37.それでも爆発音はする
大狼歴二万五千三百二十五年 射手座二十二日目
私達は今年の冬初め祭りを諦める事にした。その代わりに、冬初め祭りの時に出展する予定だった物を、冬のマーケットで販売して良いって事にした。
問題は環境の回復。一度村の際まで押し寄せた邪気を、お掃除せねば。
レヴァンタスにも邪気の清掃局はあるんだけど、村の中の事は村の中だけで治めたいのよね。
そこで、「浄化」の魔術が使える人と、「霊視力」を持ってる人と、「通信」が使える人達を集めて、チームを組んで「清掃活動」を行なう事にしたの。
まずは広場に集まってもらって、どんな方法で「邪気を掃除して行くか」を話した。
「『通信』は常に維持。『霊視力』で邪気の塊を見つけらたら、捉えてる視界を『浄化』役に移動。見えた時点で『浄化』を実行。一区画の浄化が終わったら、広場に連絡。この手順を繰り返す」
霊視力を持ってる子供達には、「邪気を見つけたら、大人を呼んで『浄化』をかけてもらうように」と通達した。
「清浄化じゃだめなの?」と、どうやらその術を知っているらしい子供が、親に聞く。
お父さん魔術師が、「あれは、『自分にとっての清浄な状態』にする能力だから、『浄化』とは違うんだよ」と、答えている。
その話を聞いて、子供達は頷いていた。
騒ぎのもとであるディル君は、チームには参加させない事にした。
彼は、彼を庇護してくれる老人の家を巡らせて、按摩の仕事をしてもらっておいた。
「私も、何か村のために働けると良いんですけどね」と言いながら、お年寄りの背中のツボを押してあげていたらしい。
失敗を取り戻したいと言う気持ちは分かるんだが、あんたが関わると、村人の感情も逆なでするし、何より危なっかしくて、子供より手がかかるのだ。
お茶を沸かそうとする度にポットの蓋を吹っ飛ばす人は、可能な限り大人しくしていてほしい。
ディル君がまた暴走しないように、彼の話し相手として、うちの弟子を宛がった。
ディルの言動については、その時にクミンが聞いた話である。
「私も、『地系元素術』だけは誰にも負けないと思ってたし、『増幅と減少』の力だけは強いから、医術師に成ろうとしたし、実際医術師の免許も取れた。
だけど、重傷者を治すとなると、もっと他の元素術も必要なんだ。だから普段から練習を、と思って、細かい所から術を使うようにしているわけだ」
そう、少し自信ありげに話していたらしい。
「でも、四大元素術って、毎日使ってたら、疲れませんか?」と、クミンが質問すると、「だからこそ『地系元素術』があるわけだよ。自分の魔力量を『増幅』させておくと、体力以上に気力が長続きする。それで、強化した元素魔術を、生活魔法みたいに操れるように成ろうと……」と言って、ディル君は、彼なりに理論的な「元素魔術の日常的使い方の論法」を組み立てて行ったみたい。
根本として。強化版の元素魔術を生活魔法みたいに使おうって所が、まず間違えてるのよ。
例えてみると、メスで料理をしようとしているような……切れ味は滅茶苦茶良いけど、それ野菜を刻むものじゃ無いよと言う、発想のずれがあるのね。
それに、確かに気力が長続きすると、「疲れてない」って錯覚する事が多いけど、体力の方に無理をさせて魔術を使っても、正確に操れるわけがないでしょうに。
気力も体力もワンセットで「魔力」を発現して居るんだと言う事を覚えなおせ。基本から覚えなおせ。
地系元素術だけを武器に、医術師になった知識は確かにすごいけど、正確に操れなきゃ意味無いんだ。と言う事を、面と向かって言える日があったら言いたい。
その一週間後の事。
それまでは、ご老人達の家に寝泊まりさせてもらっていたディル君だけど、遂にその家でも、大ポカを連続でやらかしたの。
普通に按摩師として仕事をしていれば良い物を、もっとご老人達に尽くそうと、家事に手を出したんだ。彼風の元素魔術を使って。
ランタン明かりで充分明るい部屋の中に、でっかい光魔球を発生させて、それが二十四時間以上、燈り続けたり。
薪ストーブに着火するために指先から炎を出そうとして、薪ストーブ内部を大爆発させたり。この時は、安全対策のために備えられていたストーブ内の結界で、炎は外に出なかった。但し、一回使い切りの高額な結界代がかかったとして、ご老人の家族にすごく怒られたって。
普通は薪ストーブって爆発しないからね。
決め手は、オークス家と協力してやっていた、オレンジ果樹園の修復のための仕事の途中で、一休みする時、みんなの周りに「保温」を使おうとしたのだ。
「保温」って、ごく弱い魔力で、「お弁当を温かいまま取っておく」とかに使う魔術なの。
強化版元素魔術でそれを再現しようとしたら、すごく微細な力加減が必要なのね。一瞬も気を抜かずに、炭火で最高の焼き鶏を焼くような……まぁ、職人技になってしまうのよ。
勿論、休憩中に職人に成れるわけがなく。破綻した魔術が果樹園全体に広がって、人間が炙られるだけじゃなく、蘇生させた木まで弱り始めた。
みんな驚いて、「術の解除を!」って求めたんだけど、慌てちゃったディル君も、どんな手順で術式を組み立てたか忘れちゃって、術を解くまで三十分間、人間も樹木達も、サウナみたいな空気の中で、じっくり熱される事になった。
ここまでポカをやらかした元罪人を放置できないとして、ディルを連れた村長が、直々に私に頭下げに来たの。
「ディル・クラウンの命を許したのは貴女だ。この愚かな者を、どうか真っ当な魔術の道に導いてはくれないか」って。
うん。愚か者である事は、なんか知ってた。
家事をフルパワーの元素魔術でやろうとする奴には、家のフライパンの一つも触らせたくないので、私は自分の家の敷地の中に、小屋を建てた。
全体的には八畳くらいの敷地で、ロフトのある天井の一部は梁が見えるようにして、結界の役目をする布飾りを張っておいた。
ロフトの反対側は壁で間仕切りして、中にバスルームとサニタリーを用意した。
全体の壁には断熱材と防音材を入れて、明り取りの窓を設置し、白壁を塗ってもらった。何だったら広さ以外は、私の家より良い造りかもしれない。
玄関の鍵もかけられるようにして、家の中には薪ストーブを置いて、煙突も付けた。
明かりはランタンを使う事と、水源は井戸水なので、家の周りに除草剤を撒いたりしない事を住人になる人に言い含めた。
私がここまで手を尽くして、生活を整えてあげたのには理由がある。
「魔術を使わずに、まともな生活をしろ」と言う事を、暗に伝えたかったのだ。
年中魔術ばっかり使ってるから、魔力ハイに成っちゃってんのね、あのディル君は。
毎日、元素魔術を使わないと落ち着かないくらいの中毒状態を、どうにか解毒しようと試みたわけよ。
出来上がったタイル葺きの小屋を見て、ディル君は目を潤ませていた。「本当に、此処に住んで良いんですか?」って。
「うん。この家の中に居る間は、魔術を使わずに、充分休みなさい」って言うと、何故か拝まれた。
「ありがとうございます。この恩義には、必ず報います!」って宣言するので、「報いる思いがあるなら、まず、その目の下のクマが消えるまで、ゆっくり眠りなさい」って、至って普通の事を言い聞かせておいた。
「ありがとうございます。師匠!」って、平伏さんばかりにすんごくお礼を言うのは良いのだけど、何故か小屋の中から爆発音がするのは、暫く止まなかったわねぇ。




