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星屑の少女はリングに立つ ―才能ゼロから始める女子プロレスラー・星屑さやか―  作者: バックドロップ
第4章 PWSビッグマッチ《東京国技館編》 ――星屑たちはリングの外で何を見るか
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第26話 STAR☆RISING開幕――第1試合、血と光


いよいよ東京国技館ビッグマッチ「STAR☆RISING」開幕。

新人四人はそれぞれの持ち場で、“本物の戦い”の最前線に立ちます。

第1試合は、他団体GLORY女子からやって来たベビーフェイスタッグ「ホノシオ」vs Bloody Eclipseのエナ&レナ。

さやかのリングサイド視点で、初めて間近に見る“プロの試合”が始まります。

 東京国技館。


 ガラス張りのエントランス、その向こうに広がるロビーには、もうびっしりと人が詰まっていた。

 グッズ袋を提げたファン、手作りの応援ボード、選手の名前が書かれたタオル。

 ざわめきと、どこか甘いポップコーンの匂いが入り混じる。


(……すごい)


 スタッフ通用口から中に入った星屑さやかは、思わず足を止めた。


 廊下の向こうに、各ユニットのロッカールーム。

 壁には大会ポスター――中央に皇あまねとマディソン・グレイ、その周りを王者たちが囲んでいる。


 その片隅に、小さく「リングサイド補助/新人担当」の紙が貼られていた。


「星屑、呆けてる暇はないぞ」


「あ、はいっ!」


 白銀リョウに声を掛けられ、さやかは慌てて駆け足になる。

 隣には、星緋いぶきも真剣な顔で歩いていた。


「リングチェックはさっき済ませた。これから第1試合の前まで、場内の流れを一度見ておく。

 それから、実際にリングサイドに付くぞ」


「了解しました」


 いぶきの声は、少しだけ固い。

 けれど、その歩幅は一度も乱れなかった。


 曲がり角の向こうから、別の足音が聞こえてくる。


「ノエル、タオル忘れてない?」


「だ、大丈夫です……ここに……!」


 ノエル・シエルが、両腕いっぱいにタオルとペットボトルを抱えて走ってくる。

 その後ろから、黒沼アサギ、鉄輪サツキ、黒霧エナ、氷見レナ――Bloody Eclipseの姿。


「こけんなよ、ノエル。タオルぶちまけたら、試合前から土下座コースだぞ」


「ひぃ……気をつけます……!」


 エナの笑い声に、ノエルが半泣きになりながらも必死に頷く。


「行ってこい。……しっかり“見て”くるんだよ」


 アサギがポンとノエルの肩を叩いた。

 ノエルは一瞬だけさやかたちに気づき、小さく会釈する。


「さやかちゃんも……が、頑張ってください……!」


「ノエルちゃんこそ!」


 すれ違いざまに交わしたその一言が、妙に心強かった。


 さらに奥の通路から、軽やかな足音。


「らーんちゃーん、こっちこっち!」


「いま行きますー! メイクチェック終わりました!」


 すばるの声に、ティアラ☆キャンディ――姫乃らんが駆けていく。

 手にはバインダーとボールペン。髪はすでにステージ仕様の巻き髪だ。


「ユリア様のマイク、予備も確認しました!

 入場タイミングのキューもOKです!」


「さすが元アイドル〜。じゃ、次は照明さんの最終確認いこ!」


 らんも、ちらりとさやかたちを見て笑う。


「星屑、いぶきちゃん! お互い、バッチリ決めよーね!」


「うん!」


「……気を抜くなよ」


 賑やかな足音が遠ざかり、さやかは胸の奥でぎゅっと拳を握った。


(よし。あたしも、自分の持ち場、ちゃんとやらなきゃ)


◇ ◇ ◇


 暗転した場内に、客席のざわめきが広がる。


 花道の横、リングサイド。

 さやかは、リング下の決められた位置に立っていた。


 トップロープ、セカンド、ボトム。

 さっき確認した通り、ロープの張り具合は問題ない。

 コーナーポストの下には、タオル、氷嚢、救急バッグ。

 視線を動かせば、反対側にはいぶきの姿が見える。

 こちらと同じように、真剣な顔でリングと観客席を交互に見ていた。


(大丈夫。さっき、何度も練習した)


 深呼吸を一つ。


「――Ladies and Gentlemen!」


 アリーナに、煌上すばるの明るい声が響き渡った。


『PWS STAR☆RISING、東京国技館大会!

