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王妃殿下のご厚意で……

 うぐいすはご機嫌に歌い、雀がチュンチュンと鳴いている。窓からは黄金色の光が差し込んできて、ヴェラの白い、石膏せっこうのような頬をほんのり赤く染めた。


 朝だ。一日が始まった。大きな欠伸をして広いベッドから出る。ベッドの上にはクッションがいっぱい。エメラルドグリーンのカーテンが天蓋付きのベッドにかかっていた。

 ひらひらのネグリジェが歩くたび、ヴェラの体にまとわりついては、ふんわりと揺れる。


 玄関の方から物音がした。物音には気をとめないで、キッチンの食卓に朝食を並べ始める。ジャックが早めにやってきたのだと思ったのだ。彼は合鍵を持っていた。


 こんがりと狐色に焼けたトーストに苺と生クリーム。カリカリに焼いたベーコンと搾りたてのミルク。

 なんて気持ちのいい朝だろう。外では鳥の歌声が聴こえ、家の中はジャスミンの香りで満ちている。


 不意に玄関の物音がやんでいないことに気づき、トーストにマーマレードジャムを塗る手を止めた。こっそりと窓から外を偵察する。


 扉の前で王妃が立ち尽くしていた。お城にいる時の豪華なドレスのまま、戸惑いながら。サファイアの冠までかぶっている。


 王妃が素朴な農村に変装もせず、護衛もつけずに立っているのはちょっと滑稽な光景だった。


 王妃は今キッチンのテーブルに座って朝食を食べている。

「見ない間にすっかり美人になったのね。背も伸びて……。ひょっとしたらアラスターよりも大きいんじゃないかしら!」


 もちろんそれは誇張だった。ヴェラの背が高いというのは、一致する見解だけれども。


「あなたにお話があって来たのよ。紹介したい人がいるのよ。ある立派な方なの。若い騎士でね、ハンサムで財産もしっかりとした方よ」


 ヴェラは面食らって、言葉を失ってしまった。縁組み人に縁談をもってくるとは。


「王妃様、ありがたいお話ですけれど……」


「まあ断らないでちょうだい!」

 攻撃的ともとれるほどの熱心な親切さだ。

「どうか遠慮しないでくださいな。こんな美人なあなたですもの。結婚しないでいるなんてもったいないですよ。幸せにならなくちゃ」


 あまりに高圧的な親切心といきおいに、ヴェラはしどろもどろになってしまった。それで知らないうちにお見合いを承諾してしまったのだ。


 王妃を送り出した後、ヴェラは玄関口で物思いにふけりながら立っていた。ネグリジェが風になびいて、ヒラヒラと揺れている……


 結婚なんてするつもりはないのだ。私は一人で生きていけるし、誰かを愛することで傷つくなんてことはないから。

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