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42.壁の穴のせいで

 大狼(フェンリル)歴二万五千三百二十六年 山羊座(カプリコヌス)二十七日目


 相変わらず、家の中は寒い。その影響か、私は猛烈に食欲が湧いてきた。

 ある日の昼食にガーリックバターを塗ったトーストを一枚食べてから、食欲に火がついてしまった。

 肉と野菜を調味しながら強火で炒めて、フライパンのまま、薪ストーブの前から動かずに食べたり。

 寒い中を「一週間は持たせよう」と思って買ってきた田舎パンを、一日で食べつくしたり。

 高値の山羊乳のチーズを、何の味付けもしないでそのまま食べつくしたり。

 異常にコーヒーが飲みたくなってきて、家にあった豆コーヒーを飲みつくしたり。

 その後で、「もうこの家には居られない」と思って、プリムのカフェにクミンを連れて避難した。


 暖炉の暖かさがしっかりと店内を温めているクオーターズカフェは、まさに天国のようだった。

 私はホットミルクココアのラージサイズと、チョコレートケーキを頼んだ。

 クミンはホットレモンティーのスモールサイズと、ソルトポテトフライを頼んだ。

「どうしたの? 二人とも、顔真っ青だよ?」と、ココアと紅茶を配膳しながら、プリムが聞いてくる。

「家の壁の一部に、大穴が空いてしまってね」と、私は嘆いてみせた。

 経緯を語ると、「ああ。あの変な人、処刑されなかったんだ」と言う、大分辛辣な言葉が戻って来た。

 村人全員の命を危険にさらした訳だから、処刑されてても仕方ないと思うよね。

 そして今、私達はその人物の招いた状態のせいで、凍え死にかけている。

「ポワヴレは、しょげてる人に甘いからなぁ」と、プリムはカウンターの向こうに戻りながら言う。「どうせ、泣き落としとかで誤魔化されたんでしょ?」

「実際、泣いてたし、反省した色はあったんだけどねぇ……」と、私はぼやいた。「反省しても、自分の生き方は変えられないって言うタイプなのかも」

「タイプの診断をしてもしょうがないでしょ?」と、プリム。

 その時、扉のベルが鳴った。

「コンニチハー。プカプカ屋さんでワッフル買ってきたー。お茶ちょうだーい」と、滑らかに喋る奴が、入店して来る。「うんと渋いアールグレイが飲みたいなー」と言いながら。

 村に住んでる小作農家のリックルだ。

「プカプカ屋さん、開いてた?」と、プリムは驚いている。「御店主が腰傷めたから、暫く休業するって言ってたけど」

「えー? 普通に開いてたよー」と、リックルは言って席に着き、早速ワッフルを食べ始める。「腰の方は、すごい腕の良い按摩さんが、治してくれたって言ってたー。なんだっけ。名前はー、クラウンとか言う按摩さん」

 それを聞いて、私とクミンは、更に真っ青になった。


 注文した物を浴びるように飲み食いしてから、新しい食料を求めて市場を巡り、幾ら温めても薄ら寒い家に帰った。

 家の住人が居ない間、「保温」を利かせて置いたけど、動物達にとっては寒い事この上なかったらしい。

 クミンが暖炉の熾火を掻き起こして、新しい薪に火をつけると、動物達はようやく生き返ったような表情をしていた。


 そして私は、ディルに喧嘩を売りに行った。

 明かりがついている小屋の戸を開け、中に居た住人に囁く。

「ディル? あんた、村の中心街に、何をしに行ったの?」

 ディルは、ポカンとした様子で答える。

「按摩の仕事をしに行きました」と言うので、「それは自殺行為!」と、私は思わず怒鳴った。

「村の中にはね、あんたが生きてる事をよく思ってない人も居るの。特に中心街なんて、あんたの事を『犯罪者』としてしか知らない人も居るんだから、絶対に近づいちゃいけないの!」