 満員御礼、ありがとうございます!』


 歓声が、天井にぶつかるように広がる。

 さやかの腕の上を、鳥肌が駆け抜けた。


(これが……ビッグマッチの空気……)


 胸の奥が、熱くて、少しだけ痛い。


『それでは、第1試合からお届けします!

 30分一本勝負!』


 コールに合わせて、場内ビジョンに対戦カードが映し出される。


『GLORY女子プロレスより来襲!

 フレッシュタッグ――朝霧ほのか&水城しおり組!』


 場内に爽やかなロック調のテーマ曲が流れた。

 白と水色を基調にした衣装、笑顔で手を振る二人の姿が花道に現れる。


「おおー! ホノシオだ!」


「かわいい〜!」「がんばれー!」


 客席から、あちこちで声が飛ぶ。


(ホノシオ……)


 事前の資料で見た名前を思い出す。


 朝霧ほのか。

 明るく前向きな王道ベビーフェイス。


 水城しおり。

 寡黙なパワーファイター。


 所属団体GLORY女子で“次のタッグエース候補”と言われる二人。


 二人はリングに上がる前に、必ず観客席の四方に手を振って頭を下げた。

 その姿勢が、なんだかさやかには眩しく見えた。


『対するは……PWS、Bloody Eclipse――黒霧エナ&氷見レナ!』


 場内の照明が、一気に赤と紫に染まる。

 不穏なギターリフが響き、ダークな映像がスクリーンに流れた。


 花道の奥から、ゆっくりと姿を現す二つの影。


 黒霧エナは口元に笑みを浮かべ、観客を見下ろすような視線。

 氷見レナは冷たく前だけを見て、無駄のない歩幅で進んでくる。


 その少し後ろ、セコンドポジションにはアサギ、サツキ、――そしてノエルの姿。


 ノエルはタオルとペットボトルを抱きしめるように持ち、必死にBloodyの背中についていった。

 どこか心配そうな、その横顔。


(ノエルちゃん……大丈夫かな)


 さやかは一瞬だけそちらに視線を向ける。

 ふと、ノエルと目が合った。

 小さく、でも確かにノエルが頷く。


(……うん)


 さやかも、ぎゅっと頷き返した。


 エナとレナはリングに上がると、ホノシオの二人を舐め回すような視線で見渡す。


「へぇ……これが“期待のエース候補タッグ”ってやつ?」


「綺麗な顔。壊したら、映えそう」


 マットの上に、緊張が走った。


◇ ◇ ◇


 ゴングが鳴る。


 先発は、朝霧ほのかと黒霧エナ。


 中央で向き合い、ロックアップ。

 ほのかが一瞬押し込むが、すぐにエナが体をひねってヘッドロックに取る。


 きゅっと絞められた首。


「んっ……!」


 ほのかはロープに押し込み、エナを走らせる。

 帰り際、ドロップキック。

 エナの胸板に綺麗に突き刺さった。


 客席から「おおっ」とざわめき。


「ナイスドロップキック……!」


 さやかが思わず声を漏らす。

 すぐ隣で、白銀が短く言った。


「リングサイドは、声は出してもいい。

 ただし、足を動かすときは必ず自分と選手の位置を確認しろ」


「はい!」


 エナはすぐに立ち上がる。

 口の端を吊り上げて、ほのかを見た。


「……やるじゃん、ベビーフェイス」


 再び組み合う。

 今度はエナが、いきなり髪を掴んでロープ際に押し込んだ。


「いっ――」


 バチン、とロープに背中がぶつかる音。

 レフェリーがすぐに間に入る。


「ヘア! ヘア! ブレイク、エナ!」


「はいはい」


 手を上げて、ゆっくり離れるエナ。

 ――ぽん、と、ほのかの頬を軽く叩いた。


「……っ!」


 客席からブーイング。

 さやかの胸にも、ざらりとした違和感が走る。


(さっきのドロップキック、絶対悔しかったんだ……)


 エナはにやにやしながら、レナのコーナーに戻る。


「レナ。あとは任せた」


「了解」


 タッチが成立。

 リングに入ってきた氷見レナは、無言でほのかを見下ろす。


 ほのかも負けじと飛び込む。

 ショルダータックル、ロープに走ってもう一度。

 二度目はレナの肩がびくりと揺れた。


(おお……押してる……!)


