表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

7.今年のカボチャ祭り

 大狼(フェンリル)歴二万五千三百二十四年 蠍座(スコルビウス)八日


 普段から収集していた鉄屑を組み合わせて、仕掛けを作り、「照明」や「音楽」の魔力を通した物を、手押し車に一杯持って、私はお祭りの会場に向かった。

 勿論、クミンも一緒に。彼には、私が会場を見て歩いている間の、売り子をやってもらうつもりで連れて行った。

 だけど、私が自分のブースの準備をしている間、クミンはお菓子の屋台や魔法雑貨のブースが並ぶ中を、目を輝かせて遊びに行ってしまった。

 お小遣いもそんなに渡してないし、暫く待てば帰ってくるかなぁと思ったけど、肉焼きのソースで口元をてかてかさせて、手に安っぽい「銀色ラメラメの扇子」を持って帰ってきた時は、クミンを指さして「無駄遣い」って言っちゃった。


 その後、一通りお金と商品の受け渡しの方法を教えてから、クミンにブースを任せて、魔術師仲間に挨拶に行った。

 森魔女のエンゲルが、面白い仕掛けを作っていたよ。ボードゲームみたいな迷路の中に、銀色のボールを通して行くの。迷路の途中途中で落とし穴があったりして、迷路の中にボールを通すには、細かい技術が必要だった。

 落とし穴から落っこちたボールは、丸い器の中の下に通過して、スタートの穴から再起復活出来る。

 特に目立つ魔術も組み込まれてないんだけど、思わず熱中しちゃう面白い仕掛けだった。


 本当に「すごい」って言える仕掛けを作れる人は、ああ言う、単純だけど熱中してしまうって言う人間の癖みたいなのを、しっかり心得ているって事よね。


 私のブースに来てくれた人は、ぼちぼち。可愛く作った可燃ジェル性の蝋燭と、その蝋燭を灯すと、見栄えのする光が床に零れるランタンが、一番売れたな。

 他にも、ドアの上に取り付ける「水面音」のベルや、蓋を開けると音楽を鳴らす宝石箱なんて言うのを用意したけど、音系の魔法細工は好みが分かれた。

 やっぱり、細工はシンプルなものほど喜ばれるみたい。

 だけど、毎年新作を持って行かないと、ブースに来てくれたお客さんをがっかりさせちゃうしなぁ。

 出来るだけ、毎年一つは新作を持って行って、その毎年一つの新作を、シンプルで飽きの来ないものにするしかないのか。


 お祭りを堪能した後は、家に帰って、作り置きのカボチャスープとカボチャプリンを食べる。

 カボチャのパイも用意したけど、クミンはプリンを食べただけで、「これ以上甘いのは、遠慮します……」って言ってた。

 男の子にとっては、カボチャの天然の甘みでも、相当甘く感じるみたいね。

 だけど、同じ男の子でも種族が違えば、カボチャは相当良い食事みたい。

 ペパロニが、その日の晩御飯である、生カボチャの薄切りを熱心に咀嚼しながら、ぶつぶつ言ってたのよ。

 珍しく文句じゃなくて、「この旨味の調和するフレッシュなワタ際が一番濃厚な味を……」とかなんとか。

 それで、クミンがカボチャパイを残すと、「よお。じゃりんこ。要らねぇなら、俺が食うぞ。良いんだな?」とか、勝手に話を進めていた。

 勿論、兎に人間の食べ物を与えてしまうと太る原因になるので、パイの生地の部分を剥がしてからあげたけど。

「なんでぇ。ケチ臭い事するんじゃねぇよ。しみったれ」と、ペパロニは文句を言っていた。

 自分の隣では、マカロニが生地付きのカボチャパイを食べてるんだから、お前の健康を考えていると言っても通じないだろう。

 ラザニアも、生地を剥がしたカボチャパイの中身だけを、ちょいちょいとつついていた。


 ペット達と一緒にカボチャパイを食べて居ると、玄関でベルが鳴った。

 ドアスコープを覗いてみると、魔女の正装をした黒髪の女の子が居た。普段は三つ編みにしてる髪を解いてたけど、ミアンだってすぐにわかった。

 ドアを開けると、オレンジ色の焼き菓子の入ったフィルムパックを、籠の中に沢山持った彼女は、「ご褒美(トリート)ご褒美(トリート)」って言いながら、フィルムパックを一つ渡してくれた。

