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星屑の少女はリングに立つ ―才能ゼロから始める女子プロレスラー・星屑さやか―  作者: バックドロップ
第ニ章 本部道場一ヶ月テスト《残る者と去る者》
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第9話 スターダスト寮と、「おかえり」の匂い

前回は、本部道場で上のクラスの先輩たちの練習を見学する回でした。

皇あまね、技巧派ユニットAQUARIUS、Stella☆Glare、轟みなせ達の「背中」を見て、さやか達4人それぞれが、ぼんやりと自分の目指したい方向を感じ始めました。


第9話では、リングとは少し離れて、「生活の場」としてのPWS――スターダスト寮の話です。

寮母・大原よしのとの出会い、寮で暮らす先輩たちの姿、そして「ここに住む子」と「そこから通う子」。

それぞれの立場から、「帰る場所」について少しだけ考える回になります。

スターダスト本部道場の練習がひと段落したころ、いつもより少しだけ早めに解散の声がかかった。


「今日は基礎はここまでだ」


 黒岩が短く告げる。


 ランニングも受け身も、ロープワークもいつもと同じようにきつかった。

 でもこの日は、まだ「体力がゼロになる一歩手前」で止められたような感覚だった。


「なんか、まだ動ける気がする」


 ジャージの裾を引っ張りながら、さやかが小さく呟く。


「珍しいですね」


 ノエルが、やや冗談めかして返した。


「いつもなら『もう無理』って顔してますよ」


「今も無理は無理だけどさ。

 でも、今日はいつもより早く終わったなって」


 そんなことを話していると、道場の出入口の方から、柔らかい声が響いた。


「練習生候補の皆さん、少し時間いいかな」


 顔を上げると、そこにはスーツ姿の天城社長が立っていた。

 いつもの穏やかな笑顔で、4人に向かって手を軽く振る。


「星屑さん、星緋さん、ノエルさん、姫乃さん。

 よければ、少し話をしてもいいかな」


「は、はい!」


 4人は慌てて整列し直した。


「今日は、この後スターダスト寮の見学に行ってもらおうと思ってね」


「寮……」


 さやかの胸が、小さく跳ねる。


「PWSには、若手選手と一部の中堅選手が暮らしている寮がある。

 遠方から出てきている子や、練習優先の生活をしたい子のための場所だ。

 今後、皆の練習が本格的になっていく前に、そこを一度見ておいてほしい」


 社長は、4人それぞれの顔をゆっくりと見渡した。


「もちろん、すぐに入るかどうかは、家族や事務所とよく相談して決めてほしい。

 今日はあくまで見学と説明。

 大原さんという寮母さんにも、挨拶しておくといい」


「大原さん……」


 聞き慣れない名前に、さやかは首を傾げる。


「寮のお母さんだよ。

 ご飯や生活の管理、ちょっとした怪我の相談から、選手たちの愚痴の聞き役まで、色々やってくれている人だ」


 社長は、少しだけ目を細めて笑った。


「いぶきさんは、もうしばらくホテル暮らしだと聞いているし」


「はい。さすがにずっとは難しいので……」


「姫乃さんは、事務所と話をして、寮に入ることも選択肢に入っているんだよね」


「はい。マネージャーさんと相談して、寮生活もアリってなりました!」


「ノエルさんは、しばらくはご自宅から通う予定だと聞いている」


「はい。成績のこともあるので、当面は通いで様子を見させてくださいと、家で話し合いました」


「星屑さんは……どうかな?」


「えっと……。

 さすがに、今すぐは難しいと思います。高校もあるので……」


 さやかは正直に答えた。


「でも、その……。

 いつか、もっとちゃんとやれるようになったら、寮に入るのもアリなのかな、とは思ってます」


「うん。

 まずは見てから考えよう」


 社長はうなずいた。


「このあと、スタッフが寮まで案内してくれる。

 今日は練習も早めに切り上げたし、夕飯の時間にも間に合うだろう」


 そう言って、4人に優しく微笑みかける。


「スターダスト寮は、リングとは違う意味で、みんなの“戦いの拠点”になる場所だ。

 顔を見せに行っておいで」


「はい!」


 4人の声が、きれいに重なった。


 ***


 本部ビルから電車を一本乗り継ぎ、住宅街を少し歩いた先に、その建物はあった。


 コンクリート打ちっぱなしの新築、というわけではない。

 どちらかというと、少し年季の入った三階建てのマンション。

 外壁の一部には、長年の風雨でできた色の違いが見える。


 その入口の脇に、小さなプレートが掲げられていた。


 PWSスターダスト寮


「ここが……」


 さやかは、思わずごくりと喉を鳴らした。


 玄関のドアを開けると、すぐに柔らかな匂いが鼻をくすぐった。


 煮込んだ玉ねぎと、炒められた肉の香り。

 スパイスの匂いもする。


(カレー……かな?)


