第28話 筋肉シンフォニー vs レジェンドの旋律
国技館大会・第3試合は、マッスル・シンフォニー vs レジェンド・ルミナリアのスペシャルタッグマッチ。
轟みなせ&翔迫ミナトの“筋肉とノリ”コンビが、
如月ゆかり&世界経験豊富なアリアーナと激突します。
ルミナとハヤブサがバックステージへ戻り、場内の照明が一度落ちる。
観客席のざわめきは、まだ高いままだ。
『続いてのカードをお知らせします!
第3試合、スペシャルタッグマッチ!』
煌上すばるの声が響く。
『轟みなせ&翔迫ミナト
vs
如月ゆかり&アリアーナ!』
対戦カードがビジョンに映ると、客席から歓声が上がった。
「おおー! 如月だ!」「マッスル・シンフォニー来た!」
さやかはリングサイドでごくりとつばを飲み込む。
(如月ゆかりさん……あまねさんの師匠……)
映像や雑誌で何度も見た、“レジェンド”の試合。
でも、生で見るのは今日が初めてだ。
背中に汗がじんわり滲む。
◇ ◇ ◇
『それではまず、ブルーコーナーから入場です!
PWSが誇る筋肉ユニット――マッスル・シンフォニー!』
明るくテンションの高いロックが流れ出す。
『轟みなせ! 翔迫ミナト!』
「いっくよおおおおおっ!!」
花道の奥から、轟みなせが飛び出してきた。
いつも以上に血管の浮き出た腕を振り回し、客席に向かってポージングを決める。
「みんなー! 筋肉、見えてるー!?
今日もちゃんとタンパク質摂ってきたー!?!」
「うるさっ! でも嫌いじゃない!」
客席から笑い混じりの歓声が飛ぶ。
その後ろから、翔迫ミナトがゆったりとした足取りで現れた。
ウエーブのかかった髪、余裕の笑み、そして程よく締まったボディライン。
「はーい、みんな〜。
今日は国技館よ? ちゃんと目を凝らしててね♡
マッスル・シンフォニー、全力で魅せちゃうから」
「ミナトちゃーん!」「筋肉ー!」
歓声の質がさっきまでと少し違う。
黄色い声と太い声が入り混じっている。
みなせとミナトはエプロンに飛び乗り、ロープをまたいでリングインした。
中央で並ぶと、みなせがいきなりダブルバイセップス・ポーズ。
「見てこの上腕二頭筋! 国技館仕様でパンパンだからね!」
「はーい、みなせの筋肉に拍手〜♡」
ミナトが手拍子を煽り、客席から笑いと拍手が起こる。
(……すごい。
でも、さっきまで緊張してた自分の心がちょっと軽くなるくらい、明るい……)
さやかは少しだけ肩の力が抜けた。
◇ ◇ ◇
『続きまして、レッドコーナーから入場です!
レジェンド・ルミナリア!』
落ち着いた壮大なテーマ曲が流れる。
ストリングスの音色に、観客席から自然とどよめきが起こった。
『如月ゆかり! アリアーナ!』
花道の奥から、ゆっくりと二つの影が現れる。
先頭には、シンプルな黒と紫のロングガウンを羽織った如月ゆかり。
長い髪をすっきりまとめ、おでこを出した顔には、無駄のない落ち着きと静かな闘志が宿っている。
その後ろを歩くのは、金髪に近い明るい髪をポニーテールにしたアリアーナ。
白と青のコスチュームに、海外選手らしいしなやかな筋肉が浮かび上がっている。
「おおー……!」
さやかは思わず声を漏らした。
(あの人が……あまねさんの師匠……)
テレビの画面で見たことのある姿が、本物の空気を纏って歩いてくる。
ゆかりは花道の途中で立ち止まり、観客席をぐるりと一周見渡した。
それから、静かに一礼する。
その仕草だけで、場内の空気が引き締まるのが分かった。
「相変わらず、入場だけで会場の空気変えるな……」
白銀が低く呟く。
ゆかりとアリアーナがリングインすると、
コーナーポストの上でアリアーナが片手を掲げ、観客にアピールした。
「トーキョー! ワタシタチノ、ファイト、ミテテネ!」
発音の少し怪しい日本語。
それでも、その声に込められた自信は本物だ。
◇ ◇ ◇
両チームが向かい合う。
先発は、轟みなせとアリアーナ。
「よろしくお願いしまーす!」
「ヨロシク、マッスルガール」
ゴングが鳴る。
ロックアップ――かと思いきや、みなせはいきなりポーズを取った。
「まずは筋肉チェックからいこうか!」
「えっ」
観客席から笑いが起こる。
「ほらほら、アリアーナさん、二の腕。こうやって力入れてみて?」
「コウ?」
アリアーナがちょっと戸惑いながらも力こぶを作る。
しっかりと盛り上がる上腕二頭筋。
「おお〜〜〜〜!!」
客席が何故か湧いた。
みなせが真剣な顔で頷く。
「うん、いい。
ちゃんと鍛えてる。合格」
「ナニ、ソレ!?」
アリアーナが思わず吹き出す。
「試合前に筋肉検査とか、新しすぎるわよ……」
ミナトがコーナーで肩を震わせて笑っていた。
しかし、その空気はすぐに変わる。
「じゃ、筋肉チェック終わったし――本気でいこっか!」
みなせの目が、きゅっと鋭く細まった。