「ありがと。うちの持て成し(トリート)を食べて行く?」って聞くと、「勿論」って帰ってきた。

 そこで、私はでっかいカボチャパイの一切れと、ポットを温める所から淹れた紅茶を振舞った。

 お客様用の椅子に座ったミアンは、「いやー、歩きすぎた。もう、ふくらはぎがパンパン」って言って、革のブーツの上から、脚を揉んでいる。

 トレーの上にカボチャパイとお茶を並べて、「ささ、我が家の持て成し(トリート)を」って言うと、ミアンは、歯を見せてにやって笑って、「ありがとう」って応えた。


 ミアンの話では、プリムがこのカボチャ祭りの前から当日に乗じて、上手く新しい店を軌道に乗せたらしい。

「目玉商品は、『ホームメイドテイスト・パンプキン・タルト』だってさ」との事だ。

「家庭風カボチャタルトかぁ。だけど、お祭りが過ぎたら飽きられない?」って聞くと、ミアンはカボチャパイを一口分口に入れてから、フォークをちょっとだけ横に振って、「次の月の策は、卵祭りチョコレートケイクだって言ってたわ。卵型のチョコレートマカロンと、どっちにしようか迷ってるって」って言う。

「イベントを主体にした店にして行く予定なの?」と、質問すると、「それは商いの基本だって言ってたわ。あのプリムローズちゃん」と、返ってくる。

 プリムの前では、私達は彼の本名を呼ばない。どんな抑揚で慎重に呼んでも、絶対的にからかいになるからだ。

 自分の名前の恥ずかしさはプリムが一番よく知っていて、プリムローズって呼んだ奴は後世まで呪ってやるって、息を撒いている。

 まぁ、男の子にプリムローズって名付ける、頭の沸いた親の下に生まれたのが悲惨なのね。


 ミアンが帰った後、隠れていたクミンが、壁際から居間を覗いて、汚れた皿を回収して行った。

 皿を洗ってくれるのは良いけど、なんで及び腰なのよって思ってたら、クミンはエプロンをつけながら、「ミアンさんって、なんか冷たい感じしますね」と、言う。

「そう? 結構と、愉快な子よ?」って返すと、「僕は打ち解けられないなぁ。一度失敗したら、後々まで文句を言われそう」と言う、一種の偏見を述べる。

「頭から決めつけない」と、私は弟子に言い聞かせた。「実際に話してみて、『後々まで文句を言われる』ようだったら、その時に考えれば良いの。あんた、まだ、ミアンと一言も話したことないじゃない」

 洗剤をつけた木綿をクシュクシュと揉み始めたクミンは、「うーん」って唸ってから、「やっぱり、立ち向かわなきゃダメですかぁ」と零す。

「立ち向かおうとしている時点で、偏見に負けてるのよ」と、私はお茶の葉っぱが入ったボトルを棚に片付けながら、解説した。「甘やかしてくれそうな人にだけ近づくのは、男としてみっともないと思いなさい」

「はい……」と、クミンは根暗そうにぼそりと返事をした。


 お祭りも終わったし、今年の私の商いの集計……を、日記ちゃんに明かしちゃうと後々面倒そうだから、ざっくりとだけ記述するわ。

 余裕をもって来年まで暮らせる貯蓄と、生活費は得た。余計な散財をしなければ、来年のお祭りの細工に出資する事も出来る。

 光線裁断機にも力が入るってものよ。この道具は鉄屑を切るには便利なんだけど、光が通過した先に防護板を置いておかないと、床まで裁断してしまうのでとても危険なの。

 だから、クミンに幾らねだられても、触らせた事はない。私しか使えないように、暗号呪文も入力してある。

 クミンの持っている魔力量じゃ、薄板を焼き切るくらいの力しか出せないだろうけど、用心に越した事はない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