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星屑の少女はリングに立つ ―才能ゼロから始める女子プロレスラー・星屑さやか―  作者: バックドロップ
第一章 スターダスト・オーディション編 ――星屑の子、リングの門を叩く――
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第2話 一次審査合格と、幼馴染の援護射撃

前回は、PWS本部道場での一次審査に挑むさやかの姿を書きました。

きつい体力テストと受け身練習をなんとか乗り越えたところで、今回はその「結果」と、その後の家の中の話です。


一次審査合格の知らせに戸惑う両親と、それでも前に進みたいさやか。

そこへ幼馴染のまながタブレット片手に乗り込んでくる、「援護射撃回」になっています。


よければ今回もお付き合いください。


一次審査の日から、二日後の夕方だった。


 リビングのテーブルの上に、さやかのスマホが置かれている。

 画面には、ついさっき開いたばかりのメールが表示されていた。


『PWS本部道場新人オーディション

一次審査合格のお知らせ』


 その文字を、父と母は何度も読み返していた。


「……本当に、受かったのね」


 母が、信じられないという顔で呟く。


「うん。

 基礎体力テストと、受け身と、面談で……。

 最後に、“二次審査に来てください”って言われた」


 さやかは、膝の上でぎゅっと手を握りしめた。

 あの、全身がガタガタになるほどきつかったシャトルラン。

 マットに叩きつけられて、何度も受け身を取った感覚が、まだ体に残っている。


「……二次審査は、いつだ」


 父が短く問う。


「来月の最初の土曜日。

 今度は、本部道場のリングで“実技審査”って書いてある」


 父と母は、顔を見合わせた。


「この前は、『一次審査だけ行かせてみましょう』って話だったけど……」

「本当に、通ってしまうとはな」


 父は深く息を吐き出した。


「……あの子が、自分から“やりたい”なんて言ったこと、今まで無かったじゃないか」


 さやかは、びくりと肩を揺らした。

 父の視線は自分には向いていない。テーブルの向こうの母に向けられている。


「部活だって、なんとなくでやめてしまったし。

 ピアノも、水泳も、こっちが『続ける?』と聞けば、『別に』って顔をしていた。

 だから余計に、今回は心配なんだ」


「そうねえ……」


 母は膝の上で指を絡める。


「ああいう世界って、厳しいんでしょう?

 痛い思いもするし、危ないことだってあるだろうし」


「厳しい世界だと思う」


 父は、視線をスマホに落としたまま言った。


「ああいう世界は、厳しい世界だと思う。

 生半可な覚悟や根性なら、最初から受かるまい。

 だからこそ、“やらせてみて駄目で諦めるなら、そのときはまた何か見つけるだろう”と正直思っていた」


 そこでいったん言葉を切り、苦笑する。


「……駄目じゃなかったから、困ってる」


「お父さん……」


 さやかは、何も言えなくなった。


 喜んでほしいわけじゃない。

 無条件で応援してほしいわけでもない。


 ただ、自分の嬉しさを、ほんの少しだけ一緒に分かち合ってほしいと思ってしまった自分が、情けなかった。


 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。


「あら、誰かしら」


 母が立ち上がり、廊下へ出ていく。

 少しして「どうぞー」という声がして、スリッパの音が近づいてきた。


「おじゃましまーす」


 顔をのぞかせたのは、水野まなだった。


「まなちゃん?」


 母が目を丸くする。


「こんにちは。急にすみません。

 さやか、いる?」


「……いるけど」


 さやかが返事をすると、まなはふぅっと息を吐いた。


「よかった。一次の合否出たのに何も言ってこないからさ。

 心配で、家飛び出してきちゃった」


「そんなに?」


「そんなに。だって、幼馴染の一世一代かもしれないチャレンジだよ?」


 言いながら、まなはさやかの隣まで歩いてくる。

 父と母に向かって、ぺこりと頭を下げた。


「こんばんは。お邪魔してます、水野まなです」


「こんばんは。いらっしゃい」


 父も母も、慣れた様子で応じる。

 家が近い幼馴染なので、小さい頃から何度もこの家に出入りしてきた顔だ。


「えーと、その様子だと……一次、結果出たんだよね?」


 まなが、さやかに目を向ける。


「……受かった」


 さやかは、まっすぐまなを見て、はっきりと言った。


 まなの顔が、一瞬でぱっと明るくなる。


「マジで!? 一次通過!?

 やばいよそれ、本当にすごいじゃん!」


「ちょ、声……」


 慌てて制止すると、まなは「ごめんなさい」と口を押さえた。


「でも、なんか雰囲気が“おめでとう”って感じじゃないね?」


 まなが、テーブル越しに父と母の表情を見て、少し首を傾げる。


「うーん……困ってる、のかしらね」


 母が苦笑した。


「親としては、やっぱり心配なのよ。

 きっと厳しい世界だし、怪我もあるだろうし。

 『一次だけ』って思っていたところで、受かってしまったから、どうしたものかと」


「……ですよね」


 まなは、ほんの一瞬だけ目を伏せ、それから顔を上げた。


「もしよかったら、ちょっとだけ時間もらってもいいですか?

