表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/48

44.惚れた腫れたも浮世の華

 大狼(フェンリル)歴二万五千三百二十六年 水瓶座(アクアリウス)十七日目


 薔薇祭りが近づいている。

 今回の細工は、前回のグレードアップ版と言う事で、赤い薔薇の他に、白やピンクやオレンジ、そして水染めで作った青い薔薇も用意した。

 薔薇の周りにはカスミソウを配置して、香りは三段階で「濃い」「普通」「薄い」を用意。

 クミンのほうは、「刺繍の帽子」を用意していた。わざわざ、ユニカちゃんから上手な刺繍の方法を習って。

 刺繍用の糸と針の使い方を覚える間、ユニカちゃんとクミンは半径五十センチから三十センチの間柄。

 ユニカちゃんは顔を赤らめながら、真面目に教えようとしている。

 クミンは平常運転だったけど「まだ知らぬ新しいテキスタイルの扉」を開いたと言う事で、お互い納得はしているようなのよ。


 商品をネットワークカタログに登録すると、「一年間のご愛顧の皆様」と言う通知が来た。

「あなたのお店の宣伝をしてみませんか?」と言うものだった。

 何でも、特典で「五日間宣伝費無料」と言うサービスをやっているらしい。

 たった五日間でどれだけ知名度が上がるか分からないけど、やるだけやってみましょうか。


 宣伝をしてもらうには、「自分のお店の特徴」と「商品の内容」と「キャッチコピー」を考えねばならない。

 私は、弟子と膝を突き合わせて相談した。

「店の特徴としては、『魔法雑貨屋』である事を示せば良いと思うの。私の細工と、あんたの布製品がある事の『言い回し』を考えて、後はキャッチコピーが必要なのよ」

「キャッチコピー」と、険しい顔しながらクミンは復唱する。「あなたの日常に潤いを……とか?」

「そうねぇ」と、私は肯定しておいた。「どんな風に『潤いを与えるか』を、『お店の特徴』と『商品の内容』で示さなきゃならないんだけど」

「特徴は『魔法雑貨屋』で良いんじゃないですか?」

「うん。私の方はね。クミンの布製品に関しては、魔術を使ってないわけじゃない?」

「ああ。そうか」

 そう受け答えてから、「文字数とか決まってます?」って、クミンは聞いてきた。


「『魔法雑貨とドレスの店』『各種祭りの贈り物にも最適』『華やかな日々の彩りを』『魔女村さん()の定期便』」と言う宣伝が、五日間、公共放送の魔力波に乗った。

 声の役者さんが可愛らしく文言を唱えてくれていて、大分うちの店のイメージは「ファンシー寄り」に盛られていた。

 BGMに関しては、うちの商品の一つである「金属林檎」ちゃんのオルゴールの曲が使われていた。

 殊更に、ファンシー度は増していた。全部、ラザニアの声で再生されたけど。

 うちのカタログを見た人は驚くだろうな。どれだけ、ふわふわで可愛らしい雑貨があるのかと思ったら、渋い色の金属細工がほとんどなんだもん。

 私の細工にがっかりした人は、クミンの編んだ「もこもこミトン」でも見て、癒されてくれよ……。


 何時も通りに、ごちゃごちゃガチャガチャした細工屋がブースを連ねる祭りに、出店を出した。

 うちのブースに来たお客さんには「今年は色んな色がある」って喜んでもらえた。

 去年は赤一択だったからね。

 ネットワークカタログでも、「バージョンアップ版・薔薇細工」は、結構と売れたほうだったわ。宣伝の効果はあったようね。

 クミンの「もこもこミトン」と「もふもふフリンジマフラー」と「ドワーフ風毛糸帽子」の三点セット三つも完売。

 近年の傾向として、カラフルな色が好まれているのね。

 何より、宣伝のイメージと違わずに「可愛い」と言う所が、売りになっているようだった。

 私の細工物も、今後は「可愛い」寄りにしなきゃダメなのだろうか。職人としては凄く腸が千切れそう。


