表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星屑の少女はリングに立つ ―才能ゼロから始める女子プロレスラー・星屑さやか―  作者: バックドロップ
第4章 PWSビッグマッチ《東京国技館編》 ――星屑たちはリングの外で何を見るか
36/59

第28話 筋肉シンフォニー vs レジェンドの旋律

国技館大会・第3試合は、マッスル・シンフォニー vs レジェンド・ルミナリアのスペシャルタッグマッチ。

轟みなせ&翔迫ミナトの“筋肉とノリ”コンビが、

如月ゆかり&世界経験豊富なアリアーナと激突します。

 ルミナとハヤブサがバックステージへ戻り、場内の照明が一度落ちる。


 観客席のざわめきは、まだ高いままだ。


『続いてのカードをお知らせします!

 第3試合、スペシャルタッグマッチ!』


 煌上すばるの声が響く。


『轟みなせ&翔迫ミナト

 vs

 如月ゆかり&アリアーナ!』


 対戦カードがビジョンに映ると、客席から歓声が上がった。


「おおー! 如月だ!」「マッスル・シンフォニー来た!」


 さやかはリングサイドでごくりとつばを飲み込む。


(如月ゆかりさん……あまねさんの師匠……)


 映像や雑誌で何度も見た、“レジェンド”の試合。

 でも、生で見るのは今日が初めてだ。


 背中に汗がじんわり滲む。


◇ ◇ ◇


『それではまず、ブルーコーナーから入場です!

 PWSが誇る筋肉ユニット――マッスル・シンフォニー!』


 明るくテンションの高いロックが流れ出す。


『轟みなせ! 翔迫ミナト!』


「いっくよおおおおおっ!!」


 花道の奥から、轟みなせが飛び出してきた。

 いつも以上に血管の浮き出た腕を振り回し、客席に向かってポージングを決める。


「みんなー! 筋肉、見えてるー!?

 今日もちゃんとタンパク質摂ってきたー!?!」


「うるさっ! でも嫌いじゃない!」


 客席から笑い混じりの歓声が飛ぶ。


 その後ろから、翔迫ミナトがゆったりとした足取りで現れた。

 ウエーブのかかった髪、余裕の笑み、そして程よく締まったボディライン。


「はーい、みんな〜。

 今日は国技館よ? ちゃんと目を凝らしててね♡

 マッスル・シンフォニー、全力で魅せちゃうから」


「ミナトちゃーん!」「筋肉ー!」


 歓声の質がさっきまでと少し違う。

 黄色い声と太い声が入り混じっている。


 みなせとミナトはエプロンに飛び乗り、ロープをまたいでリングインした。


 中央で並ぶと、みなせがいきなりダブルバイセップス・ポーズ。


「見てこの上腕二頭筋! 国技館仕様でパンパンだからね!」


「はーい、みなせの筋肉に拍手〜♡」


 ミナトが手拍子を煽り、客席から笑いと拍手が起こる。


(……すごい。

 でも、さっきまで緊張してた自分の心がちょっと軽くなるくらい、明るい……)


 さやかは少しだけ肩の力が抜けた。


◇ ◇ ◇


『続きまして、レッドコーナーから入場です!

 レジェンド・ルミナリア!』


 落ち着いた壮大なテーマ曲が流れる。

 ストリングスの音色に、観客席から自然とどよめきが起こった。


『如月ゆかり! アリアーナ!』


 花道の奥から、ゆっくりと二つの影が現れる。


 先頭には、シンプルな黒と紫のロングガウンを羽織った如月ゆかり。

 長い髪をすっきりまとめ、おでこを出した顔には、無駄のない落ち着きと静かな闘志が宿っている。


 その後ろを歩くのは、金髪に近い明るい髪をポニーテールにしたアリアーナ。

 白と青のコスチュームに、海外選手らしいしなやかな筋肉が浮かび上がっている。


「おおー……!」


 さやかは思わず声を漏らした。


(あの人が……あまねさんの師匠……)