 靴箱の上には、「外部の人は要記帳」と書かれたノートとペン。

 その横には、古びた優勝トロフィーがいくつか並べてある。


「上がって上がって。そこ、スリッパあるから」


 奥から、明るい女の人の声が飛んできた。


 4人が靴を脱いで、スリッパに履き替えていると、キッチンの方からエプロン姿の女性が現れた。


 ふっくらとした体つき。

 肩までの髪を後ろでざっくりまとめていて、エプロンには「おおはら」と刺繍の入った名札がついている。


「やっぱり新しい子たちだね。

 天城さんから聞いてるよ。PWSスターダスト寮の寮母、大原よしのです」


 女性はニコッと笑って、4人を順番に眺めた。


「えっと……。星屑さやかです。

 お邪魔します」


「星緋いぶきです。お世話になります」


「ノエル・シエルと申します。よろしくお願いいたします」


「ティアラ☆キャンディ……こと、姫乃らんです!」


「はいはい、全員ちゃんと挨拶できてえらいえらい」


 よしのは、ぱん、と軽く手を合わせた。


「ここはね、リングで戦う子たちが、“ただの人間”に戻る場所でもあるから。

 ちゃんと食べて、ちゃんと寝て、ちゃんと悩む場所。

 あんたたちも、そのうちここで泣いたり笑ったりするようになるかもしれないねぇ」


 そう言って、1人ずつに視線を向ける。


「星緋ちゃんは……細いけど、ちゃんと筋肉ついてるね。

 でも、タンパク質足りてなさそうだねぇ」


「えっ。そんなに分かりますか?」


「毎日選手見てると、だいたい分かるよ。

 ご飯しっかり食べられる子は伸びるからね。

 食が細い武道上がりは、ここで鍛え直すこと」


「……気をつけます」


 いぶきが、素直に頭を下げた。


「姫乃ちゃんはテレビで見たことある顔だね。

 あんた、アイドルちゃんでしょ」


「は、はい……」


「ここでは同じ“レスラーのタマゴ”だから、変に気取らなくていいけど。

 ステージ仕事と寮ご飯の両立は難しいよ。

 食べた分はちゃんと動きなさいよ」


「頑張ります!」


「ノエルちゃんは、お行儀のいい子って顔してるねぇ」


「え、そんな……」


「考えすぎて寝られなくなるタイプでしょ。

 夜中に悩み始めたら、部屋でうだうだしてないで台所来なさい。

 お茶くらいは入れてあげるから」


「……ありがとうございます」


「で、星屑ちゃん」


「は、はいっ」


「あんた、すぐ顔に出る子だ」


「えっ」


「嬉しい時と落ち込んでる時、たぶんこっちから見てたら一目で分かる。

 隠しても無駄だから、落ち込んだら落ち込んだって言いに来なさい。

 言葉にしないと、余計こじらせるだけだからね」


 図星すぎて、さやかは思わず視線を泳がせた。


「さ、せっかくだから中、見ていきなさい。

 今晩のカレーも、味見くらいはさせてあげるよ」


「ほんとですか……!」


 らんの目が、一気に輝いた。


 ***


 まず案内されたのは、一階の食堂だった。


 長テーブルがいくつも並び、その上には水の入ったピッチャーとコップが置かれている。

 壁には、試合のポスターや、過去の興行の写真が雑多に貼られていた。


 キッチンの窓の向こうでは、大きな鍋から湯気が立ちのぼっている。


「今日はカレーの日。

 うちのカレーはね、最初は甘くて、後からじわっと辛くなるのが売りなんだよ」


 よしのが自慢げに言う。


「わあ……いい匂い」


 さやかのお腹が、正直に鳴った。


「食堂は朝と夜が基本。昼は各自でなんとかしてもらってる。

 夜は全員揃うこともあれば、練習や仕事で時間がバラバラのこともあるけどね」


 ちょうどそのとき、体育座りでストレッチしていた小柄な先輩が、テーブルの間から顔を出した。


「あれ、新人ちゃん?」


「みなせ。邪魔しないでちゃんとストレッチ続けな」


「はーい」


 轟みなせは、タンクトップ姿で筋肉を光らせながら、にこにこと4人に手を振った。


「ようこそスターダスト寮。筋トレは毎日やるといいよ。プロテインも忘れずにね」


「いきなり筋肉の話だ……」


 らんが小声でささやき、ノエルが小さく笑った。


「奥のテーブルでは、翔迫ミナトが脚を組んでプロテインをシェーカーで振っている。


「新人ちゃんたち?

