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4話 魔王からは逃げられない

俺は自分の命を守るため、魔王の元ではたらくことになった。


しかし、まずは何事も情報収集しないことにはどうしようもないので、俺はヒアリングをすることにした。


「まずはこの世界のことを聞かせてくれ。魔王様はなんでダンジョンをつくってるんだ」

「決まってるじゃない。勇者を滅ぼすためよ」

ローゼリアという魔王のロリっ子はさも当然かのように即答する。


「思ったんだけど、ダンジョンなんかつくらずに、勇者をピンポイントで倒せばいいんじゃないか」

そうだ、目的は勇者を倒すことだ。

ダンジョンは目的を達成する手段なんだから、そこに拘らなくてもいい。魔力もすごそうだし!


「それは無理な問題ね。勇者は一人じゃないの。数百、それこそ数千人はいるわ」

「なっ!? この世界の勇者は随分と多いんだな。それでローゼリアが率いる魔王軍は何人くらいいるんだ?」

「いまは、三人よ」

「少なっ。それでも魔王かよ」

「仕方ないじゃない。今日みんな辞めていったんだから」


がっかりだ。どうやらこの世界の勢力図的には、魔王軍が劣勢らしい。

そして、今日辞めていったという明らかにワケがありすぎる状況。


「勇者は数千人ってことだけど、他に味方とかいないのか」

「味方ね。残念ながらいないわ。他にも魔王はいるけれど、みんなライバルなの」

「どういうことなんだ?」

「この魔界は大魔王様を筆頭に、各地を魔王が統治をしているの。私はこのブレイズ火山地方の担当。それで大魔王様は先日、こういったわ。より多くの勇者を倒した者を次の大魔王にする、ってね」



「より多く?どうやって数えるんだ?」

「まあ、ついてきなさい」

ダンジョンの地下へと続く階段を降りていく。



そこには赤い球体が脈打っていた。

「これはダンジョン・コアよ。ここに、倒した勇者の数が刻まれていくの」

そこには、赤い球体に二十六という数が刻まれていた。

こんな辺鄙なところでも勇者がやってきては倒されるらしい。


「大魔王になるには、そうね。勇者を千人は倒したいところね」

いろいろわかってきた。今は大魔王を決める戦いをしているわけだ。

重要な指標となる数値(KPI)は、勇者討伐数ということになる。


競争を煽り、ヒエラルキーの頂点に向かって走らせるのはどこの世界でも同じなのだろう。

まるでソシャゲのランキングのように。


「で、ローゼリアも大魔王になって魔界を我がものにしたいと」

「ローゼリア様ね。様をつけなさい。これで、二回目よ。大魔王になる時に願いが叶うと言われてるわ」


ん。もしかして願いが叶えば、俺も元の世界に帰れる?

というか俺も人間なんだし、ここから逃げ出して人間たちに助けてもらえばいいのでは。


「ちなみに、人間たちはどこにいるんだ」

「”ゲート”の向こう側よ。魔界と人間界をつなぐ異界への扉。人間たちはそこからやってくるの。ふだんは閉じているけどね。魔界自体が勇者たちの力で封印されているから、こちらから、人間界に行くことはできないわ」


