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33.割ってはならない卵の中に

 大狼(フェンリル)歴二万五千三百二十五年 蠍座(スコルビウス)十六日目


 卵型の金属の殻の中で、ミニチュア人形達が喫茶店を開いている。その殻は半分だけ透明で、中を覗けるようになっているけど、その金属の卵を投げても、振り回しても、内部の人形達は働き続けるだけで、影響を与える事は出来ない。

 と言う細工を、熱心に作ってみたのよ。勿論、細工としても魔術的にも高度な技術が必要だったので、安価に売り出す事は出来なかった。材料費だけでも、一個で五コトンはかかっちゃう。プラス三コトン分は、魔戯力を込める時間の分と、次の細工に注ぎ込むための利益の出ない収入とした。

 ほとんど店舗に飾る観賞用として、卵祭りの間はずっと、その細工をクオーターズカフェのカウンターの横に置いててもらった。

 目ざとい子供が見つけて、「触らないで下さい」の表示を無視して手に取ろうとしたりしたけど、何倍にも加重されている卵細工は、子供の手では持ち上げられない。

「加重」は念のためにかけておいたんだけど、やっぱり訳が分かってないタイプの子供って、「面白そうな物を、何とかして自分の思い通りにしたい」って思うみたい。

 なんで、目の前でくるくると優雅にミニ人間達が動き回っている、「いかにも繊細そうな」細工を、手に取って振り回そうとか思うかなぁ?

 まぁ、そんな子供が増えて来た事を知っているから、術を掛けておいたんだけどね。


 卵祭りの期間、私はクオーターズカフェのバックヤードで待機してたんだけど、一個だけその卵細工が売れたのよ。

 私の手元にはちゃんと八コトン入って来て、「少しでもお金に成って良かった」と思ってた。

 だけど、「加重」の魔術を解いて、卵細工を購入者である親御さんに渡したら、その方達はそのプレゼントを子供に渡して……子供は、早速卵を振り回し、放り投げて遊び始めた。

「やめなさい! 壊れたどうするの?!」と、親御さんは怒ったけど、放り投げた卵を拾い上げた子供は、中身をじっと見て、「すげー。全然普通に動いてる~」って、は感心しているのね。