 筋肉と健康と美肌のために、寝る前プロテインはマジでおすすめよ」


「ミナト、プロテインの営業はそのへんで」


 よしのが苦笑しながらたしなめた。


「はーい」


 ミナトは肩をすくめつつ、さやか達に「よろしくね」と柔らかく笑いかける。


 反対側のテーブルでは、白雪リラと黒羽ミコトが、スマホを見ながら何かの動画をチェックしていた。


「リラさん、あれ角度ズレてたところですよね」


「そうそう。ミコトのドロップキック、もうちょっとだけ足を開いた方が綺麗に見えると思うの」


「あ、ほんとだ。ボク、ちょっと内股になってる」


 そんな会話をしていた二人は、こちらに気づいて手を振った。


「新人ちゃんたち、いらっしゃーい」


「ボクたちの後輩だね。これからよろしく」


「よろしくだよー」


 らんは一瞬、ファンの顔になりかけて、慌てて表情を整えた。


「ここの二人はね、夜になるとたまに即興ダンス始めるから、寝たい日は耳栓用意しときなさい」


 よしのの冗談に、リラとミコトが「ひどーい」と笑う。


「二階と三階は居室だよ。

 何部屋か見ておいで。ひよりか誰か、部屋空いてる?」


「はーい、じゃあ案内します」


 声の方を見ると、エプロンを外した赤城ひよりが立っていた。


「あ、ひよりさん」


「ひよりさんだ」


 さやか達にとっては、道場で見慣れた先輩だ。


「こっち。階段狭いから気をつけてね」


 ***


 二階の廊下は、少し古いけれど清潔だった。


 白い壁には、ところどころにカレンダーや試合ポスターが貼られている。

 洗濯物の匂いと、柔軟剤の甘い香りが混ざり合っていた。


「ここが女子フロア。男子はいないから安心して」


 ひよりが説明する。


「向こう側の部屋には、さっき食堂にいたリラとミコト。

 こっちにはアカリさん。

 奥の方には、アサギさんもいるよ」


「アサギさんも寮なんですね」


「そう。

 リングではああいう人だけど、寮では洗濯物の干し方にうるさいよ。

 生乾き臭、大嫌いだから」


「なんか意外です……」


 ノエルが苦笑する。


「新人部屋として空けてある二人部屋があるから、そこ見ておく?」


「お願いします」


 ひよりがドアを開けると、中はシンプルな二人部屋だった。


 ベッドが二つ。

窓際に小さな机と椅子が二つ。

 クローゼットと、本棚代わりのラックがある。


 片側のベッドには、まだ誰も荷物を置いていない。

 もう片側には、タオルケットと、簡単なアメニティがそろっていた。


「ここが、いぶきちゃんと姫乃ちゃんが使う予定の部屋」


「えっ」


「えっ」


 二人同時に声が重なった。


「いぶきちゃんは親元離れて一人暮らしだから、ここに入る方が安全でしょ。

 星緋ちゃん、しっかりしてそうだし」


「いえ、そんな……」


「姫乃ちゃんは、どっちかというと、誰かブレーキ役がいた方が良さそうだから」


「ひどい!」


「褒めてる褒めてる。

 元気なのはいいことだけど、夜中に歌い始めたら即座に止めてあげられる人が必要でしょ」


「夜中に歌わないもん……たぶん……」


 らんが小声で付け足し、いぶきが小さくため息をつく。


「でも、そうですね。

 寮に入れるなら、その方が練習には集中しやすいと思います」


「私は……」


 らんは、一度だけ窓の外を見てから、ぱっと顔を上げた。


「寮、入ります。

 ここからだったら、仕事にも通いやすいし。

 何より……皆さんと一緒にいた方が、絶対楽しいと思うので」


「うん、そのくらいはっきり言ってくれた方が、寮母さんも喜ぶよ」


 ひよりが、満足そうに頷いた。


「ノエルちゃんと星屑ちゃんは、どうする?」


「私は、しばらくは家から通います」


