朝起きたら貧乏になってた
朝、ベッドの中で目覚めた。
いつもの朝だ。
私は何も変わりない。
伸びをして、ベッドから下りて、顔を洗って、朝ごはんを食べようとして気がついた。
「あれえっ!?」
冷蔵庫の中にアレがなかった。
アレとはもちろん、あたしのいつもの朝ごはん、オピヤスの健康ヨーグルトだ。
そういえばゆうべ酔っ払って、食べてしまった記憶があった。
食パンはあるが、そこにたっぷり乗せて食べるためのアレがない。
今日は休日だ。寝坊したおかげで近所のスーパーはもう開いてる。
「買いに行くか……」
あたしは寝間着の上にトレーナーを被り、化粧もせずに、くしゃくしゃの髪のまま、財布をもち、一応中身を確認する。
そしてまた声が出た。
「あ、あれえっ!?」
財布の中身は34円だった。
おかしい……。
記憶を辿ると──
思い出した! 昨日、仕事帰りに高いスコッチ・ウィスキーを買ってしまったんだった! そしてそれは昨夜ですべて飲みきった。
「まぁ……、クレカあるし……」
歩いてスーパーまでヨーグルトを買いに行った。
ヨーグルトひとつだけ手に持って、セルフレジで精算──
エラーになった。
おかしい! クレジットカードを受け付けてもらえない……。
磁気の部分を何度綺麗にこすっても、受け付けてくれない!
PayPayカードもだめだった。スマホ決済は使ったことがない。
仕方なくヨーグルトを戻し、何ももたずに部屋へ戻った。
帰ってスマホでカード会社のアプリで確認すると、あたしのカードは『解約済み』になっていた。
「な……、なぜに……?」
考えて、思い当たった。
この間、債務整理をしたばかりだった。
300万円超の借金に首が回らなくなり、弁護士に相談して、さすがに全額免除とはならなかったものの、払い過ぎた利子のぶんだけは取り返せたのだ。
もちろんそれはあたしの懐に入ったわけではなく、利子ぶんの返済をしなくてもよくなっただけだが──
「そっか……」
それであたしはブラックリストに載ったのだ。
それでPayPayカードなんかも強制的に解約させられたのだ。
ネット銀行の口座にある全財産を確認する。
一万三千三百円……
この10日間で使いすぎた……。もうこれだけしか残ってない。
これで今月あと二十日間を乗り切らないといけない!
昨夜まではあたし、高価なスコッチ・ウィスキーとか飲みちらかして、ブルジョワ気分でいたのに……
ある朝目覚めたらド貧民になってた!
もちろんツッコんでもらって構わない。
今まではマイナスだったお金が、これからはだんだんとプラスのほうへ近づいていくのだ。
ダメ人間が、だんだんと、真人間に更生していくのだ!
しかし……、困った。
一日七百円も使えない。
それどころか光熱費、払えない。
家賃はもう振り込んであるからいいけど、タバコなんて買えないし、スマホの料金が払えないから、趣味の小説投稿サイトも見れなくなる……。
食費を抑えるしかない!
一日30円で済ませれば、20日で600円しか使わないことになる!
やるぞ!
幸い、お米は先月買ったやつがたっぷりある!
問題はおかずをどうするか……
ネットで調べると、おからが安くていいらしい。
栄養もあるし、分類上は『産業廃棄物』なので、めっちゃ安い! 1kgで百円しない!
早速少し遠かったが激安スーパーに行っておからをゲットしてきた。
冷凍庫にあったごぼうと人参、枝豆に油揚げを入れ、おからの煮物を作った。
初めて作ったにしては上手にできた。
冷凍保存すれば一ヶ月はもつという。
これで20日間、乗り切るぞ!
おからは不溶性食物繊維の宝庫。
これでお通じもよくなるに違いない。
そう思っていたら──
何事も過ぎるのはよくない。
食べ過ぎると逆に重度の便秘を引き起こすということを私は知らなかった!
「く……、苦しい……」
もう10日間もうんこが出ていない。
貧乏な上に、うんこが出ない。
これぞまさしく運の尽き──