マジか。一方通行多すぎかよ。


「ちなみに、アナタは私の眷属だから、どこに行こうとしてもバレバレよ。逃げようなんてバカな真似は考えないことね」

バレとるがな。しばらくは、協力して様子見するしかないのか。


「さっき、三人って言ってたけど、ダンジョンってそんな人数で大丈夫なのか? ふつうはどれくらいの人数でつくるものなんだ」

「大丈夫かどうかというと、大丈夫じゃないわ。それに、ダンジョンなんか作ったことないから、わからないわよ」

「おいおい。マジかよ。なんでこんなことになってるんだ」

「それは……。先代が勇者に滅ぼされたからよ。だから、私が引き継いだの」


声を落とすローゼリア。

前任が取り散らかした状態で急にいなくなって、引き継いだというのはちょっと同情はできる。


「あいつらのせいで、どれだけこの魔界が酷いことになったか」

「あいつら?」

「詳しいことはいずれ話すわ。ただ言えることは勇者は略奪者よ。私たちが積み上げたものを壊し、奪っていく」

「奪っていく?どういうことなんだ」

「言葉の通りよ。ダンジョンの宝箱を奪っていったり、モンスター娘たちを倒されて経験値やゴールドを奪われるわ」

「宝箱? なんで宝箱を置く必要があるんだ」

「はぁ……。アナタ、本当に賢者なの? 何も得のないダンジョンなんて選ばれるわけないじゃない」



なるほど。ゲームの世界でダンジョンに宝箱が置かれてるのってそういうことなのか。



「つまり、勇者たちが来てくれるように目の前にニンジンをぶら下げるっていうことか」

「そうよ。勇者呼び込み大作戦よ」

急にチープなネーミングだな。


「なるほどな。なんとなくわかった。ちょっと整理したいから外の空気を吸ってきてもいいか? ローゼリア”様”」

「ようやく自分の身分が理解できたようね。別にいいわよ。私は器が大きいの。空気くらい、しこたま吸ってきなさい」

あれ、もしかしてチョロい感じか。そして相変わらず、文言が謎チョイスだ。

俺はこれまで得た情報を元に一度、状況を整理することにした。



まず、魔王軍は劣勢だ。

他の魔王とはライバル関係にあるから協力はむずかしい。


次に、勇者だ。

たくさん倒せば、大魔王になれるチャンスがある。


大魔王になれば願いが叶う。つまり俺も元の世界に帰れるかもしれない。

そして勇者を倒すには、フィールドで構えて全域的に叩くよりも、局所的にダンジョンを構えて戦うのが比較的効率がいい、ということ。


ダンジョンに誘い入れ、トラップやモンスターと戦わせた上で弱らせてから倒す。

ただ、誘うにはただつくるだけではダメで、宝箱やレアモンスターなど勇者がやってくるだけのメリットも必要ということだ。

考え事をしながら、まだ未完成のダンジョンの通路を歩いていると、曲がり角で何かにドンとぶつかった。



「あでっ」

「痛てて。な、お前は魔族か!」

冒険者風の出で立ちをしたその男は、すぐさま後方に跳び距離をとった。

腰の鞘に手をかけ、剣を抜くと、俺に切っ先を向け構えた。


「いや、ちょっと待って。俺は魔族じゃなくて、異世界で迷子になった哀れな開発者で」

「カイハツシャ? 何を訳のわからないことを言っている? 人間の額からツノが生えてたまるか! 覚悟しろ悪党! でやーーー!」


「わー、ちょっとちょっと! ってツノ?」

額のあたりを触るとたしかに、つん、ととんがったものが生えている。

こちらの世界にきた時に人間ではないものになってしまったのか。


「焦るのよくないって。勘違いだったらどうする? 人殺しになるぞ!」

「ううむ、たしかに」

人殺し、というのに反応したのかその冒険者は一度、剣の構えを解いた。

素直かよ。


「こんなに弱そうな魔族は、見たことないな。それにこんなみすぼらしいところに魔族がいるのもおかしいか」

いや心の感想が漏れとるがな。素直さが沁みるわ。


「実は自分も、目覚めたらこんなところにいて。まだ何が何だかよくわからず困ってて」

「何? 困り人か! じゃあ、我が国にくるか」

「え、いいんですか」


ラッキーすぎる。これも日頃から、がんばって仕事をしていたからだ。

このまま人間界に連れて行ってもらい、保護されてハッピーエンド?


「おぬし、名前は?」

「ヨシヒロです。井ノ上ヨシヒロ」

「ヨシヒロか。変わった名前だな。我が名は、ローラン。勇者である」

ローランという男は首元にあるブロンズ色のプレートをぐいと取り出し見せつけた。


「おお、勇者!」

これが勇者。初めてみたぞ!


「勇者ローランの名の元に、汝の保護を約束しよう。さぁ、行こう」


これでこんな薄汚い洞窟ともおさらばだ。

短い間だったけど、魔王に囚われてから脱出という貴重な体験ができてよかった。

ファミコンのロールプレイング・ゲームの姫様気分だ。

次のゲーム内のイベントのネタにでも活かそう。

しかし、そう思うのも、つかの間だった。


「来たわね。勇者」

「な! その出で立ちはインプか?」

そこには腰に腕を当てて仁王立ちする小さな魔王がいた。


「違うわ! 私はこのブレイズ火山の魔王、ローゼリア・コリアンダリウス・フォン・フェネクス。同胞の怒りをくらいなさい」

「魔王か。こんなところで出会うとは。おお神よ。聖なる加護を我」

「『煉獄に眠りし、以下省略! クリムゾン・フレアーー』」

轟音が鳴り響くと、爆炎が渦を巻いて差し迫り、勇者ローランを焼き尽くす。


「ぐああああああーーー!!!!」


勇者ローランはプスプスと黒焦げになり、口や鼻、尻といった穴という穴からは煙がもくもくと出る。

数秒動かずに死んだか、と思うと。


「お前らグルだったか。騙し討ちとは卑怯者め。その名を忘れんぞ!魔族のヨシヒロ! それに、魔王ローゼリア」


そう言い残し、勇者は剣とゴールドを落としてその場を早々にとんずらした。



ーー勇者は逃げ出したのだ。



「まったく野蛮な勇者ね。危なかったわ」

「うおおおお、なんてことしてくれとんのじゃぁぁぁぁぁ!!」

せっかくの人間側に戻るチャンスを失ったどころか、悪名だけが広まるパターン。

もう最悪だ。


魔王は拾い上げた戦利品を拾いあげ、まじまじと見つめた。

「50ゴールドと、銅の剣は150ゴールドというところかしら、大したことないわね。ブロンズ級の下級勇者といったところかしら」


「のわあああああ! 勇者を敵に回しちまったぁぁぁぁぁ!! 脱出計画がぁぁぁ!!!」

「あー、もううるさいわね。それに逃げられないわよ。フレイム・ビジョン」


ローゼリアがパチっと指を鳴らすと、ゆらめく炎の中に先ほどのダンジョン・コアが見える。

表面に刻まれた、『二十六』という文字が明滅したかと思うと、カウントが一つ進んで『二十七』になる。


「これでカウントが進んだわ。わかったと思うけど、ダンジョン内では私からは丸見えなのよ」


逃げられないというのは、あながち嘘ではなさそうだ。

エスケープ・キーで脱出できるのは、ソフトウェアだけだ。


「さあ、とっととこのダンジョンを完成させるのよ。”魔族”のヨシヒロさん」


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