 テレビの画面で見たことのある姿が、本物の空気を纏って歩いてくる。


 ゆかりは花道の途中で立ち止まり、観客席をぐるりと一周見渡した。

 それから、静かに一礼する。


 その仕草だけで、場内の空気が引き締まるのが分かった。


「相変わらず、入場だけで会場の空気変えるな……」


 白銀が低く呟く。


 ゆかりとアリアーナがリングインすると、

 コーナーポストの上でアリアーナが片手を掲げ、観客にアピールした。


「トーキョー! ワタシタチノ、ファイト、ミテテネ!」


 発音の少し怪しい日本語。

 それでも、その声に込められた自信は本物だ。


◇ ◇ ◇


 両チームが向かい合う。


 先発は、轟みなせとアリアーナ。


「よろしくお願いしまーす!」


「ヨロシク、マッスルガール」


 ゴングが鳴る。


 ロックアップ――かと思いきや、みなせはいきなりポーズを取った。


「まずは筋肉チェックからいこうか!」


「えっ」


 観客席から笑いが起こる。


「ほらほら、アリアーナさん、二の腕。こうやって力入れてみて?」


「コウ?」


 アリアーナがちょっと戸惑いながらも力こぶを作る。

 しっかりと盛り上がる上腕二頭筋。


「おお〜〜〜〜!!」


 客席が何故か湧いた。


 みなせが真剣な顔で頷く。


「うん、いい。

 ちゃんと鍛えてる。合格」


「ナニ、ソレ!?」


 アリアーナが思わず吹き出す。


「試合前に筋肉検査とか、新しすぎるわよ……」


 ミナトがコーナーで肩を震わせて笑っていた。


 しかし、その空気はすぐに変わる。


「じゃ、筋肉チェック終わったし――本気でいこっか!」


 みなせの目が、きゅっと鋭く細まった。


 次の瞬間、ロックアップ。

 みなせがぐい、と力で押し込もうとするが――アリアーナも押し返す。


「おお……!」


 さやかの目が丸くなる。


(轟さんが押し負けてないけど、押し切れてもいない……)


 パワーはほぼ互角。

 微妙なバランスのまま、二人はコーナーまで押し合っていく。


 白銀がブレイクを命じる。


「ブレイク!」


「オッケー、オッケー」


 アリアーナは素直に手を離して一歩下がる――ふりをして、みなせの腹に軽くフロントキックを入れた。


「うぐっ!」


 みなせが半歩下がる。


「イッパツ、サービス」


「しょっぱなからスパルタだなあ! 嫌いじゃない!」


 みなせはすぐに笑って、再び走り込んだ。

 タックルでテイクダウンを狙い、アリアーナの腰を抱え込む。


 そこからは一気にグラウンドの攻防になった。


 みなせが体重を乗せて抑え込む。

 アリアーナが腰を切って下からのスイープを狙う。


 筋肉と技術。

 その両方を持っている者同士の、分かる人には分かるせめぎ合い。


「星屑ちゃん。今の、どっちが有利とか分かる?」


 ミナトが、コーナーからさやかに小さく声を掛ける。


「えっと……みなせさんが上ですけど、アリアーナさん、全然苦しそうじゃないというか……」


「そう。上に乗ってるから有利、とは限らないの。

 腰の位置、足の絡め方、重心……そういうの見てるとね、また違うものが見えてくるのよ♡」


(……奥が深い)


 さやかは必死に二人の脚と腰の動きを追いかけた。


◇ ◇ ◇


 数分の攻防のあと、タッチが回る。


 ミナト vs 如月ゆかり。


 リング中央で向き合う二人は、どこか“大人の余裕”をまとっていた。


「やっとお手合わせできるわね、如月さん」


「こちらこそ。

 噂の“やるときはやるお姉さん”と組むのは初めてだからな」


「ふふ、変なあだ名広がってるわね……」


 ゆかりの目元が、少しだけ楽しそうに緩む。


 ロックアップ。


 ゆかりは力ではなく、崩しで勝負するタイプだった。

 ミナトの力を受け止めつつ、ほんの少し重心をずらして足払いを入れる。

 ミナトが転びそうになる瞬間に、腕を取り関節の位置を変える。


(なに、今の……)