 薔薇祭りが終わった後も、うちのネットワークカタログは繁盛した。

 特に、クミンの刺繍帽子に人気が集まっている。

「本気で『クミンのワクワク手芸店』を別で作らない?」って聞いてみたけど、「『ワクワク』は嫌です」って、何時も通りに素っ気ない返事をされた。


 薔薇祭り前後から、ユニカちゃんがうちに出入りするようになったので、村の中では「クミンがユニカに薔薇を送ったのでは」と言う噂が流れていた。

 浮名とは縁遠い二人だからか、その噂は「若者のほのぼの話」として、まことしやかに語られている。

 村の人達は、若者達を横目で見ながら「キャッキャウフフ」してれば良いけど、難しい顔をしているのはユニカちゃんのお父さんだ。

 噂が「唯の噂」であるうちに、事情を把握しておかないと、娘の名折れに成るかもしれないんだから。

 クミンはある日、ユニカちゃんに「うちのお父さんが、会って話がしたいって」と言われて付いて行ったら、リビングに通されてお茶を出されたらしい。

 それから、「それで、どうなんだ?」って聞かれた。「うちの娘に薔薇を送ったと言うのは、本当なのか?」と。

 クミンは「いえ、送った事は無いですよ?」って答えたんだけど、「村の中ではすっかり噂になっている」って言われたから、「何かの誤解だと思います」から始めて、ユニカちゃんがうちに来るのは、自分(クミン)に刺繍の方法を教えるためで、やましい事など無いと言う旨を説明する事になった。

 ユニカちゃんのお父さんは、「父親をやっているとな。娘の意中の相手くらい、見抜けるようになるんだよ」と、言い出した。

「もし、娘が泣いて帰ってくるようなことがあったら、その時は許さないからね?」と、厳しい声で言われて、「はい」とだけ答えておいたって。

 その事を私に報告してから、「それで、結局ユニカの意中の相手が誰かは、教えてもらえなかったんですけどね」と、言うので、思わずクミンの方を二度見した。

 うちの一番弟子は相当鈍い奴なようだ。


 私の友人内の事で言うと、今年もシフォニィは色んな男性の申し出を断っていた。

 反対にプリムの方は、とある女性から逆プロポーズを受けて、その申し出を受け入れたらしい。

「女の子に恥はかかせられないしねぇ」って、大人の男ぶってたけど、内心ウキウキである事は、緩んだ口元や、何時もよりきびきびしている手元からうかがい知れたわ。

 プリムに逆プロポーズをしてきたのは、エルリって言う名前の、金髪と碧眼の女性。

 学生時代はチアリーダーをやっていたらしい。

 すごくモテる女の子で、恋人に困った事は無いらしいんだけど、プリムと出会って……正確には、プリムの店に出入りするようになってから、それまでの男の事を全部忘れちゃうくらいの衝撃を受けたんだって。

 心臓がどきどきして、体が温かくなって、「のぼせちゃう」と言う程ではないけど、何だか心地好い気分になったと。

 ああ、そうか……と、私は気づいて、プリムに「おぬしも罪な男よのぉ」って声をかけておいた。


 確かに、プリムの周りに居ると、他の人はとても居心地が好くなる。

 それはプリムの放っている魔力波による「治癒作用」なんだ。

 その原理を知らなかったら、確かに「私はこの人に居心地の好さを感じている。もしかしたら恋をしているのかも」と思っちゃうかも。

 先日の件で、プリムが「悪寒」に捕まらなかったのも、この魔力波による「天然の結界」を持って居るからだ。

 プリムに居心地の好さを感じている女性はいっぱい居るけど、今まではみんな牽制し合って、誰も彼にプロポーズなんて出来なかった。

 だけど、自分に自信があるが故に、その牽制の垣根を飛び越えて来てくれる人が、ようやく現れたのよ。

 もう、「おめでとう!」としか言えないわよね。

 これから幸せに成ってくれ、プリムローズ君よ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