 ユリアが大きく仰向けに倒れた。


「カバー!」


「ワン! ツー!」


 白銀のカウントが2で止まる。


 ユリアは肩で大きく息をしながらも、

 すぐに上体を起こした。


「ねえ、世界の女王様」


 ユリアが息を整えながら言う。


「強いし、綺麗。

 そこは、ほんと認める」


「うれしい言葉。

 でも、それは“負けない理由”にはならナイでしょ?」


 ステファニーが、また距離を取る。


「ええ、ならないわね」


 ユリアは、ゆっくりと立ち上がる。


「――だから、あたしは“ここ”を背負ってるって理由を足すの」


◇ ◇ ◇


 中盤を過ぎると、

 ユリアの“女王モード”が本格的にギアを上げ始めた。


 ステファニーのキックをスウェーでかわし、

 髪を翻しながらバックに回る。


 そのまま、相手の顔をリングに叩きつけるフェイスクラッシャー。

 起き上がりに合わせてのランニング・ハイキック。


「おおっ!」


 客席が沸く。


「スピードが上がってる……!」


 さやかも思わず前のめりになる。


 ユリアは、ステファニーの金色の髪を一瞬だけ掴む。


「世界からの挑戦状なら、

 ちゃんと受け取るわよ」


 耳元で囁き、

 すぐに手を離してロープに走る。


 ロープワークからのフライング・フォアアーム。

 ステファニーが倒れたところに、

 華やかなポーズを一瞬挟んでからのエルボードロップ。


「一つ一つの技に“見せ場”が挟まってるな」


 いぶきが感心する。


「これが、“ステージに立つ人間のプロレス”ってやつか……」


「どっちも、カッコイイです……!」


 ノエルの頬が少し赤くなっている。


◇ ◇ ◇


 終盤。


 ステファニーが、勝負を決めに動いた。


 ユリアのハイキックをかわし、

 背後に回ってジャーマンスープレックス。

 ブリッジまで綺麗に決めて、白銀のカウントが入る。


「ワン! ツー!」


 カウント2.9で、ユリアが肩を上げた。


 ステファニーが、少しだけ息を荒くして笑う。


「サスガね、グランドプリマ。

 でも――これで、どう?」


 ステファニーはロープに向かい、

 コーナーへ駆け上がる。


 トップロープからリング中央を狙い、

 大きく弧を描くムーンサルトプレスの体勢――


(やば……!)


 さやかの心臓が嫌な音を立てる。


 しかし、その瞬間。


 ユリアが、ほんの少しだけ転がって位置をずらした。


「っ……!」


 ステファニーの身体が、ユリアの肩と腕だけをかすめてマットに落ちる。


 完全なクリーンヒットを逃してしまった。


「今!」


 らんの声と同時に、

 ユリアが一気に立ち上がる。


 ステファニーも、すぐに起き上がろうと膝をついた。


 その顔面めがけて――

 ユリアの右足が、閃光みたいに走る。


 ハイキック。


 “プリマ・ルーチェ”――

 天上院ユリアの代名詞とも言える、

 美しくも容赦のない一撃。


 ステファニーの身体が、横向きに崩れ落ちた。


 ユリアは、倒れたステファニーの上に、

 女王らしく堂々としたフォームでカバーに入る。


「カバー!」


 白銀の声。


「ワン! ツー! スリー!!」


◇ ◇ ◇


『スリーカウント!

 勝者――天上院ユリア!

 よって、グランドプリマ王座、防衛です!!』


 大歓声と拍手が、国技館を揺らした。


 ユリアは仰向けになり、

 天井を見上げながら大きく息を吐く。


(さっきの乱入分まで、ちゃんと働いたわね……)


 胸の鼓動が少し落ち着いた頃、

 白銀がグランドプリマのベルトを持ってくる。


「お疲れ様です、女王様」


「ありがと、白銀さん」


 ユリアはゆっくりと立ち上がり、

 ベルトを腰に巻いてもらう。


 その向こうで、ステファニーがゆっくりと身を起こした。


「……キレイなキック、だったわ」


 ステファニーが、苦笑しながら日本語で言う。


「アタマの中で、星がいっぱい飛んでる」


「それは、光り過ぎでしょ」


 ユリアも笑う。


 そして、手を差し出した。


「QUEEN OF WORLDのクイーン。

 悪くなかったよ」


「アナタも、ネ」


 ステファニーは、その手を握る。


「美しくて、強い。

 ワタシの敵として、世界に紹介してアゲル」


「望むところ」


 二人は軽く握手を交わし、

 ステファニーはロープをくぐってリングを降りていった。


◇ ◇ ◇


 リング上に残ったユリアは、

 マイクを再び受け取る。


「――さっきも言ったけど、

 キラキラしたとこだけ見せるつもりはない」


 ユリアは、少しだけ息を整えながら観客席をぐるりと見渡した。


「世界からの挑戦状も、

 血の匂いのするヒールも、

 歪んだレフェリーも」


 ちらり、と花道の奥――

 すでに引き上げたはずのBloodyとクロウの方向を見やる。


「あたしたちは、全部飲み込んで、

 それでも“綺麗だ”って言い張る」


 その言葉に、客席から拍手が起こる。


「――だから」


 ユリアは、腰のベルトを軽く叩いた。


「Bloody Eclipse。

 クロウ」


 はっきりと名前を呼ぶ。


「アンタたちがどんな“汚い手”使おうと、

 最終的に一番キレイに輝いてるのは、

 このPWSのステージと、ここにいる選手たちだから」


 その宣言は、

 国技館の天井に突き刺さるように響いた。


「セミファイナル、これにて閉幕!」


 ユリアがマイクを掲げてポーズを決める。


 照明が一段階明るくなり、テーマ曲が流れる。


 さやかは、手が痛くなるほど拍手をした。


(あまねさんの王座戦もきっとすごいけど――

 ユリアさんの“女王のステージ”も、絶対忘れない)


 胸の奥に、

 プロレスラーとして目指したい姿がまた一つ増えた気がした。


◇ ◇ ◇


 バックステージに戻る途中、

 ユリアは花道から一瞬だけリングサイドを見た。


 さやかたち新人四人。

 その横には、まだ複雑な表情をしたノエルの姿もある。


「――ちゃんと見てなさいよ?」


 今度は声にはしなかったけれど、

 その視線はそう語っていた。


 次はいよいよ、国技館大会・メインイベント。

 インターナショナル・ワールド・スターダスト王座戦――

 皇あまね vs マディソン・グレイへと、リングは委ねられている。

読んでくださってありがとうございます。


今回は、国技館大会セミファイナル、

グランドプリマ選手権試合・天上院ユリア vs ステファニーでした。


・世界団体QUEEN OF WORLDの“女王”ステファニーの華と強さ

・乱入直後とは思えない、ユリアの“女王モード”への切り替え

・「美しいけどえげつない」技と見せ方の二重奏

・フィニッシュとなるユリアのハイキック「プリマ・ルーチェ」

・世界のクイーンとの握手、そして改めてのBloody&クロウへの宣戦布告


この試合で、

「美と輝きの象徴」としてのユリアの立ち位置、

PWSという“ステージ”の価値が、セリフと試合内容の両方で確認されました。


次回はいよいよ、国技館大会メインイベント。

インターナショナル・ワールド・スターダスト選手権試合――

《王者》皇あまね vs 《挑戦者》マディソン・グレイ。


さやかたち新人が目撃する、“PWSの頂点の戦い”を書いていきます。

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