 場内からも拍手が起こる。


 しかし、三度目。

 ほのかがもう一度ロープに飛び出した瞬間――。


 レナの膝が、ほのかの太ももの横を正確に蹴り抜いた。


「……ッ!」


 ガクン、とバランスを崩してマットに膝をつくほのか。


「今の……」


「ローキック。完全に膝狙いだな」


 いぶきの小さな呟きが、リングサイド越しにさやかの耳にも届いた。


(さっきの攻防、覚えてたんだ……)


 レナは表情を変えず、淡々と膝を蹴る。

 ロー、ロー、ロー。

 ほのかの脚が徐々に赤く染まっていく。


「ホノカー! 下がって一回しおりちゃんとタッチ!」


「ほのか、戻れ!」


 GLORY側セコンドの声。

 ほのかは歯を食いしばりながらロープを掴み、必死に立ち上がる。


 レナが走り込む――カウンターのドロップキック。

 それでも、着地した瞬間に膝がガクンと揺れた。


「タッチ!」


「……っ!」


 ほのかは転がるように自分のコーナーへ。

 水城しおりが腕を伸ばし、タッチを受けてリングに飛び込んだ。


「はっ!」


 しおりのショルダータックルが、レナを一気に吹き飛ばす。

 勢いを殺さず、そのままエナのいるコーナーに突進。

 エプロンにいたエナをもろともに吹き落とした。


「おおおっ!」


 観客席がどっと沸く。


「すご……!」


 さやかも思わず声を上げる。

 しおりはすぐにレナの頭を抱え、スパインバスターの体勢に入った。


 ドンッ――マットに叩きつけられる音が、リングサイドの床まで響いてくる。


(音が……全然違う……!)


 テレビで見たことのある技。

 でも、生で聞くその“地鳴り”は、想像以上だった。


「カバー!」


 GLORYセコンドの声。


 しおりがレナを押さえつける。


「ワン! ツ――」


 エナがギリギリで滑り込んでカット。

 白銀がすぐにエナをコーナーへ追い返す。


「ブレイク! ノー、ツー!」


「チッ……」


 エナは舌打ちしながらも、素直にロープの外へ出る。

 その目には、ただの苛立ちではない、獲物を観察するような冷たさがあった。


(ホノシオ、すごい……!

 ちゃんと、自分たちのタッグの形、持ってる)


 しおりは息を整えながら、再びレナの頭を抱える。

 今度はバックブリーカーだ。

 完璧なフォームで、その背中を自分の膝に落とす。


 会場が、少しずつホノシオ側に傾いていく。


「ホノシオ! ホノシオ!」


「いけー!」


 チャントが起こる。

 レナが初めて、わずかに顔をしかめた。


「……厄介」


 その瞬間、Bloodyコーナーからエナの声が飛んだ。


「レナ、“外”使え!」


 しおりがロープに走る。

 ラリアットを狙って戻ってきた、その勢いを――レナが身体をかわし、エプロン側へと投げ捨てた。


「きゃっ――!」


 しおりの身体がロープをすり抜け、場外へ落ちる。

 鉄柵との距離は、紙一重。


「星屑!」


「はい!」


 さやかはとっさにストレッチャーの位置を確認しながら、立ち位置を下がる。

 場外への動線を空けるためだ。


 レナはエプロンからゆっくりと降りると、しおりの髪を掴んで立たせた。

 鉄柵まで引きずっていき――。


 ガシャァン!