 ノエルが、はっきりと言う。


「通信制の勉強もありますし、家族とも話し合ったので。

 でも、もし必要になったら……その時は、また相談させてください」


「いつでもどうぞ。

 ノエルちゃん用に空き部屋を一つ残しておいてもいいくらいだし」


 ひよりは冗談めかしながら言った。


「星屑ちゃんは?」


「私は……」


 さやかは、部屋の中をぐるりと見回した。


 二つのベッド。

 窓から差し込む夕方の光。

 ここで、寮生たちが笑ったり泣いたりしている姿が、なんとなく想像できた。


「高校もあるから、今すぐは難しいです。

 でも……いつか、ここにちゃんと住めるくらい、両立できるようになれたらいいなって思います」


「うん、そのくらいがちょうどいいよ」


 ひよりは、優しく笑った。


「高校は、簡単に投げ出していいもんじゃないからね。

 でも、その代わり――」


 少しだけ真面目な顔になる。


「“ここに住みたい”って本気で思えるくらい、レスラーとしての気持ちが固まったら、その時は遠慮なく言いなさい。

 寮母さんも、あたしたちも、“おかえり”って言う準備はしておくから」


「……はい」


 胸の奥が、じんわりと熱くなった。


 ***


 廊下を戻ろうとしたとき、奥の部屋からひょいと顔を出した人がいた。


 黒髪をひとつに結び、Tシャツにジャージ姿の女性。

 リング上では鋭い視線を飛ばすヒールレスラー、黒沼アサギだ。


「あれ、新顔か」


 低めの声が、廊下に響く。


「アサギさん。今、寮見学中」


「ふーん」


 アサギは、じろりと4人を見た。


 道場で見たときと同じ鋭い目。

 でも、その手には洗濯かごがぶら下がっている。


「洗濯物、ちゃんと裏返して出すタイプか?」


「え?」


「靴下裏返しのまま出す子は嫌いなんだよ。

 生乾き臭の敵だから」


「あ、気をつけます……!」


 さやかが思わず返事をすると、アサギはぷいっと顔をそらした。


「ま、ちゃんとやる気があるなら、別にいいけど」


「アサギさん、優しいね」


 ひよりがにやりと笑う。


「別に優しくない」


 言葉とは裏腹に、その声はどこか柔らかかった。


 ***


 再び一階に戻ると、食堂にはさらに何人かの選手が増えていた。


「お、帰ってきたか」


 轟みなせが、ストレッチをしながら顔を上げる。


「どう? 部屋、悪くなかったでしょ」


「はい。すごく落ち着きそうな部屋でした」


 いぶきが答える。


「じゃあ、今日からよろしくね。

 一緒に筋トレしよう」


「筋トレはほどほどにお願いします」


 よしのが横から口を挟んだ。


「筋肉は大事だけど、壊したら元も子もないんだから」


「はーい」


 テーブルの上には、大鍋からよそう途中のカレー皿がいくつか並んでいる。

 ごろごろとした具がたっぷり入っていて、湯気が立っていた。


「今日はせっかくだから、星緋ちゃんと姫乃ちゃんはここで晩ごはん食べて、そのまま泊まっていきなさい」


「えっ、今日からいいんですか?」


「大丈夫大丈夫。布団も用意してあるから。

 荷物は後日運び込めばいいよ。歯ブラシくらいならこっちで出せるし」


「ありがとうございます!」


 らんは、全身で喜びを表現した。


「ノエルちゃんと星屑ちゃんは、今日は帰らないとね。

 家の人たちも心配するだろうし」


「そうですね……」


「……はい」


 少し名残惜しい気持ちを抱えながらも、二人は素直にうなずいた。


「でも、せっかくだからルーだけ少し味見しときなさい」


 よしのは、スプーンにカレーをひと口分だけよそって差し出した。


「いただきます」


 さやかは、恐る恐る口に入れる。