 さやかには、一つ一つの動きは大きく見えない。

 それでも、ゆかりの“リングの上に描いている線”だけは、はっきりと伝わってきた。


 ミナトもやられっぱなしではいない。


 低い姿勢でのエルボー、素早いフロントキック、ロープワークからのラリアット。

 持ち味の「柔らかさ」に、要所で鋭い一撃を混ぜていく。


「ナイスナイス〜! そのままガンガン行こうかぁ!」


 コーナーからみなせの声が飛ぶ。


 ゆかりはミナトの攻撃を受けながらも、表情はほとんど崩さなかった。


 ただ、一つだけ変化があった。


 目が、少し楽しそうになっている。


(……きっと、この人は“ちゃんと闘う相手”が好きなんだ)


 さやかは直感した。


◇ ◇ ◇


 試合は中盤、タッグとしての連携戦に移っていく。


 マッスル・シンフォニーは、

 ・みなせのぶちかまし

 ・ミナトのキック

 ・二人で同時にロープに走ってのダブルラリアット

 と、シンプルに“重くて分かりやすくて盛り上がる”攻めを展開。


 対するレジェンド・ルミナリアは、

 ・アリアーナが捕まえ、コーナーに持って行く

 ・ゆかりが関節と打撃で削る

 ・タッチワークを細かくしてスタミナを奪う


 という、いかにも“タッグ屋”らしいじわじわした戦い方だ。


「どっちも、タッグとして完成されてる……」


 さやかは、リング上の四人を見つめながら息を呑んだ。


 みなせが捕まり、コーナーで集中攻撃を受ける時間が少し続く。

 アリアーナのミドルキック、ゆかりの膝蹴り、そして関節技。


「ギブアップ聞くぞ!」


 白銀が問いかけるが、みなせは首を横に振る。


「ギブなんか……するかっての……!

 筋肉は裏切らないんだよ!!」


「そういうとこ嫌いじゃないわよ……!」


 ミナトがコーナーから叫ぶ。


 みなせは歯を食いしばりながら、ロープに向かってじりじりとにじり寄る。

 アリアーナが腰を押さえ込んで止めに行く。


 右足のつま先が、ロープに届くか届かないか――。


 その瞬間、みなせは身体をぐいとひねり、アリアーナごとロープに寄りかかる形でエスケープした。


「ブレイク!」


 白銀が技を解かせる。


 転がるようにコーナーへ戻るみなせ。

 伸ばした右手に、ミナトの左手がぱしんと合わさった。


「タァーーッチ!!」


「オッケー☆」


 ミナトがリングイン。


 スピードを殺さないまま、アリアーナにキックの連打、

 ロープに振ってカウンターのジャンピングニー。


「ワン! ツー!」


 アリアーナがギリギリで肩を上げる。


◇ ◇ ◇


 終盤、試合は一気に加速した。


 みなせとミナトの合体技――

 みなせが相手を肩に担ぎ上げ、ミナトがロープから飛んでくる構え。


「星屑ちゃん、よく見ててね!」


 さやかの方を一瞬見て、みなせが歯を見せて笑う。


(えっ、ここであたしに振るの!?)


 みなせがアリアーナを担ぎ上げ、

 ミナトがセカンドロープから飛び出す――


 が、そこにゆかりが割って入った。


 みなせの脚を、ほんの一瞬、ロープに絡めるように引っ掛ける。


「うわっ!」


 バランスを崩すみなせ。


 アリアーナの身体がずり落ちる――

 そこに、ミナトのジャンピングキックが誤爆しかけた。


「ミナトさん!」


 さやかが叫ぶ。


 だが、ミナトは空中で身体をひねり、ぎりぎりで軌道を変えた。

 その足は、アリアーナではなく、ゆかりのガードの上に当たる。


「いい判断だ」


 ゆかりが短く言う。


 そのまま、ゆかりはミナトの足を掴んでマットに叩きつけた。

 みなせも、同時にアリアーナのカウンターをもらってマットに倒れる。


 場内が一気に沸く。


(今の反応速度……!)