次の瞬間、ロックアップ。
みなせがぐい、と力で押し込もうとするが――アリアーナも押し返す。
「おお……!」
さやかの目が丸くなる。
(轟さんが押し負けてないけど、押し切れてもいない……)
パワーはほぼ互角。
微妙なバランスのまま、二人はコーナーまで押し合っていく。
白銀がブレイクを命じる。
「ブレイク!」
「オッケー、オッケー」
アリアーナは素直に手を離して一歩下がる――ふりをして、みなせの腹に軽くフロントキックを入れた。
「うぐっ!」
みなせが半歩下がる。
「イッパツ、サービス」
「しょっぱなからスパルタだなあ! 嫌いじゃない!」
みなせはすぐに笑って、再び走り込んだ。
タックルでテイクダウンを狙い、アリアーナの腰を抱え込む。
そこからは一気にグラウンドの攻防になった。
みなせが体重を乗せて抑え込む。
アリアーナが腰を切って下からのスイープを狙う。
筋肉と技術。
その両方を持っている者同士の、分かる人には分かるせめぎ合い。
「星屑ちゃん。今の、どっちが有利とか分かる?」
ミナトが、コーナーからさやかに小さく声を掛ける。
「えっと……みなせさんが上ですけど、アリアーナさん、全然苦しそうじゃないというか……」
「そう。上に乗ってるから有利、とは限らないの。
腰の位置、足の絡め方、重心……そういうの見てるとね、また違うものが見えてくるのよ♡」
(……奥が深い)
さやかは必死に二人の脚と腰の動きを追いかけた。
◇ ◇ ◇
数分の攻防のあと、タッチが回る。
ミナト vs 如月ゆかり。
リング中央で向き合う二人は、どこか“大人の余裕”をまとっていた。
「やっとお手合わせできるわね、如月さん」
「こちらこそ。
噂の“やるときはやるお姉さん”と組むのは初めてだからな」
「ふふ、変なあだ名広がってるわね……」
ゆかりの目元が、少しだけ楽しそうに緩む。
ロックアップ。
ゆかりは力ではなく、崩しで勝負するタイプだった。
ミナトの力を受け止めつつ、ほんの少し重心をずらして足払いを入れる。
ミナトが転びそうになる瞬間に、腕を取り関節の位置を変える。
(なに、今の……)
さやかには、一つ一つの動きは大きく見えない。
それでも、ゆかりの“リングの上に描いている線”だけは、はっきりと伝わってきた。
ミナトもやられっぱなしではいない。
低い姿勢でのエルボー、素早いフロントキック、ロープワークからのラリアット。
持ち味の「柔らかさ」に、要所で鋭い一撃を混ぜていく。
「ナイスナイス〜! そのままガンガン行こうかぁ!」
コーナーからみなせの声が飛ぶ。
ゆかりはミナトの攻撃を受けながらも、表情はほとんど崩さなかった。
ただ、一つだけ変化があった。
目が、少し楽しそうになっている。
(……きっと、この人は“ちゃんと闘う相手”が好きなんだ)
さやかは直感した。
◇ ◇ ◇
試合は中盤、タッグとしての連携戦に移っていく。
マッスル・シンフォニーは、
・みなせのぶちかまし
・ミナトのキック
・二人で同時にロープに走ってのダブルラリアット
と、シンプルに“重くて分かりやすくて盛り上がる”攻めを展開。
対するレジェンド・ルミナリアは、
・アリアーナが捕まえ、コーナーに持って行く
・ゆかりが関節と打撃で削る
・タッチワークを細かくしてスタミナを奪う
という、いかにも“タッグ屋”らしいじわじわした戦い方だ。
「どっちも、タッグとして完成されてる……」
さやかは、リング上の四人を見つめながら息を呑んだ。
みなせが捕まり、コーナーで集中攻撃を受ける時間が少し続く。
アリアーナのミドルキック、ゆかりの膝蹴り、そして関節技。
「ギブアップ聞くぞ!」
白銀が問いかけるが、みなせは首を横に振る。
「ギブなんか……するかっての……!
筋肉は裏切らないんだよ!!」
「そういうとこ嫌いじゃないわよ……!」
ミナトがコーナーから叫ぶ。
みなせは歯を食いしばりながら、ロープに向かってじりじりとにじり寄る。
アリアーナが腰を押さえ込んで止めに行く。
右足のつま先が、ロープに届くか届かないか――。
その瞬間、みなせは身体をぐいとひねり、アリアーナごとロープに寄りかかる形でエスケープした。
「ブレイク!」
白銀が技を解かせる。
転がるようにコーナーへ戻るみなせ。
伸ばした右手に、ミナトの左手がぱしんと合わさった。
「タァーーッチ!!」
「オッケー☆」
ミナトがリングイン。
スピードを殺さないまま、アリアーナにキックの連打、
ロープに振ってカウンターのジャンピングニー。
「ワン! ツー!」
アリアーナがギリギリで肩を上げる。
◇ ◇ ◇
終盤、試合は一気に加速した。
みなせとミナトの合体技――
みなせが相手を肩に担ぎ上げ、ミナトがロープから飛んでくる構え。
「星屑ちゃん、よく見ててね!」
さやかの方を一瞬見て、みなせが歯を見せて笑う。
(えっ、ここであたしに振るの!?)
