表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/32

7話 ドラゴンを1000体配置すれば勝利なのでは?

「よし、じゃあ早速だけど、このダンジョンのコンセプトを……」


「それよりも聞きなさい。私、凄いことを思いついたのよ」

鼻息荒く、自信満々に俺の話を遮るのはポンコツロリ魔王だ。


「ダンジョンの目的は、勇者を倒すことよね? それだったら簡単よ。こうするの」

一瞬、間を置いて次の言葉を溜める。


意図的に静を生む、というのはプレゼンをより前のめりに聞いてもらうための常套手段だ。

普段はアホだが、魔王という人の上に立つ肩書を持っているだけのことはある。

これを何も知らずにやっているのであれば、中々の天性の才能だ。

実際、リザとハピたすの視線はローゼリアに注がれ、次の言葉を今かと待ちわびている。


「ドラゴンを入口に千匹ほど配置するのよ。そうすれば何もダンジョンなんか作らずに、入る前に勇者たちはイチコロどころか、センコロよ!」


俺はガクりと肩を落とした。


このダンジョンの懐事情はまだわからないが、ローゼリアは人件費という概念を持ち合わせていないようだ。

そんなたくさんのドラゴンを一体どうやって連れてくるんだ、という言葉が喉を通りかかる前に、感銘を受けたハピたすが目を輝かせる。


「わぁ、ロゼちんスゴイ! 天才だよ~」

顔の前でパチパチと小刻みに拍手をする。


「ふふ、そうでしょ。だって私は大魔王になるんだから。当然よ」

得意げに腕を組み、ちんまりと尖った尻尾がゴキゲンに左右に振れる。


「まったく他の魔王がこんなことに気づかないなんて、ナマクラどもの集まりね」

ボンクラの間違いだろ、というツッコミをする気力は既に失われていた。

このレベル感では、俺は一体どこからプロジェクト改善をしていいか途方に暮れていた。


「ロゼちん。ウチも思いついちゃった……!」

「何? 言ってごらんなさい」

「ダンジョンの床をさ、全部トラップにしちゃうの。ほら、そしたら歩くたびにダメージ入って、勇者たちのHPもサゲサゲになる的な?」

「ハピたす……」

「あはは。なんてね。これはさすがにダメか~」

「アナタも天才よ! 早速それも準備をしましょう。万が一の二の矢ってやつね!」

「二の矢ってのはちょっとわかんないけど、気に入ってくれてよかったよ~。ロゼちん、いぇーい!ハイタッチ~!」

ぱんっと小気味の良い音が洞窟に鳴り響く。


盛り上がる二人を他所に俺はただただ頭を抱えていた。状態異常になりそうだ。

こんなんで本当にダンジョンが開発し終わるのかがまったく想像もつかない。


「はぁぁ〜、二人ともポンコツかよ、って何をしてるんだ。リザ?」

一人、小難しい顔をして手元の紙で計算しているのはリザだ。

話している内容を一生懸命にメモを取っている。


「リザ。何をやってるんだ」

「えっと。二人がいま喋っていたことを試算するとどれくらいになるのかなって」

「その紙、ちょっと見せてもらっていいか」

「はい。どうぞ」


ドラゴン……百五万ゴールド / ひと月

人数……一〇〇〇体

合計……十五億ゴールド


「ちょっと相場感がわからないんだが、この百五十万ゴールドってのはどれくらいなんだ?ちょっと野暮かもしれないが、たとえば、リザやハピたすの場合だとどうなる?」


「ハピちゃんのことは分からないですけど、私は十五万ゴールドで契約してます」

「新卒とシニアスタッフの人件費みたいな感じだな」

「しんそつ? しにあすたっふ……ってのは何ですか」

「ああ、すまん。気にしないでくれ。このダンジョンの経済状況……つまり、おサイフ事情はわかるか」

「はい、ちょっと正確なところまでは出せてないのですが、おおよそなら」

「教えてくれ」

ローゼリアとハピたすの議論が盛り上がっているので、リザは俺にそっと耳打ちする。


「なっ!? もうそれっぽっちしかないのか」

「はい……」

「その情報はあの二人は知ってるのか」

「いえ、まだ知らないです。私がそれを言っちゃうと、ロゼちゃんとハピちゃんのアイデアの可能性が狭まっちゃうかもしれないし、それに……」


「それに?」


「私がなんとかすれば、どうにかなるかもしれないですし」

なるほど、リザはわりと見えているが、あまり自分の意思を表現するのが上手くないのかもしれない。

それに、わりと自分で抱え込みがちなところもある。


「ロゼちゃんとハピちゃんは凄いんです! 自信があって。私はアイデアを出すのが苦手で。でも、あの二人はどんどん案が出てきて、会議の場が盛り上がるんです!」


「なるほどな。でも、この会議はあまりいいところに着地しないと思うぞ」

「え?」


「まあ、今日はまだ初回だし、ちょっとこのまま様子を見てみようか。失敗から学ぶことも多いしな」


相も変わらず、ローゼリアとハピたすは、やれ巨大な落とし穴をダンジョンの前に掘るだの、やれバナナトラップで勇者を捕えるだの、まるでロクなワードが聞こえてこないが、大いに盛り上がっている。