「っ……!」


 鉄柵にしおりの背中が叩きつけられ、前列の観客の悲鳴混じりの声が上がる。

 レフェリーが慌てて場外に飛び降りる。


「ブレイク! 戻せ! カウント始めるぞ!」


「はいはい」


 エナは棒読みの声で返すと、しおりの腰を掴み――鉄柵と逆側、エプロンの角に向かって投げつけた。


 ドンッ。


「うっ……!」


 しおりの口から苦しげな声が漏れる。

 さやかの足が、一瞬だけ前に出かけて止まる。


(今、行ったら――邪魔になる)


 白銀に言われた言葉が頭をよぎる。


『リングサイドは、“観客席じゃない”』


 拳をぎゅっと握りしめて、その場に立ち尽くす。


「しおり! 戻れ!」


 GLORY側のセコンドが必死に叫ぶ。

 しおりはよろよろとエプロンに手を掛け、なんとかロープをくぐった。


 その瞬間にはもう、レナがロープの内側に戻っていた。

 表情は一切変わらない。


「冷静、だな……」


 反対側のリングサイドで、いぶきが小さく呟く。


「場外のダメージ、“戻った瞬間”に一番効くタイミングで攻めてる」


 レナはしおりの脚を掴み、マットに倒す。

 くるりと身体を回転させて、場外で痛めた背中と腰に集中してエルボーを落としていく。


 エナが手を伸ばし、タッチ。

 今度はエナがしおりの首を掴み、ドラゴンスクリューで腰から下をひねる。


「っ……!」


 しおりの顔が歪む。

 ほのかがコーナーから必死に腕を伸ばした。


「しおり! タッチ!」


「う、うん……!」


 一瞬、距離が縮まる。


 ――その腕を、エナが笑いながら掴んだ。


「ベビーフェイスは、簡単に“希望”に手を伸ばす」


 手首をひねり、逆方向に引き倒す。

 関節と腰、両方に効くいやらしい角度だった。


「アンタたち、綺麗に戦おうとしすぎなんだよ」


 エナはそう言いながら、しおりをBloodyコーナー側に引きずっていく。

 レナがロープの外からしおりの足を押さえ込み、エナがその腰を踏みつける。


「ワン! ツー! スリー! フォー!」


 レフェリーがカウントを数える。

 エナはギリギリで足を離した。


「ふざけんなよエナぁ!」


「もっとちゃんとカウントしてくださーい!」


 客席からブーイングとヤジ。

 それでもエナは、まるで“それさえもご褒美”みたいに笑っていた。


(……怖い)


 さやかは、初めて近くで見るBloodyの“えげつなさ”に、ぞくりと背筋が冷たくなる。


 視線を、ふとBloodyコーナーの外側にやる。

 ノエルがタオルとペットボトルを抱えて立っていた。


 いつでも駆け寄れるように、足を半歩前に出した姿勢。

 でも、リングに身体が飛んでくるかもしれないラインからは、きちんと外れている。


(ちゃんと……“怖い場所”を分かってるんだ)


 ノエルの喉が、小さく上下に動いた。

 それでも、視線だけは一度もリングから逸らさない。


(私も、見なきゃ)


 さやかは再び、リングの中に目を向ける。


 ――ホノシオの二人は、まだ折れていなかった。


 しおりの腕が、エナの腰に回る。

 苦しげな表情のまま、必死に持ち上げようとする。


「うおおおおっ!」


 エナが驚いたように目を見開いた。


「さっきの、スパインバスターの借り――!」


 腰と膝のダメージで足はふらついている。

 それでも、しおりは一瞬だけエナの重さを持ち上げ、マットに叩きつけた。


「今しかない!」


 GLORYセコンドの叫び。


 しおりは、ほとんど転がるように自分のコーナーへ。


「ほのか!」


「うん!」


 朝霧ほのかが、腕を伸ばして――タッチ。


 リングに飛び込んだほのかのドロップキックが、エナの顎を正確に撃ち抜いた。

 続けてレナにも串刺しドロップキック。

 戻ってきたエナに、ランニングネックブリーカードロップ。


 観客席が一気にヒートアップする。


「いけー!」「ホノシオ!」


「うわぁ……!」


 さやかの胸も、熱くなる。


(痛くても、怖くても。それでも前に出る――)


