第14話 山の合宿所へ――部屋割りと先輩ユニット紹介
前回は、PWS本部道場で「夏季強化合宿」の実施が知らされ、
さやか達4人が一週間の山ごもりをすることになりました。
今回はその続き。
バスで合宿所に向かい、部屋割りと、
マッスル・シンフォニー/AQUARIUS/Stella☆Glareという
先輩ユニットたちの“読者向け自己紹介イベント”も兼ねた顔見せ回です。
合宿初日、午前8時。
PWS本部道場の前には、白い中型バスが一台、エンジンをかけたまま待機していた。
「うわ、本当に旅行っぽい……」
大きなスポーツバッグを抱えて、さやかは思わずつぶやいた。
「合宿って言葉はキラキラしてるのに、中身が絶対キラキラしてないやつですね」
隣でノエルが、苦笑しながらキャリーケースを引いている。
「星屑、荷物それだけ? 少なすぎない?」
らんが、両肩にバッグをぶら下げて近づいてきた。
「え、着替えとタオルと筆記用具と……あとは根性……」
「最後のは荷物に入らないから!」
らんが全力でツッコむ。
いぶきは、きちんと畳まれたリュックを背負っていた。
「一週間ですから、洗濯前提で荷物は少なめにしました。
道場に洗濯機があると聞きましたし」
「さすが計画的……」
「星屑も荷物多くはないけど、“考えた結果じゃない少なさ”だよね」
「それ言わないで……!」
そんなやり取りをしていると、バスの前で天城社長が手を叩いた。
「よし、全員揃ってるな」
道場前には、さやか達新人4人に加えて、
轟みなせ、翔迫ミナト、マディソン・グレイ、エスメラルダ・ルミナ。
白星るりあ、紅条アカリ、赤城ひより。
天上院ユリア、白雪リラ、黒羽ミコト――
それぞれのユニットのメンバーが顔を揃えている。
「じゃあ、簡単に確認するぞ。
合宿参加メンバーは――」
黒岩が、手元の名簿を読み上げていく。
名前を呼ばれるたび、みんなが「はい」と返事をする。
「Bloody Eclipse組は、合宿三日目から合流だ。
あいつらは別件の興行を終えてから来る」
「三日目……」
ノエルの表情が、ほんのり青ざめた。
「大丈夫大丈夫。初日から来てたら、さすがに胃が休まる暇ないからね」
ひよりが、肩をぽんっと叩いて笑う。
「じゃ、バス乗り込め。席はある程度自由だが、
新人4人は真ん中あたりに固まっとけ。何かあったらすぐ見えるようにな」
「は、はい!」
さやか達は、言われた通り真ん中のブロックに座ることにした。
通路側にさやか、その隣にらん。
後ろの列にいぶきとノエルが並ぶ。
前方には社長と黒岩、運転席の後ろにスタッフ。
後ろの方には、先輩達がわいわいと席を決めて座っていった。
「うお〜、バスだバス〜。遠足の匂いがする〜」
ミナトが、テンション高く窓際に陣取る。
「ミナトさん、合宿のメインメニュー思い出してからもう一回言えます?」
るりあが冷静に言う。
「坂道ダッシュに受け身増し増し、ロープワーク地獄……最高ね!」
「ですよね、全然遠足じゃなかった」
ミコトが小さく笑い、リラが「せっかくだから車内で写真撮ろ〜」とスマホを構えた。
エンジン音が高まり、バスがゆっくりと動き出す。
窓の外に、道場の建物が遠ざかっていく。
見慣れた街並みを抜け、高速道路に乗り、やがて景色は徐々に緑の割合を増していった。
「星屑、酔ってない?」
らんが心配そうに覗き込む。
「う、うん、大丈夫。酔う前に緊張してるから……」
「それはそれで問題じゃない?」
車内は、思ったより和やかだった。
マッスル・シンフォニーが後方でプロテイン談義を始め、
AQUARIUSはタブレットで過去の試合映像を静かに見ている。
Stella☆Glareは、窓から見える景色をバックに自撮りをしていた。
「………」
いぶきは、窓の外の山々をじっと見ていた。
「いぶき?」
「いえ。
山の合宿という響きが、昔の道場の夏合宿を思い出させて」
「やっぱり、地獄だった?」
「ええ。
ただ、あの頃よりは今の方が“自分で選んだ場所”なので、少し楽です」
そう言って、いぶきはほんの少しだけ表情を緩めた。
ノエルは、膝の上の合宿しおりを見つめていた。