 さやかのこと、あたしなりに説明させてほしくて」


 父と母は顔を見合わせ、椅子のひとつを引いてまなに勧めた。


「いいわよ。座って」


「ありがとうございます」


 まなは素直に腰を下ろし、持ってきたショルダーバッグの中をごそごそと探った。


「えっと……。

 いきなり口で『大丈夫です』って言っても、説得力ないと思うので」


 そう言って取り出したのは、小さなタブレット端末だった。


「これ、PWSの公式サイトです。

 さやかのお父さんとお母さんにも、見てもらいたくて」


 画面には、PWSのロゴとともに「本部道場のご案内」というページが表示されている。


「ここが、さやかがオーディション受けた本部道場です。

 ほら、ここ」


 まなは指先で画面を拡大し、「メディカル体制」という項目を示した。


「『専属リングドクターおよびメディカルトレーナー常駐』って書いてあります。

 選手の怪我や体調を管理する専門スタッフがいて、

 定期的なメディカルチェックも行ってるっていう説明です」


 そこには、白衣姿の女性ドクターが包帯を巻いている写真や、

 ストレッチを受けている選手の写真がいくつか並んでいた。


「それから、これが道場の紹介動画です」


 再生ボタンを押すと、

 マットの上で受け身の練習をしている選手たちと、

 その横でフォームを直しているトレーナーの姿が映し出される。


 いきなり激しい技を掛け合う映像ではない。

 膝をついた状態から後ろに倒れる受け身。

 ロープの持ち方。

 準備運動のストレッチ。


「いきなり危ないことをさせるんじゃなくて、

 こうやって受け身から徹底的に教えてるって、

 前にイベントでスタッフさんが話してました」


「へえ……」


 母が小さく感嘆の声を漏らす。


「もちろん、怪我のリスクはゼロじゃないと思います。

 でも、街のどこかで勝手にケンカするみたいなのとは全然違うってことだけは、

 知っておいてもらえたらなって」


 動画を止めてから、まなはまっすぐ父と母を見た。


「それと……」


 少しだけ言いにくそうにしながらも、続ける。


「さっき、お父さんが言ってたこと、あたしもそうだと思います。

 “ああいう世界は厳しい世界だと思う。

 生半可な覚悟や根性なら、最初から受かるまい”って」


 父が、目を細めた。


「聞こえていたか」


「すみません。

 でも、その通りだと思います。

 だからこそ、一次で落とされなかったことが、

 さやかの“本気”の証拠なんじゃないかなって」


 まなは、隣に座るさやかをちらりと見た。


「さやかが、自分から“やりたい”って言ったこと、

 今まで一度もなかったの、あたしも知ってます。

 部活も、『まあいっか』って感じでやめちゃったし、

 塾も長続きしなかったし」


「余計な情報多くない?」


「事実だから仕方ない」


 軽口を挟んでから、まなは改めて父と母を見た。


「でも、そのさやかが、

 あまね様の試合見て、フェンスまで走って、

オーディションに応募して、

 一次審査に通ったんです。

 それって“今までとは違う何か”が、あの子の中にあるってことだと思うんです」


 テーブルの上で、静かな時間が流れた。


「……水野さん」


 父が、腕を組んだまま口を開く。


「正直に言うと、俺はまだ怖い。

 怪我もそうだし、あの子が途中で折れてしまうんじゃないか、という心配もある」


「はい」


「だが、“やらせてみて駄目で諦めるなら、そのときはまた何か見つけるだろう”という考えも、変わってはいない」


 父は、さやかに視線を向ける。


「二次審査まで、だ」


「……!」


「二次審査を受けて、それでも続けたいと思うのか。

 それとも、自分には合わないと感じるのか。

 まずはそこまでを、この家の“猶予期間”にしよう」


 母も、小さくうなずいた。


「その代わり、さやか」


「……うん」


「帰ってきたら必ず、どんなことをしたのか、どう感じたのか、全部話してちょうだい。

 それを聞いてから、次のことを一緒に考えましょう」


 胸の奥が、じんわりと熱くなる。


「……うん。

 ありがとう」


 絞り出すような声で、それだけ言った。


「それと、水野さん」


 父が、まなの方を見る。


「うちの娘に、変なところで遠慮するな。

 今日みたいに、ちゃんと思っていることを言ってくれるなら、俺はありがたい」


「えっ……。

 はい。ありがとうございます」


 まなは、勢いよく頭を下げた。


 その横で、さやかは、小さく笑う。


(まな、タブレットまで持って、ここまで来てくれて……)


 心の中でそう呟きながら、

 さやかは、二次審査の日付が書かれたメールの画面を、そっと胸の前で握りしめた。


(今度は、本部道場のリングだ)


 怖い。

 でも──楽しみだ。


 その矛盾した感情を抱えたまま、

 星屑さやかは、次の一歩を踏み出す準備を、静かに始めていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


この話では、

・一次審査合格の知らせに戸惑う両親

・「あの子が自分からやりたいと言ったことは今までなかった」という父の本音

・まながタブレットで公式サイトや動画を見せながら、PWS本部道場の環境を説明するシーン

・「二次審査まで」という条件付きで、親がさやかを送り出す決断をする

という流れを書きました。


さやか一人では押し切れなかったところを、

幼馴染であり第一号ファン候補でもあるまなが、

ちゃんと情報と覚悟を持って横から支えてくれる形にしたかった回です。


次回はいよいよ、PWS本部道場のリングで行われる二次審査。

さやかが初めて「プロレスのリング」に足を踏み入れる瞬間を書いていく予定です。


少しでも続きが気になると思っていただけたら、

ブックマークや感想など頂けると、とても励みになります。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。

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