 朝霧ほのかの姿に、少しだけ自分を重ねてしまう。


 だが――Bloody Eclipseは、まだ何も出し切っていなかった。


 エナがコーナーに逃げるふりをして、ほのかをロープ際に誘い込む。

 ほのかが飛び込んだ瞬間――。


 レナの足が、場外からほのかの膝裏を払った。


「きゃっ――!」


 ほのかの身体が前のめりに崩れる。

 エナがその首を抱え込み、ロープを利用したネックブリーカー。


 マットに叩きつけられたほのかの身体が、ぐにゃりと揺れた。


「カバー!」


 エナが覆いかぶさる。


「ワン! ツー――」


「う、うぅ……!」


 ほのかは、ぎりぎりで肩を上げた。

 客席からどよめきと拍手。


「まだ、折れてない……!」


 さやかの声が、震えながら漏れた。


 エナが舌打ちする。


「しぶといなぁ……。でも、そういう子ほど――」


 エナは、ゆっくりとほのかの脚を取った。

 膝と足首を極端な角度にひねり、グラウンドで固める。


「壊し甲斐がある」


 レナが、無言のままほのかの上半身を押さえ込んだ。

 二人がかりで、膝と腰と首を全部違う方向に引っ張る形。


「や、やめ――あ、ああっ……!」


 ほのかの悲鳴が、マイクを通さなくてもはっきり聞こえる。

 客席からブーイングと、「ホノカー!」の声。


 しおりが必死で助けに入ろうとするが、レフェリーが制止に入る。

 その隙に、エナとレナはさらに技を深く絞り上げた。


「ギブアップ!? 朝霧!」


「う、ううう――!」


 さやかは、無意識に一歩前に出かけて――その足を、ぎゅっと止めた。


(行っちゃダメ。今は、私の“場所”じゃない)


 リングサイド補助の位置から。一人の新人として。

 ただ、見守ることしかできない。


 ロープまで、あと少し。

 ほのかの指先が、必死にマットを掻く。


「ほのかぁぁぁ!」


 GLORYセコンドの叫び。


 ――タップ音が、マットに響いた。


「タップ! タップ! ゴング!」


 レフェリーが叫び、ゴングが鳴る。


 エナとレナは、最後の最後まで技を解かず、カウントギリギリでようやく手を離した。


 マットに崩れ落ちる朝霧ほのか。

 腰と膝を押さえ、悔しそうに顔を歪める水城しおり。


『勝者――Bloody Eclipse、黒霧エナ&氷見レナ!』


 すばるのコールが響く。

 Bloodyコーナーから、アサギとサツキがリングに上がり、エナとレナの腕を掲げた。


 その少し後ろで、ノエルがタオルとペットボトルを持ってリングに駆け寄る。

 エナとレナの汗を拭きながら、何度も何度も何かを確かめるように頷いていた。


 一方、GLORY側セコンドたちが、ほのかとしおりを支える。

 二人とも、涙をこらえるような顔で、それでも最後まで観客席に向かって頭を下げた。


 拍手が、起こる。


 負けたタッグに送られる、大きな拍手。


(負けても、あんな風に……)


 さやかの胸が、締め付けられる。


(あたしも、あのリングで、いつか――)


 光と、闇と、歓声と悲鳴が混ざるリング。

 そのすぐそばに立つ自分は、まだ“ちっぽけな新人”だ。


 それでも。


(絶対に、あのマットの上まで行く)


 握りしめた拳に、汗が滲む。

 その感触が、なぜか誇らしく思えた。

読んでくださってありがとうございます。


今回は、東京国技館大会「STAR☆RISING」第1試合、

GLORY女子のホノシオ(朝霧ほのか&水城しおり)vs Bloody Eclipse(エナ&レナ)を

さやかのリングサイド視点で描きました。


ホノシオのまっすぐな王道タッグと、

Bloody Eclipseのえげつない“壊し方”の対比は、

この先のユニット抗争や、さやか・いぶき・ノエルたちの心にも大きな影響を残していきます。


次回は、第2試合以降のカードや、

別の新人たちの視点から見た国技館の続きに入っていく予定です。

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