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アリス嬢の細密画

 真夜中の広場近く。川岸に青年が立っている。少し前屈まえかがみになって石を投げた。弧を描き、水面にふれ、どんどん川の上を遠ざかってゆく。気持ちよいほど完璧な石切りだ。


 ヴェラは巨大な日時計の前に立って、青年が繰り返し石切りするのを見守っていた。


「会ってきたかい?」

 ジャックが不意に振り向いて質問する。


 ヴェラはジャックが手に取った石をぽちゃんと水に捨ててしまったのを見て、隣に座った。石だらけの川辺は座るとちょっとお尻が痛い。


「私、レオナルドにぴったりな花嫁を見つけたと思うわ」

 ヴェラは嬉しくてたまらない、という風にジャックを見上げる。


 ジャックはよかったね、とヴェラの隣に腰をおろした。心地よい静寂が広がる。川の黒い水面みなもには星空がうつっていた。


「アリスって素敵なお嬢さんよ。見事な金髪に優しくてお淑やかで。それに綺麗きれいなの。レオナルドに肖像画がないのが残念ね」


 アリスは早速ヴェラの贔屓ひいきになったのだ。ジャックは幸福そうに目を輝かせている彼女を盗み見て、そんなことを思う。


 ヴェラはいつでも花嫁候補の女性たちに親身になって話を聞いてあげた。どんな依頼人の仕事にも真剣に取り組んだが、とりわけ依頼人が贔屓の女性の時には、苦労をいとわない。

 この調子だとヴェラはどんな手を尽くしてでもレオナルドとアリスの縁談を成立させようとするだろうな。


 ヴェラはお祖母ばあさんに渡されたロケットの中の細密画をジャックに見せた。亜麻色の髪に、困り眉のまんまるな茶色の瞳、細い顎……。可愛らしい顔をしているが、薄幸そうな印象はぬぐえない。


「可愛らしいお嬢さんだね」

 ジャックが感想を伝える。


「このロケットをカールソンの家の人たちに贈るの。きっと気に入るはずよ」



 あくる朝。ヴェラは屋敷の執事に言われた通りに、広大な庭の池までやって来た。空色のタイル張りの池には金魚が泳いでいる。


 白髪の老人が金魚に餌をやっていた。


「孫の花嫁は見つかったか?」

 カールソンの爺さんが背を向けたまま聞く。


「アリス・ミルトン嬢の細密画です」

 ヴェラはロケットを開いて老人に差し出した。


 老人が胸ポケットからルーペを取り出して見る。フサフサの眉毛が派手に動いた。


「金髪の娘は好かんよ。尻軽女だからな。歳はいくつかね?」


 老人はアリスと孫を引き合わせないのかもしれない。


「十八歳です。レオナルド様は二十一でしたよね?」


「そうじゃが」

 老人は頑固そうに首をふって、深いため息をついた。

「十八とは。若すぎるよ。二十はこえてないといかん。ただし、レオナルドよりも歳上では困る」


「お祖母様は財産家で、気立ての良い令嬢です。サイナヤ地方では一番の花嫁候補でしょう。大変美しい方ですわ」


「いいだろう、いいだろう。お見合いさせてみるよ」


 ちょうどレオナルドが庭の階段の上に現れた。二人に気づいて、駆け降りて近くにやってくる。足の長い金髪の青年だ。


「レオナルド、いいところに来た。この娘をどう思うかね?悪くないだろう?」

 老人が青年にロケットを投げてよこす。


「スワン嬢ですか?」

 レオナルドが戸惑いの表情を見せた。


「アリス・ミルトンじゃ。そのロケットの中の細密画だよ」

 老人ががなり声で言う。


 レオナルドはロケットを開くと、微かに眉根を寄せた。

「世の人はこういう方を美人というでしょうね」


 曖昧な、思わしくない返事だ。はてどうしたものか。珍しく、ヴェラの読みがはずれてしまった。アリスを気に入ると思っていたのに。


 老人は不機嫌で顔を赤くして、お前はこの令嬢と今度会うんだぞ、と言った。

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