 さやかの背中に鳥肌が立つ。


 ゆかりとアリアーナは、すぐに互いを見て頷き合った。


「アリアーナ」


「オッケー」


 ゆかりがみなせを捕まえ、フロントチョークの形で固定する。

 その背中を目掛けて、アリアーナがロープから飛んでくる。


 ランニング式のハイキックが、みなせの背中とゆかりの腕の間を貫いた。

 その反動を利用して、ゆかりがみなせをスイング式のネックブリーカーでマットに叩きつける。


 コンビネーションネックブリーカー。


「カバー!」


 アリアーナがみなせの両脚を押さえ、ゆかりが上体を押さえ込む。


「ワン! ツー! スリー!」


 ゴングが鳴った。


◇ ◇ ◇


『スリーカウント!

 勝者――如月ゆかり&アリアーナ!』


 すばるのコールと同時に、観客席から大きな拍手が起こる。


 ゆかりとアリアーナは立ち上がり、お互いの腕を上げ合った。

 息は上がっているが、まだ余裕があるようにも見える。


 一方、みなせは大の字になって息を荒げ、隣でミナトが肩で息をしていた。


「はぁ……っ、はぁ……っ……楽しいなぁ、もう……!」


「みなせ、笑ってる場合じゃないでしょ……」


 ミナトが苦笑する。


 やがて二人は、ゆっくりと起き上がった。

 ゆかりとアリアーナの前に立ち、頭を下げる。


「ありがとうございました!」


「サンキュー。カナリ、ヤバイタッグ」


 アリアーナが笑う。


「こちらこそ。

 強かったよ。……その筋肉も、よく鍛えてある」


 ゆかりが穏やかに言う。


「レジェンドに筋肉褒められたーーー!!」


 みなせが両手を突き上げて叫ぶ。

 場内から笑いが起こった。


 ミナトも柔らかく微笑む。


「いつか、今日の続き、またやりましょうね。如月さん」


「ああ。

 その時までに――もう一段階、上を目指しておいで」


 ゆかりの視線が、一瞬だけリングサイドのさやかの方へ向いた。


「そっちの“星屑ちゃん”も、な」


「えっ……!」


 さやかは、心臓を掴まれたみたいにびくっとなった。


(今、絶対こっち見た……!)


「ホラね、星屑ちゃん。ちゃんと見られてるのよ?」


 コーナーからミナトが笑う。


「国技館は、ただの“お祭り”じゃないから。

 誰がどこで何をしてるか――ちゃんと見てる人は見てるの」


 ゆかり達がリングを去っていく。

 みなせとミナトも客席に向かって一礼し、花道を戻っていった。


 さやかの胸は、まだドキドキしていた。


(あまねさんの師匠に……見られた)


 それは、怖さと同時に、少しだけ誇らしい感覚でもあった。

読んでくださってありがとうございます。


今回は、国技館大会第3試合、

マッスル・シンフォニー(轟みなせ&翔迫ミナト) vs

レジェンド・ルミナリア(如月ゆかり&アリアーナ)のスペシャルタッグでした。


・みなせのハイテンション筋肉アピール

・ミナトの柔らかいけどキレのあるスタイル

・ゆかりとアリアーナの“タッグとして完成された上手さ”

・レジェンドに筋肉を褒められて喜ぶみなせ

・そして、リングサイドのさやかをちらりと見るゆかり


この試合で、さやかは

「筋肉組の本気」と「あまねの師匠の格」を同時に目撃しました。


次回は、第4試合――

ミッドナイト・スター選手権試合、白星るりあ vs 黒沼アサギ。

静と狂気がぶつかるタイトルマッチを書いていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