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32.カボチャ祭りの翌朝の

 大狼(フェンリル)歴二万五千三百二十五年 蠍座(スコルビウス)八日目


 楽しいお祭りも昨日の事。

 今年のカボチャ祭りの出展物としては、鉄屑細工で作った手の平大の壁時計を用意したの。

 薬液で表面を鈍い色に発色させた金属の塊は、内側がつるつるぴかぴかの金属だなんて思えないくらい。

 庭道具のエイジングに関しては理解を示せない私だけど、薬液で金属を鈍い色にするって言う「風合い」は分かってるつもり。

 錆びているのと、色を鈍らせるのは、少し違うと思うのよね。


 クミンが甘い物が苦手だって事は去年で分かってるので、今年は彼のための「しょっぱいカボチャの料理」を用意したわ。

 主食は、薄塩味の蒸しパンの中に、ダイスに切ったカボチャを入れた物。塩カボチャ蒸しパンと名付けた。

 それから、カボチャのポタージュスープじゃなくて、ホワイトシチューに薄切りカボチャを入れてみた。

 これなら、そんなにカボチャの甘みを意識しなくても食べれるだろう。

 実際、去年はパンプキンパイで音を上げていたクミンだけど、カボチャ蒸しパンとホワイトシチューはちゃんと完食した。


 今年のご褒美(トリート)を配りに、ミアンの他にも数名の魔女達が私の家を訪れたわ。

 何時も通り、魔女の正装をしたミアンはカボチャを練り込んだクッキーを持ってきた。

 魔技術士のアリアナは自分の家で飴を煮詰める所をから作った、棒付きフルーツキャンディー。

 花屋のキノラは花の形に成型した、オレンジの色が鮮やかなチョコレート菓子。

 水魔女のハリオンは果汁を閉じ込めて砂糖でコーティングしたゼリー菓子。

 私は、家に来てくれた魔女達に塩カボチャ蒸しパンを配りながら、「今年は豊作だなぁ」なんて考えていた。

 アリアナの持ってきた棒付きキャンディーはオレンジの果汁と葡萄の果汁を使ったみたい。色味としては、オレンジと深い紫なんだけど、遠くから見ればオレンジと黒に見えなくない。

 ハリオンの持ってきたゼリー菓子は、プルルンとしているんじゃなくて、ぐにゃっとした固形で、噛んだ感じが「ねちねち」としていて、物凄く噛み応えがあるの。とても美味しいんだけど、すごく喉が渇いてくるのは事実。


 今年はクミンにも、持て成し(トリート)のためのお菓子細工を作ってもらったわ。

 彼は、甘ったるくないお菓子を考え出したみたいで、茹で卵の天辺にマヨネーズを塗って、半分に切って中身をくりぬいたトマトを乗せて、毒キノコに見せるしょっぱいおやつを作っていた。

「茹で卵の足元を平たく切るのが要点です」だってさ。

 ミアンや他の魔女達にも、しょっぱいおやつは珍しいものみたいで、赤い傘の小さなキノコを「可愛い」と言って手に取っていた。

 トマトの傘を剥がしてかぶりついたミアンは、「丁度良い感じ」と述べていたわねぇ。

 方々の家で甘い持て成し(トリート)を受けていると、水っぽくてしょっぱい物が食べたくなるのでしょうね。


 水魔女についてを少し書いておこう。

 森魔女と同じで、特殊な環境下で特殊な禁忌を守りながら暮らしている、とてもすごい魔術が使えちゃう人々の事。

 森魔女は、血を失った者の体にエネルギーを送り込んだり、四肢の欠損を起こした者の腕脚を生えさせると言う禁術が使えたりする。

 勿論、彼女達もその術を使うために、美しい肌に傷を作ったり、体の子供を産む機能を犠牲にする。

 禁術の事は、以前も少し触れていたけど、クミンが片腕を失った時も、森魔女達は私の一ヶ月分の言語と、自分達の中で禁術に触れられる者の体を使って、クミンの腕を作ってくれた。

