14話 魔界ではカレーをつくるのも命がけです
「ヨッシー、着いたよ」
俺が魔界のスカイツアーを終えて降ろされたのは、妖美な森の入口だった。
空を覆うほどの高さの魔界の樹木。
その枝垂れ桜のような葉の色は多くが紫紺色をしている。
ところどころ髑髏のような形をした花が橙色に発光しており、闇路を照らす。
また蛍のような光虫が飛んでおり、幻想的な空間を演出する。
「これが魔界の森か。こんなところにお目当ての野菜があるのか」
「うん。ここは、『ベジタの森』って言って魔界の活きのイイ野菜が採れるところだよ」
「活きのイイって、野菜に使う形容詞なのか?」
「まあまあ、行ってみればわかるって!」
いたずらな表情をして、ハピたすは俺の背中をとん、と押した。
そのまま森の奥へと足を踏み入れていく。
こんなところに食べられそうな野菜があるのか、というのは疑問だ。
魔界の樹々に目を奪われていると。
「おいコラ、待てよ」
「なんだ!? 誰かいるのか」
周囲を見渡してみるも、誰もいない。
「どこ見てんだコラ。ここだよここ」
足元の方から声が聞こえる。
下を向くと、そこにいるのはガラの悪そうなニンジンだった。
シルエットこそニンジンそのものだが、ふてぶてしい顔だ。
腕のようなものも生えているが、胴体から下の部分は地面にすっぽりと埋まっている。
まるで、ファンタジーに出てくるマンドラゴラみたいな感じだ。
「魔界のニンジンは喋るのか」
「俺様はニンジンじゃねえ。チョウセンニンジンだ」
「ニンジンには変わりないだろ」
「ああ? そこいらのニンジンといっしょにするなや。生意気だな? オメェどこ中だコラ」
もはや、ただのガラの悪い輩にしか見えない。
「ハピたす、これもモンスターなのか」
「ううん。喋る野菜だよ」
ふつうの野菜は喋らないので、どう考えてもモンスターなのでは。
「しばくぞコラ」
地面に埋まっていて、どう見てもしばけそうにもないが、とにかく威勢がいい。
「これはね、こうしたらいいんだよ」
そういうとニンジンの頭にあたる草の部分を掴んで力む。
「ぬぬぬぬぬ……」
「な、やめろコラ。引っ張るなコラ。痛い。止めろ、止めろください」
ニンジンも力んで出せれまいと抵抗する。
「アァーーーーーーーッ!!!!」
唸り声とともに、すぽーんとニンジンが地面から抜ける。
抜けたかと思うと、途端にニンジンはぐったりとして言葉を発しなくなった。
「ハピたす、なんなんだこれは」
俺はハピたすがにぎっているニンジンに目をやる。
「これはチョウセンニンジンだよ」
「さっき本人が言ってた」
「やたら挑戦的なニンジンなんだよね~。だから、チョウセンニンジン」
「挑戦的というよりは、ただガラが悪いだけでは?」
「まあ、すぽーんと抜いたら静かになるよ」
「まあ、いいか。次はジャガイモだな」
どうせロクなジャガイモには会えないんだろうな、という不安だけが頭をよぎる。
◇◇◇
考えてみれば本当にロクでもない。
未経験でブラックな開発現場に異世界転生よろしく異世界アサインされた挙句、なんで俺は異世界カレーを作ろうとして、異世界ニンジンやら異世界ジャガイモを見つけようとしているのか。
なんかこうもっと、よくあるラノベの俺TUEEEだったり、異世界ハーレムだったり、異世界チートみたいなものがよかった。なんなら、最近は異世界スローライフだ。
これがもし小説のタイトルだったら、異世界転生ガチャで低レアリティを引いた俺は魔界でブラック労働に勤んでます、的な感じだろうか。
そう、思考を巡らせていると。
「待って。ヨッシー。いるよ」
いるよ、はどう考えても野菜に使う動詞ではない。
ハピたすの手招きに応じて音をひそめて、ターゲットと思われるものを見やる。
見えたのはやたらガタイのイイ人影。
俺は声を落として囁く。
「あれは何なんだ」
「あれは、ジェロイモだよ」
「ジェロイモ?」
某キン肉マンガに出てきそうな、まるでプロレスラーのような出で立ちをした大きな人型のジャガイモ。
どこで入手したのかわからないブーメランパンツを履いており、それ以外はムキムキのジャガイモ。
身長2メートル、体重100キロは超えるであろう大柄な体は、全身ががっしりと屈強な体をしている。
これで、全身がタンパク質でなくデンプンでできているのだから驚きだ。
「まさかだと思うけど、あれも食材だっていうのか」
「うん。全身がジャガイモでできてるから、食べられるよ〜」
「あんなガタイなのに?」
さも当然のようにうんと頷く。
「で、あれはどうやったら倒せるんだ?言っておくけど、俺は戦闘手段はないんだから、バトルは任せたぞ」
自分でも頼りないことを言っているのはわかる。
けれど、適材適所だ。俺は戦闘要員ではない。戦闘はモンスター娘たちの仕事だ。
そう。俺はどちらかといえば、指揮官型だ。
フィジカルじゃなく知恵でどうにかしていく。
「音の鳴る方向に条件反射でラリアットをかましてくるから、そのスキを突くの。だから」
とても嫌な予感がするし、どこかこうなることを予想していた気もする。
ハピたすは大きく息を吸い込んで、胸を膨らませその後、勢いよく吐き出す。
「わっーーー!!」
音に反応したジャガイモ男は肩を怒らせこちらを目掛けて全力で走ってくる。
「イィィモォォォォォタルゥゥゥゥ!!!!」
体当たりを喰らえば、ひとたまりもないだろう。
「ぬわああーーーっ!!」
叫んだらこっちの方に向かってくるのはわかりつつも、逆に叫ばずにはいられない。
土地勘もないし、弱点もよくわからないのでとりあえず全速力で駆け出す。
とはいえ、ふだんから有酸素運動をしていない俺のスタミナゲージは少ない。スタミナ回復をくれ。
「もうムリ。限界」
足がおぼつかなくなり、へなへなと速度が落ちていく。
異世界転生した先で、俺はジャガイモに殺されるのか?
死因:ジャガイモのラリアット
《真空刃―エアリアル・ブレイド―》
真空状態の風の衝撃波がジェロイモを二つに切り裂く。
「イモォ~」
ガタイのわりに頼りない声で、その場にポン!とジャガイモのアイテムが複数個ドロップする。
ハピたすは地面に転がったじゃがいもを拾い上げた。
「う~ん。じゅんちょー、順調。ヨッシー大丈夫?」
もう嫌だ。早くダンジョンに帰りたい。