 最初に舌に触れたのは、玉ねぎの甘さと、煮込まれた野菜の柔らかい味。

 そのすぐ後に、じわじわとスパイスの熱が追いかけてきた。


「おいしい……!」


「うちのカレーは、試合前でも食べられるように、脂は少なめにしてあるからね」


 よしのが得意げに胸を張る。


「星屑ちゃんも、いつか寮に入ったら毎日食べられるよ」


「それは……すごく魅力的です」


 さやかの本音が、そのまま口からこぼれた。


「ノエルちゃんも、食べたそうな顔してるねぇ」


「いえ、その……」


「我慢は体に悪いよ。はい、あーん」


「……いただきます」


 ノエルも、少し恥ずかしそうにカレーを味わった。


 玄関で靴を履きながら、さやかはもう一度だけ食堂の方を振り返った。


 テーブルの周りで、先輩たちが笑いながら話している。

 カレーの匂い。

 鍋から立ちのぼる湯気。

 エプロン姿のよしのが、その真ん中で手を動かしている。


「ここが、“おかえり”って言ってくれる場所になるんだね」


 さやかがぽつりと言うと、隣で靴紐を結んでいたノエルが頷いた。


「はい。

 今はまだ、私たちは“お邪魔しました”の立場ですけど」


「いつか、“ただいま”って言えるようになりたいな」


「その時は、一緒に言いましょう」


「うん」


 二人は、軽く笑い合った。


「じゃあ、大原さん。

 今日はありがとうございました」


「こちらこそ。

 気をつけて帰りなさい。

 転んで怪我したなんて言ったら、黒岩さんに怒られるからね」


「はい!」


 ドアを開けると、外はすっかり夜だった。


 住宅街の向こうに、少しだけ星が見える。

 さやかとノエルは、最寄り駅へ向かって並んで歩き出した。


「いぶきちゃん達、今ごろカレー食べてるんだろうね」


「きっと、おかわりしてると思います」


「らんちゃんも、おかわりしそう」


「間違いないですね」


 他愛のない会話を交わしながら歩いているうちに、胸の中の重さは少しずつ軽くなっていった。


(今は、家に帰る。

 でもいつか――)


 さやかは、ふと歩みを止めて振り返った。


 スターダスト寮の三階の窓から、あたたかな明かりがこぼれている。

 その光が、夜風に揺れるカーテン越しに、ゆらゆらと揺れていた。


(あそこに、“おかえり”って帰れるようになりたい)


 そう願いながら、さやかはもう一度前を向き、駅へ向かって歩き出した。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


第9話では、

・天城社長からのスターダスト寮見学のお誘い

・寮母・大原よしのの初登場と、「おばちゃん」らしい一言一言

・食堂や廊下、居室など、スターダスト寮という「生活の場」の描写

・いぶき&らんの入寮決定と、凸凹コンビの同室フラグ

・ノエルとさやかは家からの通いを選びつつ、「いつか寮に入りたい」という小さな願い

・みなせ、ミナト、リラ、ミコト、アサギ、ひより達の、リングとは少し違う素顔

・カレーの匂いと、「おかえりって言ってくれる場所」というテーマ

を描きました。


リングと道場だけが、彼女たちの世界ではありません。

その裏側で、ご飯を食べたり、洗濯物を干したり、先輩に小言を言われたりしながら、

少しずつ「レスラーとして、ここに生きていく」覚悟も育っていきます。


次回は、いよいよ一ヶ月目の中間テストへ向けて、

「残る理由」と「揺らぐ気持ち」がもう一度試される回にしていく予定です。


引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです

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