 彼の腕を作ったのは、白い髪をした、胸元にタトゥーのある術師だった覚えがある。

 幾つかの儀式を終えた後、彼女は口から少年の腕を一本、吐き出した。森魔女達はすぐにその腕をクミンの腕と接合する術を使って、彼の腕に術師の胸元に書いてあった物と同じタトゥーを描いた。

 そのタトゥーが、水でも光でも退色しないように術を施した後、泉の水でクミンの体を洗い清めて、日陰に二十四時間放置した。

 それから、少年はようやく意識を覚ます事を許可されて、新しい腕の動かし方を練習し始めたのだ。


 話がそれたから、水魔女の事に戻すわ。

 水魔女は、名前の通りに水に住まう魔女。

 正確には、水辺の近くに家を持って、眠りに戻る以外には、一日の大半を水の中で過ごす。

 彼女達は先祖に精霊の血が混じっていて、皮膚が水に強くて、ずっと水の中に居ても、体温がそんなに下がらない。

 見た目としては、細面で、胸は小さくて、手足が長い。精霊の血が濃い者は、時々腕や指の間にヒレが発生している。先祖返りってものね。

 残念ながら、呼吸器官の作りは人間寄りの者が多いので、彼女達は一定時間潜水しては、獲物を捕らえて浮上して来て、水面に顔を出して呼吸をする。

 だけど、鍛えられている体の機能は強くて、一度深呼吸をすれば、四時間くらい潜水して居る事は可能だ。

 暖かい日の浅瀬に集まって、彼女達が明るい声を上げていると、「マーメイドを夢見た海の男達に見せてやりたい」と思ってしまう。


 水魔女達の特徴としては、森魔女と同じく「通常の魔術では補えない人体の異常を治癒する能力」に長けている。彼女達の特徴的な能力と言うと、口づけるだけで「五感」の働きを促したりできる。

 対象者の耳に口づければ耳が良くなり、瞼に口づければ目が良くなる。唇に口づければ、口腔機能が鋭敏になり、鼻に口づければ犬よりにおいに敏感になる。

 勿論、それらの能力を得られるのは、彼女達に心を許されて、「接吻」を得られるほどの信頼を得ている者だけだけどね。


 森魔女と違って、水魔女達はかなり好戦的だ。

 自分達を「狩り」に来る、幻獣密売の業者が近づいて来ると、容赦なく水を操って攻撃する。

 彼女達の「水の刃」で撃たれて絶命した密輸業者は、魔女(チャーマー)村の人々の手によって、沼に埋められる。

 毒ガスを吹き出す危険な沼に葬られることが多くて、ガスマスクをつけている葬り人を見つけると、「また密輸業者が来たのか」と、分かってしまうくらいだ。

 何故、毒沼に葬るのかと言うと、密輸業者と言えど、人間が失踪したとして、探しに来る人間と言うものは居るので。

 その人間達に捜索を諦めてもらうためにも、人が簡単に寄り付けない毒沼に葬り去るのが「ベスト」なの。


 水魔女の中でも、先のハリオンのように、魔女村の催し物に参加する者が居る。そう言う所は、森魔女と同じね。

 それだけカボチャ祭りが大きなお祭りであると言う事もあるんだけど。

 カボチャ祭りの間は、村のはずれで大きな焚火が作られて、みんなその火に近づいて温まる。その炎は悪しきものを浄化すると言われていて、祭りの終わり頃になると、焚火からトーチやランタンや蠟燭に移した炎を、各自の家に持って帰る。

 村の所々にある「火皿」の中にも、その炎が燈されて、焚火のある場所まで移動できない村人は、その「火皿」から、聖なる炎を自分達の家に持ち帰る。

 私も、カボチャ祭りの間は在宅派だから、近所にある「火皿」には大分お世話になっている。

 焚火や「火皿」から聖なる炎を受け取る時、顔を合わせた魔女達は「良い眠りを」と囁き合う。

 昔の習慣では、蠍座(スコルビウス)の八日目は、一日眠って過ごすものだったからなんだ。

 だけど、現代ではその八日から「卵祭り」が始まる。

 商いをしている物としては、逃してはならない商業のチャンスなのよ。

 そんな訳で、私も早起きをして祭りに備えている。プリムの店とのコラボレーション商品もちゃんと作ったわ。

 ああ、どうか、売れて下さい!

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