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嵐の和解

 ヴェラはジェニーについて、特に何も言わなかった。ジェニーに会うようにとか、彼女が困っているとか、そんな類いのことをだ。


 二人の訪問客が帰った後、ボブは犬たちに餌を与え、しばしジェニーのことを考えた。犬たちのことで喧嘩別れしたあと、ジェニーには一度も会いに行っていない。そもそもジェニーのほうから別れを切り出したのだ。ボブが理不尽だと抗議しても、話を聞く様子はない。

 ジェニーはもう顔も見たくない、と言った。


 最後の説得を試みて、彼女の家の扉をドンドンと叩く。廊下の小窓が開いたかと思うと、猫がシャーっと言いながら飛び出してきて、ボブの額に赤い線を描いた。鋭い痛みが走り、血がしたたる。


「ラーヤ、いい子ね。さあ、うちに戻ってくるのよ。狼男に襲われるといけないわ」


 ジェニーは小窓から無慈悲な様子でそう言い放つのだった。


 あれ以来、ジェニーの姿をチラとも見かけていない。アニー・ブルックは何回かやってきて仲直りするように説得しようとしたけれど、ボブの心は動かなかった。もう一度猫に襲われに行く気にはならなかったのだ。



 それなのに今、いつの間にか犬たちと家を出て、彼女の暮らす村へ、彼女の家へと向かっている……


 村人たちは木こりのボブに親しげに挨拶をした。おや、こんな時期にここらまで出てきたのかい。珍しいねぇ。どういった風の吹きまわしかい?

 

 雨がちらつきだす。ボブはジェニーの家の前まで来て、立ち尽くしてしまった。来たはいいものの、何をどうしたものか思いつかない。本当を言うと、特に計画なんてなかったのだ。家の前に来たらジェニーの姿を見られるのではないか、淡い期待を抱いていただけ。


 犬たちだけは村人に注目してもらえて、嬉しそうだった。雲行きはみるみる怪しくなっていく。風は湿って強くなり、雷が遠くでゴロゴロ鳴る音が聴こえてきた。嵐がやってくるのだ。


 どこか雨をしのげる場所に避難しなければならない。ちょうど通りをジャックとヴェラが並んで歩いているのが見えた。ジャックと一瞬目が合う。ヴェラに何やら耳打ちをした。すると二人は足を速めて、どこかへ行ってしまう。あの二人はボブを避けたのだ。


 腹立たしかった。家々はどこも嵐を恐れて閉め切っている。アニー・ブルックがこちらに気づいて突進してきたので、ボブは逃げるようにして手近にあった扉を叩いた。ブルック夫人とその子どもと一晩中、同じ屋根の下で過ごすなんて想像もしたくもなかった。


 予想に反して、家の扉が開く。


 ボブはびしょ濡れになりながら釈明した。

「申し訳ありません。でも、家が遠くにあって犬は怖がるし、どこか避難する場所が必要なんです。嵐がおさまるまで泊めてくれませんか」


 女の顔をまともに見てびっくりした。ジェニー・キャロルの家の扉を叩いていたのだ。

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