「はい……」と答えて、ディルは暫く視線を下にする。それから、パッと顔を上げて「もしかして、心配してくれたんですか?」と、表情を明るくした。

 心配ではない。あくまで、私個人の心配ではない。ディルを唯の犯罪者だと思って居る人が居るのは、単なる事実なのだ。

 だけど、何かその辺りの事が、相手に通じていない。

 キラキラした目で見てくる、話の通じない奴から、私は二歩ほど離れた。

「とにかく、村の中心街には近づかない事!」と言いつけて、私は小屋から撤退し、どうあっても寒い家に戻った。


 家の中がずっと寒くなってから、楽しい動物達は人間と一緒に眠るようになった。

 ベッドの中で上掛けにくるまって眠ると言う、文化のおこぼれにあずかろうと、人間達が「そろそろ眠るか」なんて言ってると、犬のマカロニは私の部屋に、兎のペパロニはクミンの部屋に入る。

 私達も、モフモフさん達の毛皮の恩恵を受けられるのは悪くない。

 ベッドにもぐりこんだ直後の冷えだけを堪えれば、悪くはない。

 眠る時に暖房をつけて居られないから、人間もモフモフさん達も、お互い引っ付いてあっため合ったほうが良いのだ。

 一階の居間に置き去りにされているヨウムのラザニアだけは、震える声で何か歌っている。ずっと活動して居ないと、寒さで参ってしまいそうなんだろう。

 その代わりに、ラザニアは居間の暖炉がついている時間に眠るようになった。

 なので、ここ暫く、天気予報を聞いていない。

 まぁ、冬の間の天気なんて、ずっと「曇りか雪」なんだけどね。


 しかし、モフモフさん達が引っ付いていても寒い時はあるので、新しい暖房器具を導入した。

 その名は、湯たんぽと言う。

 樹脂のボトルに熱湯を入れて、タオルで包んだものを、上掛けの下に入れて置くと、予めベッドを温められる、優れものである。

 程よく(ぬる)くなった湯たんぽを抱きしめても良い。

 勿論、そんな良い物を用意してしまったら、モフモフさん達の期待も上がるのである。

 湯たんぽをベッドに仕込んでおくと、部屋の主より先に夫々のベッドにもぐりこんで、暖を取って居る事がある。

「マカロニよ。何故真ん中で眠るのだ」と、私は文句を言った。

 気持ちよさそうに湯たんぽを抱えているマカロニは、ちらりと片目を開けて、片耳を持ち上げて見せた。しかし、ワンともスンとも言わずに、再び眠り直した。

 その日の私は、マカロニにベッドの真ん中を譲って、端っこで「落っこちないかな」と思いながら不安な夜を過ごした。


 そんな事があってから、私は湯たんぽと人間は一緒にベッドに入ったほうが良いと学習した。

 クミンにも、眠る直前になってから湯たんぽを渡すようにしてみた。

 私の方は、湯たんぽを独占できなくなったマカロニが、私ごと湯たんぽを抱きしめるようになった。

 いや、あったかいけど……だいぶ犬の体臭がする。春が来たら、マカロニの毛皮も洗ってあげなきゃなぁ。


 クミンの方はどうかと言うと、眠る前に散々ペパロニから文句を言われたそうだ。

 湯たんぽを用意するのが遅いと。

 しかも、クミンが湯たんぽを抱きしめて眠ろうとすると、「ケチくせぇ事するんじゃねぇ、じゃりんこ」と罵り、クミンの腕から余っている部分の湯たんぽに抱き着いていると言うのだ。

 想像だけすると平和そうな絵面だが、湯たんぽを抱えたまま寝返りを打つたびに、ペパロニに舌打ちをされ、文句を言われてる。

「小面倒くせぇ奴だな。一々動くんじゃねぇよ!」と。

 ペパロニが「べらんめぇ口調」じゃなかったら、もう少し平和なんだろうけどな。


 その一件を、再びクオーターズカフェを訪れた時にプリムに話した。笑われるとは思ってたけど、確かに優し気な失笑を買ったわよ。

「それで、度々うちに来るようになったのか」とプリムが言う通りに、私達はこの頃、週五の間隔でプリムの所に暖を取りに行っている。

 左官屋さん、早く私達を助けて!

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