 親御さんもそれを聞いてびっくりして、「あの卵の細工は壊れないんですか?」って聞いてくるのよ。

 私は先々の事を予感して説明しておいた。

「世の中には、限度と言うものがあるのはご存じですね?」

「はい……」と、親御さんは委縮する。

 私はこう続けた。

「あなた方のお子さんが、あの卵を割ろうと言う冒険心を持たなければ、きっと中身も壊れないでしょう。最初から壊そうと言う気で遊ぶなら、何時かは壊れるでしょうね」

 そう言ってる側から、子供は手に入れた卵をカウンターの角に連打して割ろうとしている。

 親御さんは、卵を取り上げるでもなく、「やめなさい」としか声を掛けない。

「やだ!」って子供が主張すると、あっさり諦めて、「何時までも遊んでない。帰るよ」と、声をかけて、先に店を離れた。

 だけど、「絶対に置いて行くはずがない」と知っている子供は、まだカウンターの角で卵細工を連打し続けていた。

 最近の親と言うのは、子供と友達に成ってしまうから、中々躾がしにくいと聞くけど、あのご家庭もそんな感じなんだろうな。


 先日売れた卵細工が割れたそうだ。

 あの訳の分かってないお子さんが、頑張って頑張って、物理攻撃を仕掛け続けて、ついには「劣化」の術まで習得して、細工を壊したのだ。

 あーあ。私は知らんぞ。私は、ちゃんと警告したからな。限度があると。


 細工の細かい中身を確認した子供は満足して、ついでに細工そのものに興味を無くして、オモチャ箱の中に捨てたそうだ。

 それから毎晩、子供は「眠って居ると、誰かが体の何処かをつんつん刺す」と言う夢を見るように成ったらしい。

 その夢を見た日は、朝起きると、体の何処かに痒い場所が出来ていて、そこに手を触れると赤く血が滲んでいた。


 その異変を知った親御さんは、クオーターズカフェを経由して、私に問い合わせに来た。

 親御さん達は、「あの細工には、何か呪いがかかっていたのか」と聞いてきたけど、「いえ、呪いの類はかかっていません」と、私は答えた。「だけど、『彼等』も、彼等の喫茶店の中で『このように働くのだ』って言う指令を受けて行動しているんですね。それを邪魔されたり、ましてや大事なお店を破壊されたら、頭にも来るでしょうねぇ」

 親御さん達は息を呑んだ。

「『彼等』と言うのは?」

 私は返した。

「あなたのお子さんに、散々ひどい目に遭わされた、『彼等』です」と。


 私の所に問い合わせに来た晩、親御さん達は子供部屋の一角に水晶を置いた。

 違う部屋にある水晶から、子供部屋を確認して居ると、子供が眠ってしまった後、オモチャ箱の方から、カチカチと言う音が聞こえてきた。

 よく見ていないと分からないくらい小さい、例えるなら蟻のように小さい人形が、おもちゃ箱の底から這い出してきた。

 彼等は、箱の縁に這い出て来ると、卵細工の殻だった破片を、自分の着地地点である床に落とした。

 それから箱の縁を飛び降り、欠片を拾って、子供のベッドの方に移動する。

 やがて彼等はベッドのマットレスを上って、手にしていた破片を振りかざして……。

 親御さん達は、そこまで見た所で、子供部屋に急行した。


 手痛く「ちくっ」と刺された子供は、眠って居るためかそんなに大騒ぎもせずに、傷を掻いて腕を振り回し、彼等をマットレスの下に追い払った。

 親御さん達は、成すすべもなく、彼等に詫びを入れたそうだ。

「あなた達のお店を壊してしまってすまなかった。この子の思惑を知っていたら、私達はあなた達を購入するべきじゃなかった。私達は、子供は……子供は、もっと純粋な物だと思って居たんだ……」と、吐き出した。

 親御さんの絶望感がうかがい知れる、何とも悲惨な台詞よねぇ。


 親御さん達は、オモチャ箱の中に捨てられていた卵細工の喫茶店を、再建築する……つまり、修理する事にした。

 細工人形達から、どの柱や階段や照明、それからどの壁飾りが何処にあったかを聞いて、ピンセットとボンドで位置を決めると、「固定」をかけた。

 それから、元からかけられていた魔戯力を追跡して、「異地点接続」や「再現感覚」の術が使われていた事まで突き止めた。

 そこまでしっかり魔術を使える親御さんなのに、何故、子供に「そう言う高等な術を使っている大切な物」だと言う事を理解させられなかったのだろうか。

 ともあれ、魔術の型までしっかり再現した親御さんは、復元した卵細工を自分達の寝室に飾った。

 どうやら、それからはあの卵細工は本来の効力を発揮できたみたい。


 夢の中の片隅に、卵の形をした建物が登場したら、是非入ってみて。

 其処には、温かい食事と温かい飲み物を用意して、「彼等」があなたの訪れを待っています。

 看板には、あなたが今まで出かけた中で、最高だった喫茶店の名前が書かれているはずよ。

 懐かしい人と笑顔を交わして、トマトソースのパスタとホワイトソースのグラタンでも注文してみなさいな。

 あの親御さん達は、卵細工を寝室に飾るようになってから、夢の中で「恋人同士の時に訪れた浜辺の喫茶店」を何度も訪れるように成ったそうだ。

 喫茶店の形が卵型なの以外は、昔の様子にすっかり同じだったと、夫婦で語り合っていると言う。

 あのお子様も、「割れないように作られている卵を、絶対に割ってみせる」なんて言う変な所に熱中しなければ、「これから出会うかも知れない素晴らしい心のオアシス」の夢でも見れたかもしれないのにね。

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