婚礼を祝って
婚礼の日の朝、ミルトンの婆さんは鷲の剥製に囲まれて、アリス嬢の成長ぶりを振り返ってみるのだった。柄にもなくしんみりとしてしまい、一人エヘンと咳払いをする。
子どもたちが結婚するのだ……
時の流れの早いことよ、不思議なことも起こるもんだ……
あの金髪の若者が結婚の許可をもらいに来た時、婆さんはやはりこの書斎に座っていた。よっぽど門前払いしてやろうかとも思ったのだ。あの娘に公衆の面前で恥をかかされておいて、のこのこやってくるとは。とんだ優男だよ!
レオナルドは落ち着いた口調で、けれど目の奥に敵愾心を燃やしながら説明した。自分には与える富も財産もないが、アリス・ミルトンを愛してる。そして彼女も自分を愛している。もし結婚を許可してくださらなければ、駆け落ちすることになるだろう。
アリスは本気でこの若者を愛してるのだ。結局、彼女は婆さんが思っていたほど子どもではなかったということか。隠れてカールソンの孫息子と手紙のやり取りをし、遂には婆さんを置いてけぼりに、結婚の計画まで立ててしまった。
婆さんはシミの浮かぶ唇を歪めたかと思ったら、大口をあけて笑い出した。初めはクックッと、しまいには腹を抱えて。金歯が三つ見える。
レオナルドは不快げに目をしばたいたが、返事を促さず、礼儀正しく笑い止むのを待っていた。
「いいだろう、あんたはうちの婿になるんだね。まったく、アリスには一杯食わされたよ」
ところが、婆さんが笑ったわけは他にもあった。仕切り屋の婆さんは街で起こることは全て知っていなければならない。バーナード・カールソンが破産したという知らせが、いち早く婆さんの耳に入っていたのだ。レオナルドはアリスと結婚することで全てを失うと思っている。が、実際にはカールソンの名前以外失うものはなく、多くを手に入れることになるのだった。
婆さんは青年の鈍感なまでの高潔さを笑い、アリスへの直向きな愛情を評価した。ひょっとしたら、この青年は全財産を奪い取られてしまうかもしれない。だが、間違ってもアリスの心を誰かに盗まれることはないだろう。孫娘のアリスを守り損ねることもないだろう。
扉が遠慮がちに開き、アリス・ミルトンが入ってきた。薄紫のドレスに、美しく結い上げた金髪を真珠のティアラで飾っている。手には白のヴェール、ピンクの牡丹とすみれの花輪。
この娘のこぼれんばかりの美しさ、清らかさ。どれほどアリスを愛していることだろう!
「お祖母様、婚礼が始まるわ。私たちを祝福してくださるでしょう?」
アリスが館の女主人の顔をまんまるな目でのぞきこむ。
すぐに善良そうな顔が心配でくもった。
「もちろん祝福するよ。まったく、川に飛び込んだときの威勢はどこに行ったんだい?あんたがこの結婚を勝ち取ったんだよ」
婆さんはそう言って孫娘の頬にキスしてやる。
アリスは恥ずかしそうに笑った。老人は孫娘の髪を一房撫でつけると、頭にヴェールをかけ、花輪で可愛い顔を飾る。
「お前は幸せだよ」
そんなことを言った。
子守唄をうたうよう、嘆くように静かな声で……
誓いの言葉。新郎の後ろで、ホーホー、ポポーっと鳴きながら白鳩たちがひまわりの種をついばんでいる。新婦はまぶしいばかりの笑顔を見せて、花婿にキスした。鐘がなり、鳩たちが青い空へと飛び立ってゆく。
披露宴には大勢の客がやってきた。縁組み人のヴェラとその相棒のジャックも、遊び人のジャン=ポールも伯爵夫人も乞食も、山羊も羊も、とにかく大勢。
枝豆スープが食事に出された。
「お前の好きなのを出してやろうと思ってね」
婆さんが言う。
「お祖母様、実は私枝豆スープは嫌いなのよ」
アナベル・ミルトンはヘッヘと皮肉な笑い声をあげた。まあ、人生ってこんなものだ。つまり、孫娘の結婚とともに新しい生活が始まるのだ。それだってそんなに悪くないじゃないか。
さて、バーナード・カールソンは破産して礼金を払えなくなってしまったので、スワン嬢への支払いはアナベル・ミルトンが引き受けた。婆さんは辛辣だが吝嗇ではない。
一方アリス・ミルトンは、誕生日にもらったお人形とミニチュアのベッドをヴェラに贈ったとか。
カールソンの庭園は公園となって皆に開放された。アリスとバーナードは和解をしたようだ。
「最低でも二人は子どもを産まなければなりません。バーナードお祖父様に、最初に生まれた男の子はカールソンの名前を継がせると約束してしまったのです……」
手紙にそんなことを書いてきたけれど、悲哀の色はまったく感じられなかった。