「……ノエル、大丈夫?」
さやかが小声で尋ねる。
「はい……たぶん。
Bloody Eclipseさん達が来るのは三日目って聞いたので、
それまでに少しでも“怖い”を減らしておきたいな、って」
ノエルの声には、不安と、それでも前を見ようとする意志が混ざっていた。
「まあ、もし泣きそうになったらその時はあたし達がそばにいるからさ」
らんが、にっと笑う。
「星屑は筋肉に泣かされて、ノエルはヒールに泣かされて、
いぶきは理論派にしごかれて、あたしはアイドル先輩達にしごかれるんだよ」
「それ全員泣く前提なの!?」
さやかは思わず声を上げた。
そんなやり取りを聞いていたのか、前の席からひよりが振り向いた。
「泣いてもいいよ。
でも、ご飯だけはちゃんと食べなね」
「そこなんですか、アドバイス!」
「食べないと、筋肉にならないから」
ひよりの後ろの席から、みなせの声が飛んできた。
「……やっぱりこの団体、食べる=鍛えるなんだなぁ」
さやかは、半分諦めたような気持ちでため息をついた。
バスに揺られること数時間。
やがて、窓の外の景色は本格的な山道になった。
細いカーブをいくつか抜けると、開けた場所に白い建物が見えてくる。
「あ、あれ……?」
さやかが窓に張り付く。
そこには、体育館ほどの大きさの道場棟と、
その隣に二階建ての合宿所棟が並んでいた。
周りには、坂道、林、小さな川が流れている。
「着いたぞー」
運転手の声とともに、バスがゆっくりと停まった。
外に出ると、山の空気がひんやりと心地よい。
「空気がおいしいです……」
ノエルが、深呼吸をする。
「空気がおいしい=走らされる、の公式が成立しちゃってるんだよね」
らんが、笑えない冗談を口にした。
「走らされる前に、まず荷物」
いぶきがきっちり現実に引き戻す。
荷物を降ろし、全員が合宿所の前に整列した。
「よし」
社長が前に出る。
「ここが、PWS夏季強化合宿所だ。
生活棟と道場棟、そしてその辺一帯の坂と川、全部が今回の“練習場”になる」
「全部……」
さやかは、坂道を見上げて小さく震えた。
「まずはオリエンテーションだ。
じゃあ中に入る前に――先に、ユニットの紹介をしておこうか」
社長がそう言うと、それまで後ろに控えていた先輩たちが、一歩前に出た。
「じゃあ、まずはマッスル・シンフォニー」
黒岩が名前を呼ぶと、
みなせ、ミナト、マディソン、ルミナの4人が前に並んだ。
「PWS筋肉担当、“マッスル・シンフォニー”です」
ミナトが、軽くウインクしながら挨拶した。
「リーダーの翔迫ミナト。
ちょいセクシーで、筋肉と後輩とお酒が大好きなお姉さんよ。
今回の合宿では、主に基礎体力と筋力トレーニングを担当します」
「轟みなせ。
筋トレが趣味で仕事で生活。
とりあえず、下半身は裏切らない。以上」
みなせの自己紹介は相変わらず直線的だった。
「マディソン・グレイ。
ニホンゴ、チョットヘタ。でも、マッスルはワールドワイド。
レッグデイ、チェストデイ、エブリデイ・トレーニング」
「最後怖いんだけど!?」
さやかが思わず心の中でツッコむ。
「エスメラルダ・ルミナ!
ロープと空とバランスの女神ですネ!
みんなの筋肉と笑顔、両方ふやしてあげるです!」
ルミナが勢いよく手を振る。
「この4人が、新人の体を“壊れないように”いじめます」
ミナトがさらっとまとめた。
「“壊れないように”の言い方が怖いんですよねぇ……」
ノエルがぼそっとこぼす。
「次、AQUARIUS」
呼ばれて前に出たのは、白星るりあ、紅条アカリ、赤城ひよりの3人。
「技巧派ユニット“AQUARIUS”リーダー、白星るりあです」
るりあは、落ち着いた口調で一礼した。
「わたしたちは、技術と知性と冷静さで勝つスタイルを目指しています。
合宿では、関節技や投げ、ロープワークの細かい部分を中心に担当します」
「紅条アカリ。
ルミナス王座の今の持ち主。
技の“痛いところ”を、一番効く角度で入れるのが好き」
アカリは、にやっと笑った。
「でも、あくまで安全第一でやりますから安心してくださいね?