みなせがアリアーナを担ぎ上げ、
ミナトがセカンドロープから飛び出す――
が、そこにゆかりが割って入った。
みなせの脚を、ほんの一瞬、ロープに絡めるように引っ掛ける。
「うわっ!」
バランスを崩すみなせ。
アリアーナの身体がずり落ちる――
そこに、ミナトのジャンピングキックが誤爆しかけた。
「ミナトさん!」
さやかが叫ぶ。
だが、ミナトは空中で身体をひねり、ぎりぎりで軌道を変えた。
その足は、アリアーナではなく、ゆかりのガードの上に当たる。
「いい判断だ」
ゆかりが短く言う。
そのまま、ゆかりはミナトの足を掴んでマットに叩きつけた。
みなせも、同時にアリアーナのカウンターをもらってマットに倒れる。
場内が一気に沸く。
(今の反応速度……!)
さやかの背中に鳥肌が立つ。
ゆかりとアリアーナは、すぐに互いを見て頷き合った。
「アリアーナ」
「オッケー」
ゆかりがみなせを捕まえ、フロントチョークの形で固定する。
その背中を目掛けて、アリアーナがロープから飛んでくる。
ランニング式のハイキックが、みなせの背中とゆかりの腕の間を貫いた。
その反動を利用して、ゆかりがみなせをスイング式のネックブリーカーでマットに叩きつける。
コンビネーションネックブリーカー。
「カバー!」
アリアーナがみなせの両脚を押さえ、ゆかりが上体を押さえ込む。
「ワン! ツー! スリー!」
ゴングが鳴った。
◇ ◇ ◇
『スリーカウント!
勝者――如月ゆかり&アリアーナ!』
すばるのコールと同時に、観客席から大きな拍手が起こる。
ゆかりとアリアーナは立ち上がり、お互いの腕を上げ合った。
息は上がっているが、まだ余裕があるようにも見える。
一方、みなせは大の字になって息を荒げ、隣でミナトが肩で息をしていた。
「はぁ……っ、はぁ……っ……楽しいなぁ、もう……!」
「みなせ、笑ってる場合じゃないでしょ……」
ミナトが苦笑する。
やがて二人は、ゆっくりと起き上がった。
ゆかりとアリアーナの前に立ち、頭を下げる。
「ありがとうございました!」
「サンキュー。カナリ、ヤバイタッグ」
アリアーナが笑う。
「こちらこそ。
強かったよ。……その筋肉も、よく鍛えてある」
ゆかりが穏やかに言う。
「レジェンドに筋肉褒められたーーー!!」
みなせが両手を突き上げて叫ぶ。
場内から笑いが起こった。
ミナトも柔らかく微笑む。
「いつか、今日の続き、またやりましょうね。如月さん」
「ああ。
その時までに――もう一段階、上を目指しておいで」
ゆかりの視線が、一瞬だけリングサイドのさやかの方へ向いた。
「そっちの“星屑ちゃん”も、な」
「えっ……!」
さやかは、心臓を掴まれたみたいにびくっとなった。
(今、絶対こっち見た……!)
「ホラね、星屑ちゃん。ちゃんと見られてるのよ?」
コーナーからミナトが笑う。
「国技館は、ただの“お祭り”じゃないから。
誰がどこで何をしてるか――ちゃんと見てる人は見てるの」
ゆかり達がリングを去っていく。
みなせとミナトも客席に向かって一礼し、花道を戻っていった。
さやかの胸は、まだドキドキしていた。
(あまねさんの師匠に……見られた)
それは、怖さと同時に、少しだけ誇らしい感覚でもあった。
読んでくださってありがとうございます。
今回は、国技館大会第3試合、
マッスル・シンフォニー(轟みなせ&翔迫ミナト) vs
レジェンド・ルミナリア(如月ゆかり&アリアーナ)のスペシャルタッグでした。
・みなせのハイテンション筋肉アピール
・ミナトの柔らかいけどキレのあるスタイル
・ゆかりとアリアーナの“タッグとして完成された上手さ”
・レジェンドに筋肉を褒められて喜ぶみなせ
・そして、リングサイドのさやかをちらりと見るゆかり
この試合で、さやかは
「筋肉組の本気」と「あまねの師匠の格」を同時に目撃しました。
次回は、第4試合――
ミッドナイト・スター選手権試合、白星るりあ vs 黒沼アサギ。
静と狂気がぶつかるタイトルマッチを書いていきます。