ーーそして、一時間ほどが過ぎた。


「そろそろ頃合いだな。ローゼリア、ハピたす。いい案まとまったか?」

「ヨッシー、よくぞ聞いてくれたねぇ~」

「ふふ。聞いて驚きなさい」

「よっ! ロゼちん! 言ってやって!」


「ふふ。まずは一の矢としてダンジョンの前に巨大な落とし穴を掘るの。それからダンジョンの入口には千体のドラゴン。それに、さらに保険をかけてダンジョンの中をすべて罠の床にするわ!」


洞窟内にローゼリアの声がぶつかっては反響する。


「ヨッシーたら、驚いて、ぐぅの音も出ないんじゃない?」

「じゃあ聞くけど」

俺は深く息を吸い込んではそれをはぁ、とため息交じりに吐き出した。

「まず一つ目。そのドラゴンの人件費っていうのはいまの経済状況と合っているのか?それに、どのドラゴンでもイイっていう訳にもいかないだろう?採用はどうするのか」


「うっ……! 痛いところを突くわね。それは私の友人のツテで」

「ツテで採用したとしよう。それで、イッキに千体がやってきたとして、その各ドラゴンの役割はどうするんだ?誰がまとめる?常に勇者が来るわけでもないんだから維持費もかかるだろう」


先ほどまで活発に動いていたローゼリアの尻尾がしゅん、と垂れる。


「この案はボツだな」

「……ぐぅの音も出ないわ!」


「次に二つ目。ハピたす!」

「はい!」

責められるのを察知したのか、ハピたすの背筋がぴんとする。


「さっき、ダンジョンの床を全部を罠にするって言ってたな?」

「う、うん。そうだけど」

「全部が罠のダンジョンなんてそもそも勇者が来たがるのか? 罠は油断しているところにピンポイントで仕掛けるから意味があるのであって、最初から罠だらけのダンジョンなんて警戒されるに決まっている。そんな見るからに危ないダンジョンは、そもそも攻略されないんじゃないか」

「うぅ……たしかに、ヨッシーの言う通りかもしれないね」

「というわけでだ。会議でアイデアを出すのは結構だけど、アイデアにも良し悪しがあるんだ。ということで、改めて、現状把握した上で、コンセプトを立てようと思う」


「「こんせぷと?」」

初めて聞く用語に戸惑う魔王とモンスター娘たち。


「ヨシヒロ。私は、『こんせぷと』ってのは知ってるんだからいいんだけど、リザとハピたすにもわかるように、なるべくちゃんとかみ砕いて説明しなさい」


目が左右にきょろきょろと泳いだ魔王は居心地が悪そうに命令してくる。

魔王という立場である以上、メンツをつぶされたくない、という気持ちはわかる。


「コンセプトは、要するにいろんなアイデアをまとめる核となるものだ。迷ったときに、そのアイデアがコンセプト実現にぶら下がっているか、を考えると迷いにくくなる」


「それなら勇者を倒す、はコンセプトじゃないの?」

「うん。倒すというのは、たしかに目的ではある。だけど、コンセプトはもう少し具体的に絞った方がいいんだ。というのも、倒す!だけだとちょっと広すぎるんだ。さっきのドラゴン千体やダンジョンが全部罠っていう良くないアイデアが出てきてしまうから、実現性がない」


「それってどういうこと?」


「さっき、アイデアにも良し悪しがあるって言ったよな。あんまり良くないアイデアってのは、あくまで、机上の空論、つまりネタ止まりで実現性があまりないんだ。もちろん、さっきのドラゴンが千体とかから生まれるアイデアもある。でも今は時間もお金もないわけで、ドラゴンはあまりいいアイデアじゃないんだ」

「悪かったわね。どうせ魔王のクセに貧乏ですーよだ!」


責めているわけではないのに、魔王は拗ねてしまった。きっと心当たりがあるのだろう。


「だから、俺がオススメするのは、このダンジョンが置かれている状況を正しく理解することだ。ここは火山のダンジョンなのに、氷山につくり変える、ってのはムダだってわかるだろう?」

「氷山はフローゼみたいでイヤよ」


「まあ、なんとなく割にあわなさそう、ってのは伝わるだろ?というわけで、まだちょっとピンと来てないかもしれないけど、現状把握をしつつやってみようか」


「ウチはなんとなーくだけど、わかるかも」

沈黙をしていたハピたすが開口する。


「あまり上手くコトバにできないんだけどさ。絵を描く時って、描きたいものを最初にイメージしてから、キャンバスに筆をおろすんだよね。何を中心にして描くか、どんな印象にしたいか、みたいな」

「うん。きっと、ハピたすのその感覚は近いんだろうと思う」

「ハピちゃん! ふ、ふ、筆おろすとか恥ずかしいよぉ……!」

「え、リザっち。どうしたの? そんなに耳を真っ赤にして。ウチ、なんか変なこといったかな」

「ななな、なんでもないよぉー」


そう言い残してリザはぴゅーっと駆け出してしまった。


どうやらちょっとえっちなワードに敏感らしい。


「でも、ヨシヒロ。現状把握といっても何をしたらいいの」

「それだけど、心配ない」

「どういうこと?」

「リザがまとめているっぽいんだ」

「え?リザがそんなことをしてたの? あの子が?」

「知らなかったみたいだな。まあリザをつかまえて聞いてみたらどうだ?」


そんなこんなでリザを探すことにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