“効かせる”と“壊す”は違いますから」
その言葉に、さやかとノエルは同時に背筋を伸ばした。
「あたしは赤城ひより。
まだまだ修行中だけど、後輩には“できるまで付き合う”覚悟で教えるよ」
ひよりは、柔らかい笑顔を見せる。
「サボりは許さないけど、できたらちゃんと褒めるから。
一緒に頑張ろ?」
その言葉に、さやかの胸が少しだけ軽くなった。
「さて、華担当。Stella☆Glare」
取りを任されたのは、アイドルレスラーユニットだった。
天上院ユリア、白雪リラ、黒羽ミコト、そしてらん――ティアラ☆キャンディ。
「PWSアイドルレスラー部門、Stella☆Glareのリーダー、天上院ユリアです」
ユリアは、まるでステージのMCのような滑らかさで挨拶した。
「リングをステージとして、
“勝つこと”と“魅せること”の両方を大切にしているユニットです。
今回の合宿では、入場・表情・見せ方、それからハイフライ系の基礎も担当します」
「白雪リラです〜。
かわいくて強い、を目指してます!」
リラは、ぴょこんと一歩前に出てポーズを決めた。
「合宿中、落ち込みそうになったら言ってね。
メイクと衣装の力で、テンションちょっとだけ上げてあげるから!」
「黒羽ミコト。ボクは……そうだな」
ミコトは少し考えてから、にっと笑った。
「“アイドルもレスラーも、ちゃんとプロ”でいたい人間。
リングの上での見せ方、分かる範囲で全部教えるよ」
最後に、らんが一歩前に出た。
「ティアラ☆キャンディ、こと姫乃らんです!」
キラキラした笑顔で、両手でハートを作る。
「まだまだ修行中だけど、Stella☆Glareのみんなみたいな、
“ステージもリングも全部背負えるレスラー”になりたいです!」
その言葉に、ユリアたちが「よく言った」とばかりに頷いた。
「……らん、完全にStella信者だよね」
小声でさやかが言うと、いぶきが静かに同意した。
「でも、そういう“推しへの信仰心”は強さにもなりますから」
「たしかに……森さんもそうだったし」
さやかは、ふと森の顔を思い出した。
「以上が、今回の合宿でお前らをしごく主な先輩ユニットだ」
黒岩が全体を見渡す。
「Bloody Eclipseは三日目から合流する。
あいつらの紹介は、その時にまとめてやる」
「今からちょっと怖いです……」
ノエルが、胸の前でそっと手を組んだ。
「大丈夫。
怖いけど、あいつらは“リングの怖さ”を一番知ってる連中だから」
ひよりが、小さく付け加える。
「さて」
社長が改めて口を開いた。
「部屋割りを伝える。
新人4人は同室。
マッスル・シンフォニー、AQUARIUS、Stella☆Glareはそれぞれユニットごとに一部屋ずつ。
消灯時間は守ること。夜中にひとりで山に出るのは禁止だ」
「肝試し、禁止ってことですね」
ミコトが小声で言う。
「Bloody Eclipseと組ませたら、絶対誰か泣きますからね……」
「それは本当にやめておこうか」
社長が苦笑した。
「荷物を置いたら、すぐに昼食だ。
午後から、さっそく合宿仕様のメニューに入る。
覚悟しておけ」
「「「「はい!」」」」
さやかは、胸の奥で小さく息を吸った。
(山の空気、気持ちいいけど……
ここで過ごす一週間、絶対に甘くない)
それでも――。
(この一週間が終わったら、
あたし達、もう少し“レスラー”になれてるはずだから)
そう自分に言い聞かせながら、
さやかは、合宿所の中に続く玄関をくぐった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
第14話では、
・本部道場から合宿所へのバス移動
・山の合宿所の雰囲気と、坂と川という“地獄のフィールド”の提示
・マッスル・シンフォニー、AQUARIUS、Stella☆Glareの
「ユニットとしての読者向け自己紹介イベント」
・新人4人の反応(期待と不安とツッコミ)
を描きました。
次回は、
・部屋割りと合宿所の生活感
・午後からスタートする、合宿仕様・基礎体力メニュー
・さやかがマッスル・シンフォニーによる“レッグデイ地獄”の洗礼を受ける回
になる予定です。
続きが気になりましたら、次の話も覗いていただけると嬉しいです。




